第45話 さあ行こう
「「グレイ様!」」
フィオナの鎖の紋様の治療を終えて数分後。グレイは避難誘導を先に行っていたマロンとノアに魔封石で連絡を取った。
ミカエルの作ったこの塔の中へ直接、瞬間移動するのは不可能ということだったので、わざわざ塔の入り口へと来てもらった。
「魔力で上に上がるぞ」
階段は既に壊れてしまっていたため、魔力を使って三人でフィオナのいる場所へと上がる。あの落ちている時も魔力を使えば助かったのに、と思ったのはつい先ほどだった。
「申し訳ないけど、フィオナの面倒を見ておいてくれないか?」
「分かりました」
「はい」
流石にフィオナを一人っきりでここに置いていくわけにはいかないため二人を呼んだのだ。グレイたちもフィオナの目が覚めるまで待ちたい気持ちは山々だが時間がない。
「後はよろしく頼むぞ」
「「はい」」
そう言うとグレイは目白と共に四人でミカエルの入って行った扉を開ける。この階が最上階だと思っていたがこの先には更に上へ続く階段があった。
「まさかこの先にも階段があるとは……」
最後尾の大翔の声が狭い通路になっているせいで声が反響して聞こえる。数分も経たない内に本当の最上階であろう扉が姿を現した。一度だけ扉の手前で足を止めて後ろにいるみんなの顔を確認する。
「ミカエル!」
グレイは扉を壊す勢いで蹴り、思い切り叫んだ。先ほどのような礼拝堂とは打って変わった景色だった。天井が高く全面ガラス張りになっており、そこからは無数の星が空を覆っていた。
その景色を見て思いついた言葉は聖堂だ。一番奥にはミカエルが宙に浮き、白い翼を広げ大天使というに相応しい姿になっている。手には少し大きめの銀色に鋭く輝く剣を装備していた。
「ほう、鎖の紋様を解いたのか。まあ、全てはそこにいる記憶のせいだろう? 残念だが君たちの出番はもう終わり。主人公はお前たちじゃない」
剣を天高く上げると、天井に貼ってあるガラス全てが大きな音と共に割れる。破片が体に当たらないようにグレイたちは魔法障壁を使う。夜空に光る星々の光がミカエルの剣に集結し眩しい光を出す。
「なぁっ」
「うぅぅ……」
大翔は叫び、クレアは頭を押さえて地面にもがき苦しんだ。
「ミカエル! あなた何をしたのっ」
「記憶を消したんだよ。少し邪魔だったのでな」
気が付けば大翔とクレアの二人は空気のように消えていった。それを確認したミカエルはグレイたちに向けて喋り出す。
「お前たちのお陰でようやく力を取り戻せたぞ。こんな風にな」
喋っている途中に宙に浮いていたミカエルが残像を残し消えてしまった。どこに行ったのかとパニックになり体を回しながら探し続ける。
「つよっ」
目白は真正面に現れたミカエルに反応することができていた。しかし剣に魔力を流し強化していたのにも関わらず、後ろへと吹き飛ばされた。目白が壁に当たっただけで壁はいとも簡単に割れてしまった。それだけでミカエルの攻撃が強すぎることを示す。
「んんー、久しぶりにこんな事をしたが意外とやれるものだな」
手を伸ばしリラックスしながら、ミカエルは気持ちよさそうにする。そう言った途端にミカエルはグレイの前に現れた。
目の前でミカエルを見たからこそ分かったことだが、彼女もフィオナと同じく瞬間移動を使っている。魔力を使わずに目測で飛んでくるという人間離れした力だ。
「ならこれで!」
ミカエルと力勝負になってしまえば、負ける事はほぼ確定だろう。目白の失敗を見てグレイは敢えて、ミカエルにではなく地面に向かって魔法を撃つ。
「獄炎球!」
