第11話 白波丸の七日間 ― 剣と恋と東国の風
白波丸での船旅は、ただ海を渡るだけの時間ではなかった。
アーレンは東国の剣技に魅せられ、
ジュリアンはシオリの微笑みに胸を乱され、
レムは異文化の空気に心を躍らせる。
甲板には毎朝、木刀の音が響き、
潮風の中で四人の距離は少しずつ縮まっていった。
七日間の稽古は、彼らの旅を確かに変え始めていた。
翌朝、アーレンとシオリが甲板で剣の稽古をしている。
その様子を、ジュリアンは少し離れた場所から眺めていた。
アーレンはふと気づく。
「…おいジュリアン。お前も一緒にどうだ?」
ジュリアンは慌てて視線をそらす。
「べ、別に…ただ、風に当たっているだけだ。」
アーレンはにやりと笑う。
「そういやお前、剣もそこそこできたよな?
イオリ! ジュリアンと一本やってみてくれよ!」
イオリは爽やかな笑顔で頷く。
「お望みとあらば…」
ジュリアンは青ざめる。
「…いや、その…今日は気が乗らぬ…」
シオリがまっすぐな瞳でジュリアンを見つめる。
「まぁ、ジュリアンさまの剣…私も見てみたいです」
その一言で、ジュリアンは完全に固まった。
(…そんな目で言われたら…断れない…!)
「…仕方ない。レディーの願いだ。一本だけだぞ!」
アーレンは嬉しそうに笑う。
「よっしゃ! やれやれ!」
木刀を構えた瞬間、
イオリはジュリアンの足さばきと剣の握り方を見て悟った。
(…これは、拙者が本気を出すまでもないな)
イオリは柔らかい動きで受け流し、
ジュリアンの攻撃を軽くいなす。
ジュリアンは歯を食いしばる。
「…貴殿、手を抜いているな?」
イオリ「いや、そのようなつもりは―」
「侮られるのは…好かぬ!本気で来られよ、イオリ殿!」
アーレン「お、おいジュリアン…!」
シオリ「ジュリアンさま…!」
ジュリアンは完全にヒートアップしていた。
イオリは仕方なく、少しだけ力を込めた。
次の瞬間―
カンッ!
ジュリアンの木刀が弾かれ、
彼は尻もちをついた。
イオリ「一本、でござるな」
ジュリアン「…っ…!」
ジュリアンは拳を握りしめ、
悔しさを噛みしめながら言う。
「…負けだ。強いな、イオリ…」
イオリは優しく頷く。
「よい勝負であった」
シオリは兄を睨む。
「兄さま! 本気を出すなんてひどいです!」
「えっ…?」
イオリは困惑した。
ジュリアンが言う。
「い、いや…シオリ殿、私は大丈夫だ。むしろ…励みになった」
アーレンは見とれていた。
「…すげぇ…」
ジュリアンが負けたことに驚いたのではない。
イオリの動き―
その“無駄のなさ”“速さ”“静けさ”に、
アーレンは完全に魅了されていた。
(なんだ今の…あれが東国の剣技か…!)
アーレンの胸が高鳴る。
剣士としての本能が、
“もっと見たい”“学びたい”と叫んでいた。
アーレンはイオリの木刀をじっと見つめたまま、
ぽつりと呟いた。
「イオリ…お前、すげぇな。あんな動き、見たことねぇ…」
イオリは少し照れたように微笑む。
「拙者の剣は、東国のありふれた一流派のものにすぎぬ。
だが、アーレン殿の剣も力強く、もらったら即致命傷となるだろう」
アーレンの目が輝く。
「なぁイオリ…俺にも、その剣、教えてくれねぇか?」
「もちろんだ。拙者のつたない剣技でよければ。」
翌朝から、
甲板には4人の姿が並ぶようになった。
アーレンはイオリの動きを真似しながら、
何度も何度も素振りを繰り返す。
「くそ…難しいけど…楽しいな、これ!」
イオリは微笑みながら、
「焦らずともよい。アーレン殿は筋が良い。すぐに形になる」
シオリはジュリアンのことを横目でちらちら見ながら、
「今日もよろしくお願いします、ジュリアンさま」
ジュリアンはシオリの微笑みにドキドキしながら
「も、もちろんだ…!」と剣を振る。
こうして、船旅の1週間は“剣の稽古”とともに過ぎていった。
練習相手にも困らなかった。
船員の多くは戦士としての側面があり、暇さえあれば剣技の練習をしているので、
アーレンのトレーニングに喜んで付き合ってくれた。
そのおかげで、港に着くころには全ての船員がアーレンと仲良くなっていた。
七日間の船旅を終え、
白波丸はついに東国の港町、白鷺へ到着した。
名前の通り、白い壁の家々が並び、海の色とのコントラストが美しい。
潮風に乗って香るのは、海鮮の出汁の匂い。
アーレン
「おお…西の国とは全然ちげぇな…!」
レム
「建物の形も、文字も…全部違う…!」
ジュリアン
「…美しい町だ…」
三人はそれぞれの感想を胸に、
初めての東国の地に足を踏みしめた。
イオリは荷物を肩にかけ、三人に向き直る。
「拙者はまず父上に帰国の報告をせねばならぬ。
皆、ここで一旦お別れだ」
シオリも軽く頭を下げる。
「また、いつかお会いしましょうね」
二人は港の奥へと歩いていった。
七日間の航海を終え、
白波丸はついに東国の港町・白鷺へ到着した。
白い家々が並ぶ美しい町並みは、
これから始まる新たな物語の幕開けを静かに告げている。
イオリとシオリとの一時の別れは、
再会への伏線となるのか、
それとも新たな出会いの前触れなのか。
東国での物語は、ここからさらに深まっていく。




