第40話 君、つよいね
「本当に申し訳ございませんでした」
グレイと目白が転移魔法陣に乗って地上へ戻るや否や、理事長が頭を下げてきた。なぜ自分たちが理事長から頭を下げられているのか分からなかったグレイは聞き返す。
「どうして謝るんです?」
「魔封石から出現した怪物は全て私たちの確認不足です。皆さんをまたもや危険な目に合わせてしまい本当に申し訳ございませんでした」
「いえ、理事長先生が謝るようなことではないです。あの魔封石から出たのは海底都市にいたメランダたちの記憶だったんですよ。なので、僕も因縁を断ち切れて良かったと思っているので大丈夫です」
「そう言ってもらえると嬉しいのですが、いつか必ず何らかの形で謝罪させていただきます」
グレイ自身も海底都市で調べたい事はもう無い。絡まっている紐が解けたかのように心に留めていた事は消えている。
「では皆さん、馬車にお乗りください。今すぐに大学へ戻り調査団を派遣させますので」
やや小走りで洞穴を出ていく理事長を見て、グレイたち一行は少しだけ歩く速度を上げた。
馬車に乗って揺られながら夜を迎えたグレイは行きと同じで部屋に用意されたベッドで眠る。次に目を覚ました時、グレイは真っ白な空間にいた。
「おいおい、今度は何だよ……」
目を擦りながら辺りを見回すグレイの肩にふと、何かが乗った感覚に陥る。びくん、と体を震わせてグレイが寝起きだったこともあり全身の毛が逆立つ。感覚の正体を知るためにすぐに体を一八〇度回転させてみる。
「って、大翔とクレアか」
「いいか、時間がないから一回しか言わない。神が暴走し始めた」
「暴走?」
今までのような柔らかい雰囲気の口調では無く、本当に焦っている時のような口調だ。見たことない大翔の一面を見て少し驚きながらも冷静に内容を理解していく。
「神は人間とは違って魔力の量が桁違いなの。それで魔力を放出したらいいのに、あのバカ天使は魔力を放出しない。それどころか自ら魔力暴走をして事故の管轄の世界を壊す」
クレアも大翔と同じで今まで聞いたことのないほどに口が悪く流石のグレイも驚いた。
「前回は海底都市一つで神の暴走を封じた。けど、今回はそうもいかなさそうなんだ」
「それはどういう?」
「つまり、以前より被害が大きくなるんだ。
そうなる前に君たちが神の暴走を止める、それが今君たちに求められる最善の手段。でも今回は絶対にセツシートに降りてくる。以前は降りてくる日時は分かっても場所は分からなかった」
まさかこんなに早く神と対峙することになるとは思っても見なかったな。負ければ待っているのは死。万が一生き延びたとしても以前のような生活には戻れないかもしれない。
なのに何故だろうか。早く戦いたいという胸の高まりが全く収まらない。
「セツシートについたら、いつ神が降りてくるか分からない。だから常に万全の準備をしておいてくれ。さっき言った点が唯一の勝ち筋になりうる。って、もうセツシートか。それじゃあよろしく頼んだ」
すぐに目の前が明るくなってグレイの意識は遠のいていった。
「……さん、グレイさん。あっ、やっと起きた!」
肩を揺さぶられてグレイはすぐに目を開ける。馬車の柔らかいベッドの感覚に飲まれ二度寝しそうになりながらも、手足を上手く使って這い出た。
「メジロさんが話があるから、と伝言を預かってるから早く帰った方がいいんじゃない?」
グレイの肩を揺さぶって眠りから覚ました張本人であるローズがからかうような口調で言う。それに対してグレイはというと、古代の先人の話が相まって焦りの気持ちがあった。去り際にローズへ挨拶をすると駆け足でグレイは家へと戻る。
「目白!」
家に着くと勢いよく扉を開けて、玄関で名前を叫んだ。玄関から入って真横にある食堂の扉がゆっくりと開き、目白が出てきた。
「こっちよ」
目白に手招きをされてグレイはそのまま食堂内へと足を進める。テーブルの上にはセツシートの地図が置いてありそれを囲うようにマロンとノアが座っていた。
「さて、全員揃ったことだし作戦を練りましょうか。神が現れたらまず、マロンはこの西側の住民避難をノアは東側の避難をよろしく」
てきぱきと指示をしていきながら地図の上に避難経路を書き込んでいく。
「グレイと私で神をなんとか止める。それで良いわよね?」
「はい。でも神は以前より強くなってるって……」
「それは私たちも同じよ。大翔たちの能力と私たちの能力を合わせて以前より強くなっているわ。自体は一刻を争うことになっている。だから、今日からは常に準備をして戦いに備えましょう」
そう言ってマロンとノアの二人を退場させると目白はグレイの方はやってきた。
「本当に大丈夫かな……?」
「大丈夫って何が?」
「神の暴走を止められるか、ってことよ」
あまりに衝撃的な内容が目白の口から出たことに対してグレイは数秒間動くことが出来なかった。しばらく沈黙が続いた後にようやく言葉が喉を通るようになり、グレイは目白の言った言葉について説明を求める。
「どういう、意味です?」
「いくら古代の先人に貰った力だったとしても限界がある。このままだと大翔たちのように神に殺されるかもしれないわ」
「えっ……大翔たちって神に殺されてたんですか!」
今まで話してきた大翔たちの言葉遣いを見てみると、あたかも神殺しを成し遂げて死んでいったような感じだったのにな。
「神撃を喰らったんですって。一撃は耐えれたけど、二発目は耐えきれずに」
「そうだったんですか」
神撃、か。目白のみに言っていたのだろう。たった二発で殺されてしまうような攻撃、到底今の俺たちでは敵いそうにないな。
「じゃあ、俺はちょっと地下で剣と魔法の最後の練習をして来ますね」
もう今この瞬間、神が暴走してセツシートに降りて来てもおかしくない状況に陥っている。幸せそうに暮らしていても、それは一瞬で壊れてしまう。
そんな事が起こらないように、もう二度と起こさないように大翔たちは命を賭けてこの世界を守った。大翔たちが守ったものを受け継いだのだから、次は俺たちの番だ。
「絶対に、命を賭けて神を止めてみせる」
前世では表向きでは幸せそうな生活を送っていた。裏では地獄のような日々を味わったが。それから雨の滴る夕方に死んで、大天使ミカエルに助けてもらった。今、グレイはこの上ないほどに幸せな生活を送っている。
「俺は十分幸せ者だな」
地下へ向かう階段を一歩ずつ降りながらグレイは小声で呟いた。




