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兵士Aの独白


こんにちは。

僕の名前は…と、こんな自己紹介をしても意味がないと思うからやめておくとしよう。(独白といえば、ただの独り言ってことだからね)

僕の両親が小さな村で農作業を営んでいる。兄弟も十人くらいいる大家族のちょうど5男坊の僕は村の中で初めて王宮の騎士として城にあがれることになった。

自慢かって?…まぁ、自慢したくはなるけどおいておくよ。自分の幸せが何かは自分で決めることだからね。僕の上の兄さんたちは皆結婚して家庭をつくりながら農夫せっせと桑や鍬を耕して生活している。それはそれで楽しいと僕は思うんだ。だって、人を傷つけたり、人の死と隣り合わせ…なんて生活にはなってないしさ。そりゃ、僕も騎士であることに誇りは持ってるよ。数ある魔物たちから大切な家族や友人を守りたくて、必死に騎士を目指したんだから。まぁ……今はそんな脅威も薄らいで平和と呼べる生活をしているけど。

それもこれも皆、異世界から呼び出された勇者様がたのおかげだよね!うん…、おかげだよ、うん…。


なんか反応が微妙だって?

いやいや、まさか!僕はね、ほら、やっぱり魔物なんて規格外なものと戦っても華々しく死ぬだけだし!というか、むしろ死ぬ以外の選択肢がもともとないくらいだし!

だから勇者様がたが魔物を倒してくれたことは、万々歳!

これで先輩や友達が死地に旅立つのを歯痒い気持ちで見る必要がなくなるからね。

やっぱりあれは辛いよ…

赴任先が決まって、そこの魔物出没率が高いほど死ぬ確率が増えていくんだし。僕の友達も何人か赴任して…結局…だったからね。

いや、うん…なんかごめん。

暗い感じになっちゃって…

僕、あの時の友達の顔とか今だに忘れられなくてさ…。僕らもそれを覚悟してなった騎士を目指していたわけだけど、それでも語るのと経験するのとでも全然違うし…。

正直言うと、もう少し早く勇者様がたが来てくれてたらなってよく思うんだ。そしたら皆死ななかったわけだし、何よりもこれだけの被害を早めに抑えられたんだろうって思えるから。

…まぁ、それも今となって言えることだけどね。

それに勇者様たちのおかげで、これから消えようとしていた幾つもの命や、彼らが死んでも守りたいって思ってた人たちを守れたんだから、彼らもきっとすごく満足していると思う…。


そんなわけで今ではすっかりお祝いモード。

魔族の脅威は去ったけど、いつ何時として国に危機が訪れるか分からない。だから気を緩めずに騎士鍛練を続けようと思うんだけど…



「今日も飲みに行くぞー!」



「「「「おーっ!!」」」」



…すっかりお祝いムードな今日この頃。

それだけ今までがピリピリしてたから、その反動だとは思うんだけど…副隊長。はっちゃけすぎです。

貴方、今日で飲みに行くの何回目ですか。

軽く両手で数えても足りないくらい行ってますよ…。

僕も初めは嬉しくて仕方なくて副隊長に連れられて先輩や同僚たちと飲みに行ったりしたけど…副隊長、気付きましょう。

後ろで静かに素振りをしていらっしゃる隊長の眉が眉間に寄られていることを!!

我等、騎士たちが誇る隊長はまさに騎士として憧れてしまうほどの御方。少々筋肉質すぎる部分もありますが、男の僕でさえ見上げてしまう身長と、歴戦を勝ち抜いた者にだけ与えられるというその覇気には敬服するしかありません!

左眉に若干の傷痕が残って、それが厳めしい顔をさらに厳つくしているけれど、そんなのは問題なし。男たる僕からしたらそれすらも隊長の魅力に思えます…怖いけど。

いやいや、そりゃね!?僕はまだまだ新人騎士だから隊長ほど別格の御方は畏れ敬う対象だからね!?怖いっていうか、まぁ顔も少し…すこぉーし怖いんだけど、仕方ないでしょう!?

練習の一貫として隊長と対峙した時の凄みや気迫が、あまりに怖くてしばし夜中に悪夢にうなされていたのはつい最近のことでもあるんだから!(泣)

とにかく隊長のその気概は見惚れるけど、それに加えた仏頂面(無表情ともとれる)、鋭い眼光。

…ちびりますよ、はい。


そんな隊長が睨んでいらっしゃるんですよ!?副隊長、貴方にはその眼光の意味が分からんのですか!!

