第8話 セイラン港の灯りが見えるころ
ブランデルを後にした三人は、
数日前の野盗の襲撃が嘘のように穏やかな道を進んでいた。
治安の良いエルドラン領を抜け、
海の匂いが漂い始めるころ、
アーレンは言いようのない“気配”に胸をざわつかせる。
そして五日目の夕暮れ、
丘の向こうに広がる海と、
最果ての国の戦士たちが集う港町セイランが姿を現す。
旅の新たな局面が、静かに幕を開けようとしていた。
ブランデルを出てからの道は、
数日前の野盗の襲撃が嘘のように平和だった。
アーレンは肩の力を抜きながら言う。
「なんだよ、もっと荒れてるかと思ったのに。
これなら楽勝だな」
ジュリアンも珍しく同意する。
「確かに…拍子抜けするぐらいだな。
この前のあれは何だったんだ」
レムは地図を見ながら微笑む。
「この辺りはエルドラン領ですから、
治安がいいんですよ。
領主さんがしっかりしてるという噂です」
三人は軽い足取りで進んでいく。
道中、怪しい影は一度も見なかった。
だがアーレンは時折、足を止めて周囲を見回す。
「…なんか、おかしいな」
ジュリアンが眉をひそめる。
「何がだ?」
「いや…悪者がいないのはいいんだが、
なんか…見られてる気がするんだよ」
レムは不安そうに周囲を見渡す。
「えっ…どこからですか?」
アーレンは首を振る。
「わからねぇ。気配はあるのに、姿が見えない。
…気のせいならいいんだが」
時々何かの気配を感じるのだが、確信は持てない。
これは彼にとっての大きなストレスになったが、
いたずらに他の2人を不安にさせても仕方ないので、
いちいち口に出すことはやめていた。
ブランデルを出立して5日が過ぎたその日の太陽が沈みかけたころ、
丘の向こうに広がる海が見えた。
「…見えたぞ! あれがセイラン港だよな!」
アーレンが嬉しそうに叫ぶ。
ジュリアンも思わず息を呑む。
「海だ…本当に海だ…」
レムは目を輝かせながら言う。
「すごい…! あんなに大きいんですね…!」
港町セイランは、
夕日に照らされて黄金色に輝いていた。
停泊中の船の帆が風に揺れ、
港には見慣れぬ鎧をまとった最果ての国の兵士らしき姿も見える。
三人はその光景に胸を高鳴らせながら、
港町へと足を踏み入れた。
セイラン港に到着した三人は、
まずは港近くの宿屋「潮騒亭」に部屋を取った。
荷物を置き、軽く身支度を整えると、
階下の酒場へ降りて情報収集を始める。
アーレンは肉料理を頬張りながら周囲を観察し、
ジュリアンは聞き耳を立て、
レムは地図を広げてメモを取っている。
店主に話を聞くと、
最果ての国の戦士たちはこの店にはほとんど来ないという。
「奴らは自分たちの言葉が通じる店に行くんだよ。
この辺りだと“海風亭”か“青潮の間”だな」
ジュリアンは頷きながら言う。
「つまり、この酒場では情報は得られないということか」
レムは地図に店の名前を書き込んだ。
三人は港の外れにある“海風亭”へ向かった。
店の前には、
見慣れない形の提灯や、
最果ての国の文字が書かれた看板が掲げられている。
アーレン「なんか…雰囲気が違うな」
レム「わぁ…すごい…!」
ジュリアン「ここなら情報が手に入りそうだ」
扉を開けると、
店内は最果ての国の戦士たちで溢れていた。
- 黒髪
- 独特の鎧
- 見慣れない刀
- 聞きなれぬ言葉
アーレンは興味津々で周囲を見回し、
ジュリアンは緊張し、
レムは完全に圧倒されている。
注文取りの少年がやってきた。
「いらっしゃい。飲み物は?」
三人がそれぞれ飲み物を頼むと、
レムは勇気を出して例の武器を取り出した。
「これ…なんですけど。
最果ての国のものに似ていると聞いて…
何か知ってますか?」
少年は武器を見て首をかしげる。
「うーん…俺はこっちの生まれだからなぁ。
でも、あっちの戦士ならわかるかもしれないよ」
少年は店内を指差す。
「ほら、あそこにいる連中とか。
あいつらは本国から来たばかりだし、詳しいかもな」
レムは緊張しながら頷いた。
レムは隣の席の戦士に声をかけた。
「あ、あの…すみません…!」
戦士はちらりとレムを見たが、
すぐに仲間との会話に戻ってしまった。
アーレン「…無視されたな」
ジュリアン「まぁ、言葉も通じていないようだな」
レムは勇気を振り絞って
別の戦士にも声をかけたが――
「…(無視)」
「(怪訝な顔)」
「(言葉が通じず会話にならない)」
完全に相手にされない。
レムは肩を落とした。
「うぅ…やっぱりダメかも…」
「――ちょっとよろしいか?」
落ち着いた響きの声が聞こえた。
振り向くと、
最果ての国の戦士とは少し雰囲気の違う、
すらりとした青年が立っていた。
平穏な道のりの中に潜む、かすかな違和感。
それでも三人は無事に海へ辿り着き、
異国の文化が色濃く漂うセイラン港へ足を踏み入れた。
言葉の通じない戦士たち、
見慣れぬ武具、
そしてレムの武器に興味を示した謎の青年。
旅は新たな出会いと緊張を孕みながら、
次の段階へと進んでいく。
海風が運んでくるのは、
希望か、それとも嵐の前触れか――。