着弾するギリギリの場所で自分の体の周りに密着させる形で魔法障壁を作る。流石のミカエルもまさか地面に魔法を撃つとは思っていなかったようで、爆風を丸々全身で受けた。
そこに目白が間髪入れる事なく、爆風を受けて怯んだミカエルに斬りかかる。流石としか言えないコンビネーションを見せた。
シュン、という鋭く恐ろしい音を立てて斬ろうとした剣はミカエルの足に踏まれてしまった。地面に埋まってしまった剣を取ろうとする欲を目白は抑えてとりあえず間合いを取る。
「仕方ないけど、奥の手を使うしかないわね。
海斗くんあと三分、三分でいいわ。準備のためにミカエルの気を引いて」
目白が何をしようとしているのかはあまりよく分からない。でも、この状況でそれだけのことを頼むのだ。
ミカエルを前にして見えてきた自分たちの力の差を埋めるためならばやれる事は全てやるべきだろう。剣を利き手に持って一人でミカエルに挑む。
「さっさと負けを認めればいいものを」
獄炎球と獄水球を一緒に作り出し、グレイの方へと撃ってきた。元来、人は二種類の魔法を一緒に撃つことは愚か作り出すことは不可能だ。
こういった細かい点も人類と天使の違いである。けれど魔法を二つ以上作り出して、どんなに対処を複雑にしようとも有利になるのは少しだけ。
グレイは多少有利になるだけと考え、魔法と剣の二種類を鍛えてきた。まず右手に持つ剣で獄水球を魔力の核をついて割る。並行して分業で左手で水球を作り出して蒸発させた。
「ミカエル、そんなことをしても俺は殺すことはできない」
「口だけは達者なようで」
ミカエルはまたしても二種類の魔法を撃った。しかし、グレイも負けじと器用に魔法と剣を両用して防いでいく。
「くそだ……相乗魔剣・颶風!」
一気にミカエルの撃ってきた魔法を風で巻き込み一つに束ねる。そこからは先ほどの要領で二つの魔力の核を一緒に潰し魔法自体を失くす。
「これならどうだよ、獄雷球!!」
グレイは地面を蹴り上げ、ミカエルにゼロ距離で魔法を撃ち込む。
「アァァァッ………」
雷に直撃され所々、肌が真っ黒になってアザのようになった。その部分を押さえながら、ミカエルは低い声で唸る。そして、目の前にいるミカエルは霧のように消えてしまった。
「幻像なんだよ」
耳元でミカエルの声が無防備な背中から聞こえてきた。背中を足で蹴られグレイは壁に激突する。ミカエルの追撃はこんな事で終わるわけもなく、壁に埋まりかけているグレイの頭を剣で貫こうとした。ギリギリの場所でミカエルの攻撃を寝転がって避ける。
「っぶない!」
ミカエルの間合いを避けるように走って、逆方向へと逃げていく。逃げ惑うグレイを見たミカエルはすかさず後を追いかける。
「そう来ると思ったよ。水素爆発球!」
ミカエルに着弾した瞬間に広間全体に大きな爆発音と光と共に熱風が立ち込めた。
「興味深いじゃないか」
ミカエルの額からは一筋の赤い液体、つまり血が一筋に流れ出す。血を手の甲で拭いながらそう言うと、またしてもその場から消えた。どこから来るかと思い、その場で身構えているとミカエルは再び姿を見せる。
「これは避けれまい」
ミカエルの現れた先はまさかの天井であった。天井ではミカエルの右手に持つ剣で星空の光を集めている。そのせいでミカエルは以前までは二個しか作れなかった魔法も、まるで満天の星空のような量の魔法が出来ていた。
「こんな所で終わるのか……?」
キンという甲高い金属音が鳴る。
「まだ諦めちゃだめよ。天使の涙を撃つわ! 海斗くんも魔力の準備をして」
こんな絶望的な状況の中でも笑みを浮かべながらグレイに向けた。目白がら向けてくれた笑顔を信じて、グレイは言われた通りに魔力を用意し出した。