遊び大好き☆な副隊長とは違い、隊長は超がつくほど堅物で真面目な御方。

だから、練習中に飲みに行く算段をしている我々に業を煮やしてるに違いありません!


あぁ…!ほら!

隊長が眉間に寄せた眉をピクピクしていらっしゃるぅううう!!

副隊長!そろそろ仕事に戻ったほうがいいかと!

歓楽街の案内は分かりましたから!いい店探しておきますから!いい娘紹介しますから!!


隊長が素振りを終えて、ズシ、ズシという効果音と共にこちらへ…もとい、浮かれる副隊長の元へと歩んでいかれ…っ!



「あ…姫様」



誰かが呟いたその一言。

隊長の身体がビシリ、と凍りついたように動かなくなりました。

…良かった。副隊長、貴方はほとほと運がよろしいですね。


皆はもう知っているかな?

我が敬愛する陛下の妹君にして、至高の姫君。

陛下とよく似た輝かしい太陽のような髪色をし、空よりも澄んだ瞳をお持ちになる陽だまりのように優しく麗しい姫。

彼の姫君に憧れている騎士など星の数ほどいて、もちろん僕も例外じゃない。

兄である陛下と同じような容姿なのに、姫はほんわかとした春の陽射しを思わせ、陛下は夏のサンサンと輝く太陽を思わせる。似て非なる兄妹は、我が国の大切な宝。

その宝を身近で守れる身になれたことは本当に幸運としかいいようがない。

大袈裟に言い過ぎだ、って?

ふっ、そんなことを言う奴がいたら僕…ちょおっと理解ができないな☆


姫君は本当に可愛くて綺麗で…僕みたいな田舎者からしたら雲上人。騎士になれなかったら一生会うことはなかった。だから、騎士になって本当に良かった〜ってこういう時に思わずにはいられないよね!

ほら、それにさ、よく言うじゃん?騎士と姫君、身分違いの恋物語り…みたいな。

そんなちまたでしか流行しなさそうな物語、現実と夢とは違うから実現するなんてまずありえない!…とは思うんだけど…まぁ、騎士になりたてほやほや君だったら、期待しないと思いつつ期待するんだよなぁ…。本当、馬鹿…。


それに例え夢は夢でも、姫君はもう予約済み…っていったら不敬かもしれないけど既にお相手が決まっている。

それが驚くべきことに…あの、笑う子が泣きわめく形相をおもちの隊長なんすよねー。

……なぜ?

あ、あ、いやいやいや!別にそんな隊長羨ましいーとか、裏組織も裸足で逃げ出しちゃいそうな怖面の隊長に何であんな可愛いを体現したような姫君が惚れてんのーとか、とか、とか…思ってるわけじゃ……ないですって!

並ぶ姿がどでかい野生熊と仔ウサギちゃん…のようなそうでないような、でもやっぱりそうであるような感じではあるけど!!

世の中ってのは全くもって不可思議だ。うん、人生決まりきったことなんてあるわけないんだ。それが重々分かりましたよ。

物語のような話みたいではあるけど、まさに騎士と姫の恋物語。…とある副隊長が言うには、野獣と美女の奇跡の物語だとか…いや、僕が言ったんじゃないよ?あの副隊長だからね?

と、まぁ…外観的には色々と問題があるお二方ではあるけど、ほのぼの初々しいピンクオーラは正直、僕たちのような男世帯の騎士団にとっては目の毒、耳の毒、鼻の毒。てか、全てが毒!!

初々しいのはいいけど、だだ漏れラブコメモードは止めて下さい!隊長!!

ぶっちゃけ辛いです!

色んな意味で辛いです!!

初めは脇腹が痛かったんですが、最近では心が痛いんでマジ止めて下さい!いちゃいちゃは二人っきりの時にお願いします!

