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聖女ではなく奴隷  作者: 雨花
召喚された聖女
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02

 朝食を終え、諸々の準備を済ませばいつもの部屋と向かうことになる。

 毎日部屋から部屋へと移動するだけで、未だにこの建物の中がどのような構造をしているのかさっぱりわからない。

ただ、この城の中はとても広いということはわかる。

 コツコツと石の床を歩く音だけが厳かに響く。


 この力を使うことは憂鬱ではあるものの、人を救うことができるという点については素晴らしい能力なんだろうと思ってる。

 けれど、その素晴らしいと言われている能力は、私が犠牲にならなければ発揮されるものではない。


 この世界には昔から黒煙病と言われる不治の病ともいえる病気が、定期的に猛威を振るうらしい。耳慣れない名の病はどうやらこの世界特有のものらしい。

 体を黒い煙が覆うかのように皮膚に黒いあざが這いまわり、その変色した部分は痛みを伴う。そうしていずれは全身へと回るそれは、発熱や食欲不振などと言った症状も引き起こし、最後には苦しみながら死んでしまう恐ろしいものだ。

 未だ治療方法が確立されていないどころか、一定の年齢に達していない子供にのみ発症するということ以外解明されていないそれを治すことができるのは、異世界から召喚された聖女。というのがここへと連れてこられて説明されたあらましだ。


 そして今回の聖女として召喚されたのが何故か私だった、ということで私はその使命を果たさなくてはいけない。

 聖女の力でしか治療できないから召喚された。と言えばとんでもない力をもっているとんでもないすごい人。みたいなことになるけどそれはちょっと違う。というのも、この治療には代償が必要なのだ。

治療をするのは私なのだから当然、この代償を支払うのは私になる。

その代償というのは、治療する代わりに私が体に病を取り込む、ということだ。


 黒煙病に罹った人のように皮膚に黒いもやもやとした模様ができるわけではないのだけど、身の内をむしばまれているのは感じる。治療を施せば施すほどに体が重くなり、発熱する。心臓はどくどくと早鐘を打ち、耳の中で血液が流れる音が響く。目はかすみ、頭痛や吐き気などの症状も現れる。間違いなく寿命を削られていると感じる症状が体に現れるのだ。

それに比例して病人だった子供たちは元気を取り戻す。皮膚を這っていた黒いあざのようなものは徐々に消え、完全に治すことができれば起き上がることもできなかった子も数日養生すれば以前のように元気をとり戻す。


 子供たちが元気になるのに比例して、私は体調を崩すので夜には起き上がることさえできなくなる。朝から治療して夜には半ば気絶するように眠りにつくので、自ずと食事を摂ることもできずに体重は減少し続ける一方だ。

 最初の頃は痩せたことが嬉しいと思っていたが、今ではそうもいっていられなくなった。

食べなくてはみるみる痩せていくので、朝食にカロリーの高いものをできるだけ食べるようにしている。


 だけど聖女だから。

 聖女として召喚され、私以外には治療を施すことができないから。

 これはしょうがないこと。

 そう思い、ここ二月ひたすらに頑張ってきたのだけど、それも一週間ほど前に折れた。

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