↓ ↑ページトップへ
表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
PR
9/13

第9章 少し騒がしい午後

「ユウ、今日はどこか行くのですか?」


朝食を終えたユウに、室内AIが尋ねた。


「特に決めてないよ」


「午後に交流施設で催しがあります。参加者は同年代を中心に構成されています」


「催し?」


「屋外活動を含む自由交流会です」


「自由交流会って、何をするの?」


「参加者同士で自由に決めることができます」


「それなら、何でもいいんじゃない?」


「その通りです」


ユウは少し笑った。


何でもいいと言われると、かえって困ることがある。


結局、午後になってから出かけることにした。


ノードは連れていかなかった。


以前、交流施設に古い機械を連れていった際、設備管理担当者に何度も確認されたことがある。ノード自身は気にしていなかったが、説明するのが面倒だった。


「留守番をお願いします」


「承知しました」


「何かあったら連絡して」


「何かとは、どのような事態でしょうか」


「……何かあったらだよ」


「分かりました。何かがあれば連絡します」


少し不安だったが、ユウは家を出た。


交流施設は市街地の中央にある。

建物の周囲には広場があり、何人かが集まっていた。


受付を済ませて広場に出ると、聞き覚えのある声がした。


「あれ、ユウじゃない?」


振り向くと、ミサキが手を振っていた。


隣にはルイと、少し離れたところにユウカがいる。


「この前の交流会以来だね」


「うん」


「来ると思わなかった」


「僕も来るつもりはなかったんだけど」


「なにそれ」


ミサキが笑った。


「今日は何するの?」


「知らない」


「え?」


「自由交流会って書いてあったから」


「私たちも知らないよ」


ルイが苦笑した。


ユウカは端末を見ながら言った。


「どうやら、施設の外にある広場で活動するみたい。内容は参加者が決めるんだって」


「それって、運営する気がないだけじゃない?」


ミサキが言った。


「自由ってそういうものじゃない?」


「じゃあユウカが決めてよ」


「どうして私が?」


「頭いいから」


「理由になってない」


そんな話をしていると、広場の向こうから大きな声が飛んできた。


「おーい! そこの連中!」


四人が振り向く。


背の高い男が、片手を上げて歩いてきた。


年齢は二十代半ばくらいだろうか。

短い黒髪に、少し日に焼けた肌。体格もよく、歩き方まで妙に堂々としている。


「集まってるなら、さっさと何か始めようぜ!」


「シン、声が大きい」


ルイが呆れたように言った。


「おう、ルイ。元気そうだな!」


「それはもう聞いたよ」


「何度聞いてもいいだろ!」


ミサキがユウの方を向いた。


「紹介するね。シン。私たちより少し年上で、こういう集まりによく顔を出してる人」


「少しってなんだよ。立派な年上だろ」


「自分で言うことじゃないよ」


「お前ら、年上を敬う気持ちってもんがないのか?」


「ないね」


ユウカが即答した。


シンは一瞬だけ固まったあと、豪快に笑った。


「いいねえ! そういうの嫌いじゃないぞ!」


ユウは少し圧倒されながら、軽く頭を下げた。


「ユウです」


「おう、よろしくな。俺はシンだ」


「さっき聞きました」


「そうだったな!」


シンはユウの肩を軽く叩いた。


「で、今日は何をするんだ?」


「それを今から決めるところです」


ユウカが答えた。


「なるほど。じゃあ運動だ!」


「なんで?」


「なんでって、体を動かすのは楽しいだろ!」


「人によります」


「細けえことはいいんだよ!」


「細かくないよ」


ルイがため息をついた。


結局、広場に設置されていた簡易コートで、軽いボール遊びをすることになった。


シンが勝手にチームを分け、ユウとミサキ、ルイとユウカが組む。


「よし、負けた方は飲み物を奢りな!」


「お金を賭ける必要はないでしょう」


「じゃあ勝った方が好きな飲み物を選べる。これでいいか?」


「それならいいよ」


ミサキが笑った。


ゲームが始まると、シンは思った以上に本気だった。


大きな体を使ってボールを奪い、勢いよく走る。


「ユウ、ぼーっとすんな!」


「ちょっと待って!」


「待たねえ!」


シンの投げたボールが、ユウの足元を転がっていった。


「お前、運動不足だろ!」


「そうかもしれない!」


「よし! 鍛えてやる!」


「頼んでないよ!」


ミサキが笑いながらボールを拾う。


一方、ユウカはほとんど動いていなかった。


「ユウカ、もっと動いて!」


ミサキが叫ぶ。


「必要な場所にいるだけだよ」


「全然動いてないじゃん!」


「無駄に動く必要はないでしょ」


「そういうゲームじゃないんだけど!」


ユウカは相手の動きを見て、空いた場所にボールを投げた。


そのボールは、ちょうどシンの足元を抜けていった。