初々しいカップルの恋模様は周りから見るとなかなかにじれったい。

しかも、肉食野獣みたいな顔をして(僕じゃないから!某副隊長が言ってただけだから!)隊長は女性に関しては無頓着かつへたれだ。

だから、ほとんどが意外と積極的な姫君のアプローチで、亀よりもさらに遅い速さで恋は順調に育ってきている。

僕が騎士団に入る前から続いているらしいから、かれこれどのくらい続いているのかはよく分からない。

けれど、一言言うなら…

羨ましいです、隊長。マジでコンチクショーなんですけど、隊長。

今日も今日とて姫君は隊長にアプローチ中。あんな美少女に応援されるなんて…はぁ、僕も応援されてみたいよ、本当。

あ、でも実は僕らにとっては姫様の御顔をちゃっかり拝顔できるチャンスと同時に、騎士団の中ではもう一人、別のチャンスの狙ってる輩が数多くいる。

それが、姫君の第一侍女のラシェルさんだ。

本当は僕のほうが年上ではあるらしいけど、ラシェルさんは僕より長く城で姫君に仕えているし、何より纏う空気というかオーラ?が近寄り難い感じがして、気安く呼びすてやちゃん付けができない今日このごろ。

僕はへたれではないからね?

へたれは隊長だからね?…あ、これ僕が言ってたのは内緒だから!!


と、話は戻すけど、ラシェルさんは姫君に負けないくらいの美少女…って訳でないけど印象的な、どこか惹かれてしまう要素がある可愛い少女だ。

印象的、っていうのはやっぱりラシェルさんの髪色や瞳にある。ラシェルさんはすみれ色の、透き通るような紫色の髪をいつも後ろ頭で引っ詰めていて、瞳は光の加減によって青にも緑にも見える綺麗な碧色をしている。ほっそりと肢体にも関わらず、スタイル抜群で(ここ重要!)物腰の柔らかさと静かな佇まい、そして無口とも取れる寡黙さが騎士団にいる男たちにとってはツボになるらしい。

ラシェルさんのファンは騎士団だけに限らず、城仕えする侍従や貴族たちにもいるらしくて、敵はかなり多い。

だけどラシェルさん自体に恋人がいるという噂や話もないから、諦める男たちは今のところはいないらしい。

そう、今のところは…だけどね。

何が言いたいかって?

そんなの、見てればすぐわかるよ。

まずは…



「陛下もお見えになったようだぞ」



「本当だ。相変わらずよく剣の稽古にいらっしゃるな。稽古をつけなくても、あれだけ強いのにさ」




呑気にそんなことを言う同僚たちだけど、僕は違う。

ちゃんと分かっている…なぜ陛下が剣の稽古にいらっしゃるのか。

それは何を隠そう、陛下はラシェルさんがいるから剣の稽古をしにいらっしゃるんだ。

ほら、好きな子には自分の良いところを見てもらいたかったりするだろ?それだよ、それ。陛下のはまさにそんな思春期を迎えた少年のひたむきな恋への努力。

あー…自分で言ってて背中がぞわっとした!思春期を迎えた少年て!陛下は御年2〜年になられるのに!いや、まぁ純情少年みたいな陛下もカッコイイけど!!

とにかく、陛下がラシェルさんを好いているのは僕からしたら一目瞭然で、姫君が隊長の練習風景を見に来る時間になるといつも陛下が現れる。

姫君の侍女であるラシェルさんもその時、姫君と一緒に僕たちの稽古を見に来るからだ。

陛下は王太子殿下でいらした時には、この騎士団の隊長をしていらっしゃった実績をもち(今の隊長はその時に副隊長だった)、さらには国政にも民のために常に尽力を尽くされていた素晴らしい方。

文武両道とはまさにこの事。

それに加えて容姿の美しさなど、…言わずもがなだ。

そんな陛下だからこそ、他国やこの国の貴族たちからも縁談や結婚の催促など多々あるのだが、陛下は今だ独身。

これが意味することはただ一つ。陛下はラシェルさんを妻に迎えようと今、必死に求愛中なのだ。

確かに身分差という問題もあるが、もともと身分に特別うるさいのは名高い貴族たちだけで王家自身は、民の中から王妃を娶った王もいらっしゃったくらいだからそこまで身分にこだわりを持ってはいないようだ。

