第31話 決着
——二〇時二七分、階段前にて
「ノアはそっちを!」
大きな声でノアに指示をしていた。しかしそんなマロンの後ろには黒い影が近寄ってきて。
「マロンも、ねっ!」
影に気付いたノアがすぐに斬りかかった。ノアの攻撃は黒い影、すなわち人形を真っ二つにした。
「……ありがとう、それにしても魔法が使えないだけでこんなに不便だったなんて」
「グレイ様とフィオナ様から一応剣技も習っていたけれどやはり慣れないわ……」
こうして二人が話している日常会話も人形と戦いながら話している。それだけで二人の実力は測ることができる。
「やっぱり、マロンさんとノアさんはすごい……」
そんな二人を見てポツリと呟いたのは剣を片手に束の間の休息を取っていたジェイミーだ。黒い人形は倒しても倒しても、減ることがなければ増えることもない。常に戦い続けなければならないのだ。
「これっていつまで続くの、よっ!」
ローズも人形と戦いながら力を込めて言う。
「おそらくですけどグレイ様がどうにかしてくださいます。なので、それまでの辛抱です」
「……なら、グレイに任せるしかないわね」
ふと天井を見て、球体状になっている黒い物体の最上部を見る。そんな時に真ん中で四人に囲まれて守られている人物。
「っう……」
メジロがようやく意識を取り戻した。地面に寝かされている状況で、そのまま辺りを見回す。
「みんな……戦ってる…………うっ……」
ふと頭の中にグレイの姿が思い浮かぶ。グレイの頭を黒い何かが捕まえて長い爪で腹を貫く。
「早く、早く行かないと……」
メジロは寝ている位置の真横に置いてある海底都市で拾った謎の剣を手に取る。ふらふらと今にも倒れそうになりながら、メジロは地面から立ち上がった。
「グレイ……」
剣を右手に持っている手を後ろに引く。意識を集中させて飛ぶべき場所を目測で測り。
「ここっ!!」
一瞬だけ足に魔力を纏わせて一気に上空へと飛び上がる。そうして上空へと飛び上がったメジロは、体制を整え再び足に魔力を纏わせた。
「並行斬撃っ!」
瞬きする間もなく黒い液体の最上部へと辿り着く。
「何これ……」
剣で一太刀してその物質の異様さに気付かされる。水でもないがそれ以外の液体でもない不思議な感触。
「やるしかないわよね……」
足元に感じる硬さを感じ取りながらメジロは魔力を使い無数の剣を作り出す。
「グレイと戦った時は使わなかったけど、使うなら今よね!」
自分が無意識のうちにできるようになっていた技である。それを試そうと思いメジロは焦点を一つに絞った。液体から少し離らと同時に自分の後ろに作った剣を休むことなく放う。
黒く硬い物体に当たった瞬間、魔力で作られた剣は折れていく。しかしそれを上回る勢いで何本もの剣が急速に作られる。
「見えた」
そうして諦めずに剣を放っているとようやく少しだけ中を見ることが出来た。
「マズいわね………」
先ほど頭の中に浮かんだ映像と全く同じ構図が広がっていた。グレイが黒い何に頭を掴まれている。
「付加斬撃っ!」
自分の入れるほどの大きさの穴を開けるため、最後は自ら辺りを薙ぎ払うように剣を振る。
「グレイッ!」
穴が開くとすぐにグレイの方向、目掛けて天井から降下した。グレイの頭を鷲掴みにしている右腕を斬るために縦方向に一回転してスピードを付けて攻撃をする。
だが天井の黒い液体と一緒でそんな簡単に斬らせてくれるはずが無さそうだった。それなら、と思ったメジロは攻撃している剣に添える形で魔力で作った剣も一緒に右腕を攻撃した。
ザンッ、という鋭い音の後に生々しい音が聞こえた。メジロはそんなものは無視して一目散にグレイの方へと走る。
「グレイ、大丈夫? あなたは今は休んでて。あいつは私が惹きつけるから」
メジロは自分の体のだるさを我慢して、体をくるりと翻しメランダの方へと剣を向ける。
「剣か、中々面白いじゃないか」
マヨルダは笑いながらそう言っている最中、メジロは一瞬で動きを見せた。目にも止まらぬ速度でメジロはマヨルダの間合いに入ったのだ。
思い切り横に剣を振ったメジロだったが、マヨルダは当たるギリギリの所でバク転をしてうまいこと避けた。それだけでメジロの攻撃が終わる訳がなく。
「並行斬撃!縦横斬撃!斬撃、斬撃、斬撃!」
ひたすらに避け続けるマヨルダに攻撃を仕掛け続けた。メジロの攻撃をあんなに長い間、避けるのもすごいが斬撃を連続で繰り出せるメジロもすごい。グレイの場合、斬撃は大抵二回ほど連続で使うと腕が痛くなり剣を握らなくなるのだ。
「避けてばっかりで、攻撃してこないのね」
「ふん、そんなことを言っていられるのも今のうちだろう」
慢心に満ちた表情で言うと、手を大きく天井へ向けて広げ黒い球体を作り出した。黒い球体は見る見るうちに成長して、やがて見上げるほどの大きさになった。
マヨルダが手を大きく振り下げた瞬間、それと同じように液体も動く。流石のメジロもマヨルダに攻撃を仕掛けるのをやめて、防御に集中した。
「そんな剣で守れるはずがないだろう」
黒い球体の正体はすぐに突き止めることが出来た。それは先ほどグレイがマヨルダに斬りかかろうとした時、体が進まなくなった。
否、体が吸い込まれたあの時と同じ魔法だ。
危ない、という一言すらグレイはメジロにいうことが出来なかった。グレイは息を吸って喉から声を出すということが難しくなっているからだ。
グレイがなんとかしてマヨルダの作る球体の危険について知らそうとしている内に、無情にも時間は過ぎていく。ゆっくりとメジロの方へ近づいていた球体も気付けば剣で受け止められる場所だった。
「っ!?吸い込まれっ……」
メジロの頭上で構える剣に着弾すると同時に広間全体に風が吹き乱れる。
「そのまま吸い込まれて死ぬんだな」
マヨルダは必死に剣で黒い球体を受け止めているメジロを嘲笑いながら言い放つ。そんなマヨルダに対してメジロはというと。
「使いたくなかったけど、やるしかないわね」
涼しげな表情を浮かべながら言った。メジロがそう言った瞬間、球体が押していたのに押し返し始めた。
「んなっ……どこでそんな力を!?」
「操られた時に使えるようになったの。
あなたのおかげよ」
にやりと悪魔的な笑みを浮かべたメジロはついに球体を押し除け、剣でシュパッと真っ二つにする。そしてメジロは足を止めることなくマヨルダの方へと走っていく。
呆気に取られていたマヨルダはメジロを間合いに入れることを許してしまい。
「終わりよ」
無惨にもたった一撃で決着がついた。メジロの剣は美しい半円状の軌道を描きマヨルダの腹を抉った。




