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プロローグ
聖女ではなく奴隷だ。
ここに召喚と言う名目で無理やり連れてこられてもう二月になる。
疲れているだけではない体に蔓延る倦怠感で今にも意識を失ってしまいそうだ。それでも水分補給だけはしておかなければとグラスの中に注がれたレモンに似た風味のフルーツが浮かぶそれを口に含む。爽やかな香りが鼻を駆け抜け一息ついた。あまり飲むことも出来ず、半分ほど残してグラスをテーブルへと置く。それでも気分は幾分良くなった。このまま眠りたいところだけどそうもいかない。
ふぅ、と息を吐いてから椅子にもたれかかると、それまで黙っていた男が声をかけてくる。
「呼んでもよろしいですか?」
よろしくないです。そう言えればいいのだけどそうもいかない。声を出すのもだるく、頷いて返事とした。それを確認するやいなや部屋を出て行くのを見届ける。出来るならそのまま一時間ほど帰ってこなくていい。だが私の願望をすぐさま彼が戻ってきたことによって潰れた。
「聖女よ、頼むぞ。娘を助けてくれ」
もう何十回と繰り返す会話には頷くだけにした。