だから、後は陛下がラシェルさんに求愛し、結婚の承諾をまとめれば後は全てがトントン拍子で行くだろう……はずだった。


なぜ、はずなのか。

それはもうこれまたあの勇者様たちがいるからだ。

魔王を倒してくれた、異世界の勇者様たち。そりゃ、僕たちの都合で呼び出して、魔王を倒したら、はいサヨナラなんて非道なことは言えないけどね。

僕がみる限り、あの勇者様たちの、しかも四人ともがラシェルさんを好いている。

ラシェルさん人気だからなぁ…僕はちょっと怖いけど。

勇者様たちも陛下に負けず劣らず…とも言いたくはないけど、陛下の楽勝とは言い難いほどの容姿端麗、そして魔王を倒すほど神の恩恵を受けた力をもつ方々…。ぶっちゃけラシェルさんのほうが隊長と姫君の恋物語よりすごい物語ができあがりそうだ。

と、いうわけで魔王を倒し、だけど元いた世界に帰れないという勇者様がたは今はこの国で庇護していて、王宮で暮らしている。時折、冒険者(勇者様たちが新しく作り出した職業)として、魔王に侵略されていた際に魔界から移り住んできた魔物たちの討伐に出かけ、そこで魔物の皮を剥いで、新しい武具を作るようにと武器職人に渡しているらしい。これがまた民にまで広まり、今や冒険者はうなぎ登りの人気を誇る職業として認知されるようになってきた。これがまた新たな国の財源となり、魔物により行き場をなくした者たちへ救済にもなっているのだが…勇者様への借りは今やこの国には返し切れないものがある。

だから、陛下も勇者様たちがラシェルさんを好いていると分かっていてもむやみに勇者様を追い出したりできないらしい…と、副隊長が言っていた気がする。


うん、我らが偉大な陛下は公明正大でいらっしゃるからなぁ…あ、勇者様たちまで稽古に来たから仏頂面してるけど。

勇者様たちも互いに牽制しあい、かつ陛下や他にもいるラシェルさんファンを威嚇するのに遠慮をする気はないらしい。

もっともだけど。



でも、でもさ?

僕が一番思うことだけど…

ラシェルさん、全然そのことに気付いてないよね?

気付いてないどころか…陛下も勇者様がたも視界に入ってないように感じるんだけど…!!

今も勇者様や陛下が騎士たちに囲まれながら、切り捨ては投げ、切り捨ては投げ、を繰り返しているのに、その方向をちっとも見てやしない!(ちなみに僕は四人の勇者様たちの一人であるアオイさんに切り捨てられた)

陛下、そんなに期待した目で見てもダメですって!ラシェルさん、姫君と談笑してて全然こっち見てませんし!!

ラシェルさんも、ちらりと視線を投げかけたりはするけど(姫君に指で示された方向を見ているだけにすぎない感じだけど)、一切興味なさそう!

仕方なく見てる感じ丸出し!


僕だったら全然見てないってのがわかると諦めちゃうけど、陛下はもちろん勇者様がたも諦めずに自分の勇姿を披露している。それに付き合わされる僕らが1番の被害者となってるのは気のせいじゃないよね…?(次はトオルさんに切り捨てられた…すごく痛い)

そんなこんなで練習用メニューなんて軽く越えた超スパルタメニューをくらって、また明日もボロボロになってることだろう……今なら魔物を倒せる気がする。

僕たちがあらかた切り捨てられると、次は隊長が陛下に切り結んで行って、切り捨てたり切り捨てられたり……しかし、この時に実は練習とは言えない本気のバトルを繰り広げられていることを僕らは知っている。なぜなら姫君は隊長の勇姿を見るためだけにここにいらっしゃって、さらには隊長も姫君には良い姿をみせたい。これだけならまだいいが…姫君が隊長に視線を向けるということはつまり…ラシェルさんも姫君と同じように視線をそちらに向けるということ!…と、いうことは隊長と戦っている陛下の姿もラシェルさんの視界には入ってるはずで…!

好いた女に、自分の勝ち姿を見せたい恋する男が二人…これはもう本気と本気の勝負になるより仕方ない。

しかも、だ。ここには恋する男が他に四人いるわけで……

…大乱闘と化すのは必須だよね。

ほとんど揉みくちゃになりながら、戦いをつづける恋する男6名。…魔王倒すぞ、って訓練していた時よりも必死ですよね、隊長。


6人の男たちが必死に自己アピールをする中で、姫君はもちろん隊長しか見ていない。ラシェルさんはというと…

……欠伸してるし!!!

剣を振り上げながら戦う(模擬実戦だから真剣ではないけどね!)恋する男たちを見て思う…。


陛下、勇者様、

ラシェルさんを落とすのは魔王攻略より難しいと思われます。





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