「おっ!」


シンが振り返る。


「今のはいいな!」


「ありがとうございます」


「でも、次は負けねえぞ!」


結局、勝ったのはユウカたちだった。


シンは悔しそうに頭をかいた。


「くそっ。頭を使うのは反則だろ」


「ルールには書いてありませんでした」


「そういう問題じゃねえ!」


ユウは笑った。


こんなに大きな声で笑ったのは、いつ以来だろう。


ゲームが終わると、五人は施設の休憩スペースに移動した。


シンは飲み物を五つ買ってきて、テーブルに並べた。


「ほら、好きなの取れ」


「負けた方が奢るんじゃなかった?」


ミサキが尋ねた。


「細けえことはいいんだよ」


「シンが負けたのに?」


「年上の余裕ってやつだ」


「ただの言い訳じゃん」


ルイが笑った。


シンはユウの隣に座り、飲み物を一つ差し出した。


「お前、名前は?」


「ユウです」


「そうか。よろしくな、ユウ」


「さっきも言いましたよ」


「何度でも言えばいいだろ」


ユウは受け取った飲み物を開けた。


「シンは、いつもここに来てるんですか?」


「まあな。家にいても暇だし」


「仕事は?」


「あるぞ。今日は休みだ」


「何をしてるんですか?」


「整備関係。古い設備とか、動かなくなった機械を直したりな」


「へえ」


「機械はいいぞ。叩けば直ることもある」


ユウカがすぐに口を挟んだ。


「それは整備とは言わないと思う」


「直れば同じだろ」


「壊れる可能性もあるよ」


「壊れたらまた直せばいい!」


「非効率」


「お前は本当にかわいげがないな!」


ミサキが吹き出した。


「シン、ユウカには勝てないよ」


「うるせえ!」


シンは笑いながら飲み物を飲んだ。


しばらく他愛もない話が続いた。


最近見た映像作品のこと。

街にできた新しい施設のこと。

ミサキが気になっている店のこと。


話題は次々に変わった。


ユウは、こういう時間が嫌いではなかった。


誰かと何かをするために、特別な理由はいらない。

話したいことがあれば話し、なければ黙っていればいい。


そんな時間だった。


「そういやユウ」


シンが突然こちらを向いた。


「お前、最近何してんだ?」


「散歩とか、公園に行ったり」


「一人で?」


「最近は、機械と一緒にいることが多いかな」


「機械?」


「ノードっていう古いロボット」


「ああ、あの丸っこいやつか!」


シンは何か思い出したように手を叩いた。


「知ってるんですか?」


「前に一度見たことがある。ずいぶん古い型だったな」


「そうなんだ」


「今度連れてこいよ。俺、ああいうの結構好きなんだ」


「でも、ちょっと変わってるよ」


「機械なんて変わってるくらいが面白いだろ」


その言葉に、ユウは少し笑った。


帰り際、シンはユウの肩を叩いた。


「また来いよ。今度は負けねえからな」


「次もユウカが勝つと思うけど」


「お前まで言うか!」


ミサキたちも笑っていた。


ユウは三人と連絡先を交換し、施設を後にした。


家に帰ると、ノードが玄関まで歩いてきた。


「おかえりなさい、ユウ」


「ただいま」


「本日は予定よりも長い外出でしたね」


「楽しかったよ」


「それは良かったです」


ノードは少し間を置いた。


「何か、良いことがありましたか?」


「友達ができた」


「以前の三名でしょうか」


「うん。それと、シンっていう人にも会った」


「シン」


「うるさいけど、面白い人だったよ」


「うるさいことは、面白いことなのですか?」


「場合によるかな」


ノードは首を傾けた。


「難しいですね」


「そうだね」


ユウは靴を脱ぎ、部屋に入った。


「今度、ノードも連れていくよ」


「私もですか?」


「うん。シンが会いたがってた」


「私に会いたい人間がいるのですか」


「そうみたい」


ノードはしばらく黙っていた。


「それは、少し楽しみです」


その日の夜。


ユウの端末に、ミサキからメッセージが届いた。


『今日は楽しかったね! また遊ぼう』


続けて、シンからも届いた。


『次は絶対勝つからな!』


ユウは短く返信した。


『また今度』


端末を置く。


何も特別なことは起きなかった。


世界が変わったわけでもない。

何か大きな秘密を知ったわけでもない。


ただ、知り合いが増えた。


それだけの一日だった。


一方、その頃。


管理システムの記録には、新たな情報が追加されていた。


『対象:Y-031』


『本日の交流人数:4名』


『新規接触者:S-018』


『交流時間:予定を超過』


『情動変化:肯定的』


『特記事項:旧型機械 NODE-07 との継続的な接触あり』


記録は保存された。


その情報が、どこか別の場所へ送信されたことに、誰も気づかなかった。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。