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「魔法とは、なんと美しいのだろう」
絶対的な規則によって管理され、規則が破られることも、無視されることも、偏頗されることもない。
この不公平な世界において、それはまるで暗闇に灯る一筋の光のように、人々にわずかな希望をもたらしていた。
だが、その魔法の素晴らしさを知りさえすれば、誰もが人間に失望するだろう。
世界最大の可能性を秘めながら、それを決して開花させようとしない人間に。
人間の心は、決して一つに繋がることはない。いつだって様々な利益のために裏切り合う。
種族の利益、国家の利益、領地の利益、あるいは、極めて個人的な私利私欲のために。
繰り返される裏切りの裏で、正直な者や弱き者は、常に犠牲にされ続けてきた。
このような結果を招くのは、人間を縛る「絶対的な規則」が存在しないからだ。
各国が定めた法律はある。しかし、それらを細かく見ていけば、一つの共通点に行き着く。
――それはすべて、上位者によって書かれたものだということだ。
法律の拘束力は、完全にその背後にある「力」によって決まる。力の裏付けのない法律など、誰も気に留めやしない。
たとえ背後に力があったとしても、そんなものは所詮、無用な長物だ。
「法律を犯せば、刑罰があるではないか」
と思う者がいるかもしれない。
だが、遅すぎる罰など何の意味もない。最も助けが必要な瞬間に、それは手を差し伸べてはくれないのだから。
その上、本当に法を犯したとしても、正当な罰を受けるとは限らない。
誰にも見つからなければ、罰せられることなどないのだ。
国家や上位者に利益をもたらすのであれば、是非など簡単に覆される。
法律とはいつだって、上位者が弱者を管理するための道具に過ぎないのだ。
弱者は上位者に管理され、上位者はさらにその上の者に管理される。
この世界に、そんな無用な存在は必要ない。
もっと公平で、もっと絶対的な規則を創り出さねばならないのだ。
もし、それが叶うのなら、こんなことは起きなかったはずなのに。
もし、それが叶うのなら、彼はあんな風になってしまわずに済んだのに。
もしも、叶うのなら――。
今夜の雨は、酷く激しく降り注いでいる。空には月もなく、星すら見えない。
全身の力を失った俺は、ただ地面に横たわり、空を見上げていた。
本来そこにあるはずの屋根はとうにその役目を失い、雨粒が容赦なく俺の体に叩きつけられる。
灰を孕んだ雨粒が、傷口を刺すように痛む。
周囲の空気には、血の生臭さと、死体が焼ける匂いが混ざり合っていた。
どれほど雨が降ろうと、この火を消し去ることはできない。
襲撃者の身につけていた家紋を目にした時、俺は悟ってしまった。どんなに抵抗しようと、俺には微かな変化すら起こせない。ただ目の前で起きる惨劇を、指をくわえて見ていることしかできないのだと。
今夜起きたすべての出来事は、今夜の夜空と同じように、誰の目にも触れることなく闇に葬られる定めなのだ。
――もしも、このすべてを変える機会があるのなら、俺はすべてを捨てても構わない。
たとえ、すでに過ぎ去った過去を変えられないのだとしても。
四方八方から、無数の視線が俺の一挙一動を凝視している。
俺が手を下した瞬間に制止するべき近衛隊すら、ただ静観し、ことの成り行きを任せていた。
最後の階段を踏みしめる前、俺はぐるりと周囲を見渡した。
そして、俺の視線は――唯一の友人にとどまった。
俺は血溜まりの中から王冠を拾い上げ、友へと最後の別れを告げる。
「――ごめん。それと……お前なら選択を誤らないって、信じてるよ」




