第二百四十九話 秋の風
月真院の庭の一角で、シンは洗濯物を干している。
(良い天気だなぁ~)
う~ん、と伸びをした。
伊東が新井を伴って九州に立ったので、屯所の空気がやや緩んでいる。
表向きは西国諸国の探索となっているが、薩摩・長州・土佐の尊攘派との密会が目的だった。
「ふぁぁ~」
気が緩むと欠伸が出てくる。
すると・・
縁側から斎藤と藤堂が連れだって降りて来た。
「相撲取ろうぜ、斎藤」
「やだぜ」
「行司いねぇけど、いっか」
「やんねーっつってんだろ・・っ、聞けよ、人の話」
2人でゴチャゴチャ喋りながら、結局、着物を脱ぎ始めた。
「おっしゃ」
いきなり藤堂が、ガップリ四つに組んでくる。
「うわっと」
斎藤が慌てて体勢を整えた。
2人で唸り声を上げながら組み合っているのを、シンが少し離れた場所から眺めている。
(わんぱく相撲だな・・楽しそうに)
そのまま見物することした。
しかし、なかなかどちらも技がかけれない。
「お、あれなんだ?」
「その手に引っ掛かるかよ」
真剣なのか、ふざけてるのか良く分からない。
すると・・
「もらった!」
「うぁっ」
藤堂の内掛けで、斎藤が仰向けに倒れた。
「いってぇ」
「決まったな」
藤堂がはしゃいだ声を上げる。
「もういっちょ」
「やんねーよ」
「おりゃっ」
「やんねーっつてんだろ・・くそっ」
結局また2人で組みあった。
シンはいつの間にか腕を組んで座り込んでいる。
枡席の観客気分だ。
(なーんか・・じゃれあってると犬っころみてーだな)
シンは、斎藤と藤堂にいいように振り回されているが・・こうゆう小学生レベルの無邪気さを見せられると、結局憎めない。
ふと空を見上げると、秋の高い空に丸い雲が浮かんでいた。
(あーあ・・薫と環どうしてるかなぁ)
そのまましばらく風に吹かれる。
束の間の平穏・・束の間の安息・・。
油小路の変で御陵衛士が壊滅するのは・・3ヶ月後のことになる。
【花さそふⅡ ~内部抗争編~ 完】




