第21話 へんてこな武器の正体
瑞穂は武器をそっと置き、深く息をついた。
その表情は、先ほどまでの柔らかさとは違い、
どこか張りつめたものを帯びていた。
「……この武器は、間違いなく地底で作られたものだ」
レムは思わず息を呑んだ。
「地底……というと、先ほどおっしゃっていた……?」
瑞穂は静かに頷く。
「そうだ。
雷の術を封じ込める鍛冶の技法――
雷の魔法を自在に扱える者がいなければ成立しない。
だが、地上ではもう雷魔法の使い手は絶えて久しい」
イオリが眉を寄せる。
「つまり……地上では再現できぬ技、ということにござるか」
「その通りだ。
ゆえに、これが存在するということは――」
瑞穂は二人を見つめ、言葉を区切った。
「地底の民が、地上に出てきているという証に他ならぬ」
レムの背筋に冷たいものが走った。
「地底の民……この世界にそんな人たちが?」
瑞穂は目を伏せ、静かに語り始めた。
「そう、彼らは太古の昔に天変地異により
地上を追われた人たちなのじゃ。
やがて、地下に国を作り、厳しい掟のもと、
助け合いながら生きておった。
地底の民には、古くから伝わる伝説がある。
“いつか地上に帰還し、すべてを取り戻す”――
そう語り継がれておった」
レムは思わず息を呑んだ。
「取り戻す……?」
「本来の意味は、
地上に住めなくなった彼らの“郷愁”のようなものだろう。
だが――」
瑞穂は厳しい表情になった。
「それの意味するところを
あえて曲解する者が現れても、おかしくはない。
つまり、“地上を征服する”と解釈する者がいてもな」
イオリの拳が静かに震えた。
「では……この武器を持っていた者たちは……」
「地底の民である可能性が高い。
そして、彼らは何らかの目的を持って地上に現れた。
それが善意か悪意かは、まだ分からぬ」
瑞穂は二人を見つめ、静かに言った。
「だが、そなたらが巻き込まれた以上――
これは、もはや他人事ではない」
レムは唾を飲み込み、イオリは深く頷いた。
瑞穂はしばらく沈黙し、
ろうそくの炎を見つめたまま、ゆっくりと口を開いた。
「……伝説というものは、解釈が難しい。
語り継がれるうちに形を変え、
聞く者の心によって意味が変わる」
レムは息を呑み、イオリは静かに頷いた。
「だがな――」
瑞穂は二人を見つめ、はっきりと言った。
「我ら鬼の一族は、すでに伝説は“成った”と信じている。」
レムは思わず目を見開いた。
「鬼の一族とは地底の民と地上の民が
結ばれた結果、生まれた血筋。
我らの始祖をはじめ、
地底から流れ着いた者たちは
かわった特徴を持っていたことから、
ここでは鬼と呼ばれるようになった。
その鬼たちは、この地で平穏に暮らし、
島の民に助けられ、守られ、
やがて静かに生を終えていった」
瑞穂の声はどこか誇らしげだった。
「伝説にある“すべてを取り戻す”という言葉は、
どこまでを望むかで意味が変わる。
我らの祖先はこう考えたのだ」
瑞穂は胸に手を当てた。
「地上に戻り、そこに住まう人々と共に生き、
子を育て、平和に暮らし、
充実した生を終える――
これこそが“すべて”である、と。」
レムの胸が熱くなった。
瑞穂はしばらく沈黙し、
手元の武器をそっと撫でるように見つめた。
「……ただし、ここまで話したのは、
あくまで この地に住まう“鬼の一族”流の解釈 にすぎぬ」
レムは息を呑んだ。
「では……今の地底の人々は……?」
瑞穂は静かに首を振った。
「今の地底人が何を考えているかは、誰にも分からぬ。
我らは追放された側。その時までの記憶は見れるのだが…
地底に残った者たちが、その後どのような歴史を歩んだのか……
我らの祖先が知らぬことは知りようがないのだ」
イオリは拳を握りしめた。
「では、どうすれば……」
瑞穂は武器を手に取り、
その刃についた黒ずんだ血痕を指先でなぞった。
「……この血から“読んでみる”しかあるまい」
レムは目を見開いた。
「血から……読む……?」




