第46話 これで終わりにしよう
天使の涙。それは大翔たち古代の先人から教えられた最終奥義。一人が魔法の構造を、もう一人が魔力の供給をするという大型魔術。
「人間が出来るはず……」
ミカエルはグレイと目白の二人が作り出す圧倒的な魔力に驚きを覚えている。横を見てみると目白の顔にはもうかなり疲れが溜まっているようだった。
「「天使の涙!」」
上空にいるミカエルに向かって二人で作り出した白い球体を撃ち出す。対するミカエルも星の数ほどある魔法を一気に撃つも、天使の涙を前にするとまるで歯が立たなかった。あまりの光でよく見えなかったが、ミカエルはその身で魔法を喰らう。
「やったか……?」
地面にどたんと音を立てて頭から垂直にミカエルは落ちた。
「やはりお前は面白い! お前たちには惚れ惚れしたぞ!」
「何をする気だ」
地面に墜落したミカエルが翼をうまく使い再び空中に飛び立つ。空に飛び立ったミカエルは手を大きく広げ上空に亀裂を走らせ、その亀裂の先からは大量の天使が現れた。
「ご主人様、お呼びでしょうか」
ミカエルの後ろについた一人の天使がそう喋りかける。
「少しの間でいいから時間を稼げ」
簡潔に言ったミカエルは天使がやって来た亀裂へと入っていった。大量に出て来た天使を見てグレイは一旦、目白を近くの瓦礫に座らせる。
「あの量はキツイぞ……」
目白もグレイもだが、天使の涙を一発撃っただけでかなり疲労が溜まっている。そんな中でも剣と魔法の二刀流で天使の撃ってくる攻撃を受け流していく。
あまり取りたくない策ではあったがこの量の天使を相手するのはグレイとしても難しい。そのため苦渋の決断をして天使を一人一人倒していく。
「獄炎球、からの相乗魔剣・雷丸!」
倒した瞬間に天使は虚空へと消えていった。一人一人の戦力はそこまでだが、数がありえないほどに多い。
しかも天使だって何もせずに空中にいるわけではない。天使は一人一人が光弾をそれぞれ撃ってきている。縦横斜め全方位に注意をしつつ、グレイは天使を攻撃し続ける。
「しまっ……」
調子良く天使を倒していた時のこと、グレイはようやく気がつく。知らない間に天使の光弾が目白の背後を取っていた。
彼女からはかなり距離が空いていて、魔法を撃っても間に合わない。しかも目白は天使の涙を撃つために構築された回路を作り、疲労が溜まっているため動くことができない。
「グレイ様!」
間に合わないと思い、諦めかけたその時マロンの声が聞こえた。目白に向けられた光弾は軌道を変えて真横に動く。
「どうしてここに?」
「グレイ様と目白様を助けるためですよ。ここは私たちにお任せして下さい」
「でも……」
マロンの後に続いて扉の先からノアとフィオナもやって来た。グレイはマロンの口から出てきた衝撃の言葉を詰まらせる。
「グレイ様たちにはやるべき事があるんじゃないんですか?」
「……分かった。でも、こいつらは油断したらすぐに攻撃を喰らうから気をつけろよ」
そう言ってグレイは目白の方へと近づく。彼女の体に溜まった疲労はようやく抜けたようで、グレイは魔力を使い二人の体を浮かした。天使たちを右へ左は避けながらミカエルの消えていった亀裂に入る。
「懐かしいな……」
「そうね」
亀裂の中に入ると地面に足がつくようになり、目の前の景色が真っ白になった。よく観察してみるとそこは一〇数年前にグレイが初めてミカエルに出会った場所だった。
「まさかこの期に及んでまだ抵抗するとはな」
以前この場で会った時と同じ場所のようにミカエルは奥から現れる。ミカエルの手には藍色の毒々しい色をしたガラス瓶が握られていた。
「おまっ……やめろ!」
ガラス瓶の先に銀色の針が付いているという事に気が付きグレイが叫ぶ。中に入っている液体を見てミカエルは何かを思い出したかのような表情を浮かべる。
「そういえばお前たちも海底都市に行っていたな。なら、これを知っていて当然か。だが、これは海底都市とは一味も二味も違う」
「海斗くん、あれは?」
目白がミカエルの持っている注射器を指さして聞く。そういえば、目白は寝ていたから知らないのか。
「ウィリアムとかメランダの姿を変えた薬だよ。あれを体に撃つと身体能力が飛躍的に向上するんだ」
「そうだ。ただこれはウィリアムが海底都市に入れ込む前に地上で作り出したものだよ。天使の羽からごく僅かに取れる粒子を一つにまとめたもの。まさか海底都市でも同じようなものを作り出すとは思わなかったがな」
話をしている最中にミカエルは自分の手に持つ注射器を右腕に差し込んだ。そして中の液体を思い切り体の中に入れ込んでいく。
だが海底都市の時のウィリアムのように体の肥大化はない。加えてメランダのように体がドロドロの液体になる事も無かった。
「どうだ、これは素晴らしいだろう」
けれどミカエルの右半身が黒く様変わりしている。純白のふわふわとした翼は真っ黒な堕天使のように鋭くなっていた。ミカエルは両手を大きく広げて先ほどまで持っていた大剣を一振りした。
「ぐおっ……」
「くっ……」
とっさに作った魔法障壁で守ったグレイも、剣で防いだ目白も二人とも壁のない空間で数十メートル吹き飛ばされる。
「一振りでこれかよっ……」
地面からゆっくりと立ち上がりミカエルの姿を再び視認した。完全に立ち上がり切るより前に持ち前の反射神経で横に飛び込んだ。直後に青白い光がピュンと高い音を立てて、白い地面が焼け焦げた。
「目白、剣はやめた方がいい」
ミカエルの方を見るよりも前にレーザーのように飛んで来た青白い光を見てすぐに指摘する。レーザーの光自体が密度の高い魔力の塊になっていたのだ。いくら剣を極めていたとしても魔力を前にして見れば負けるのは見えている。
「グレイ、こっちに来て」
鳴り響く甲高い音の中で目白の声がかすかに聞こえた。雨のように降り注ぐレーザーを魔法障壁で守りながらグレイは突き進んでいく。
「今から言う作戦を実行するのに手伝ってくれない?」
「——えっ? それは目白が……」
「今、勝つにはこれしか無いのよ」
「分かりました」
小さくグレイが頷いた。グレイが目白から聞いた作戦はこうだ。まずグレイが、ミカエルの気を引いている間に急いで目白が再び天使の涙の術式を準備。時間を稼ぎグレイが目白の方へと天使の涙を撃ち込む、というものらしい。
天使の涙の破壊力は既に先ほどのミカエルで証明済みだ。それを分かって目白は天使の涙を自分に撃てと言ったのだろう。もちろん彼女の体にのしかかる疲労をも想定して。
「じゃあよろしくね」
「はい」
グレイは目白と目を合わせ再び首を縦に振る。彼女を守る魔法障壁よりも前に立ちミカエルの方を向いて身構えた。




