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アーレンと仲間たちの旅は、へんてこな武器から始まった  作者: 凩冬馬


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第10話 白波丸、出航前の影

東国への航路は、ただの旅路ではなかった。

王国の三人にとって未知の文化、未知の海、そして未知の出会いが待っている。

朝の港に吹く潮風は穏やかだが、その奥底には、誰も気づかぬ波紋が広がり始めていた。

白波丸の甲板に立つ少女シオリの微笑みは、旅の始まりを祝福する光のように見えた。

だがその裏で、闇は静かに牙を研いでいる。

朝の港は潮風が心地よく、

船の帆が風に揺れていた。


船体のデザインは王国の物とそっくりだが、

サイズは少し小さいようだ。


イオリが指差す。


「こちらが拙者らの船、“白波丸”にござる」


アーレン「おお、でけぇな!」


レム「すごい…!」


ジュリアンは緊張しながら船を見上げた。


そのとき――


「兄さまー!!」


澄んだ声が港に響いた。


三人が顔を上げると、

船の甲板から少女が手を振っていた。


少女は東国語で何かをまくしたてている。

「兄さま、遅いですよ! 準備はもうできてます!」


もちろん三人には意味がわからない。


アーレン「なんて言ってんだ?」


レム「さ、さぁ…?」


ジュリアンは胸の奥がふっと温かくなるのを感じた。


(…なんだ、この声…

聞いているだけで…落ち着く…)

イオリと同じ、

どこか凛として優しい響き。


少女は朝日を背にして立ち、

風に髪を揺らしながら微笑んだ。


その姿は、

まるで海の精霊のようだった。


ジュリアンの心臓がドクンと跳ねた。


少女シオリは、


- 透き通るように白い肌

- 大きく潤んだ瞳

- 黒髪が陽光を受けて青く輝き

- 病弱そうなのに、どこか芯の強さを感じさせる


その“儚さと強さ”の同居した美しさに、

ジュリアンは息を呑んだ。


(…きれいだ…)


シオリは甲板から軽やかに降りてきて、

柔らかく微笑んだ。


「昨晩、船乗りの方から皆さまのお話を伺いました。

兄の客人は、私の客人です。

どうぞ遠慮なくお乗りください」


その言葉に、ジュリアンは完全に固まった。


イオリが胸を張って言う。


「こちらは拙者の妹、シオリ。

船旅の間、世話になるでござる」


シオリは丁寧に頭を下げた。


「よろしくお願いいたします」


アーレン「おう! よろしくな!」


レム「よ、よろしくお願いします!」


だが、ジュリアンは思わず口にしてしまった。


「えっ…女の人が船に…?

こっちの国では、縁起が悪いって…」


アーレン「おい、ジュリアン!」


レム「余計なことを言っちゃダメですよ!」


しかしシオリは怒らなかった。

むしろ、くすっと笑った。


「王国の方はそのようにお考えの方も多いようですが、

こちらでは海を守る神さまは女性です。

だから東国では、女性が船に乗るのはむしろ良いことなんです」


ジュリアンは顔を真っ赤にして頭を下げた。


「す、すみません…!」


シオリは優しく微笑む。


「気にしていませんよ」


ジュリアンはその笑顔に、

さらに心臓が跳ねた。


「では、皆さまのお部屋をご案内しますね」


シオリは三人を船室へ案内し、

荷物を置くように促した。


「出航まで少し時間があります。

どうぞごゆっくりお過ごしください」


扉が閉まると、

ジュリアンはベッドに倒れ込み、

顔を覆った。


「…なんなんだ…あの子…美しい」


アーレンはにやにやしている。


「おいジュリアン、顔真っ赤だぞ」


レムは嬉しそうに笑った。


「ジュリアンさん、恋ですね!」


ジュリアン「ち、違う!!」


だが、否定するその声は震えていた。


三人が甲板へ戻ろうとしたそのとき――

「敵襲だ!!」

甲板から怒号が響いた。


が、東国の言葉を誰も理解できなかった。


アーレン「上がさわがしいな!?」


ジュリアン「何事だ!?」


レム「何が起きているのでしょう!!」


甲板に駆け上がると、

船員たちが武器を構えて周囲を警戒していた。


イオリの父の船――白波丸は、

出航準備の真っ最中だったはずだ。


だが、空気が一変している。


突然、船員の一人が背後から斬りつけられた。


「ぐっ…!」


だが、周囲の東国戦士たちは即座に反応し、

斬りかかった“何か”を一刀のもとに切り伏せた。


アーレン「見えなかった…!」


ジュリアン「な、何が…?」


空気が揺らぎ、

まるで闇が凝縮したような“黒い兵士”が

次々と姿を現した。


顔は影に覆われ

体は黒い霧のように揺らぎ

武器だけが異様に光っている


レム「ま、魔物…!?」


アーレンは剣を抜き、

低く構えた。


「…間違いねぇ。

こいつら、魔物だ!」


ジュリアンは青ざめる。


「なぜ…船に…?」


東国の戦士たちは驚くほど冷静だった。


刀が閃き

魔物が倒れる。


しかし倒れた魔物は

最後の力を振り絞って海へ飛び込む。


ドボンッ!


アーレン「逃げた…!」


イオリ「奴らは…痕跡を残さぬつもりか」


戦いは短かったが激しかった。

船員たちが負傷者を確認する。


幸い、最初に斬られた船員が軽傷を負っただけだった。


レム「よ、よかった…!」


ジュリアン「…一体、何者なのか、あれは」


アーレンは戦士たちの動きを見て、

思わず息を呑んだ。


「…すげぇな。

あいつら、王国の兵士とは比べものにならねぇ」


ジュリアンも同意する。

なにしろ魔物にあやうく全滅させられそうになったことがあったから。


レムは震えながら言う。


「東国の戦士って…こんなに強いんですね…」


イオリが駆け寄ってきた。


「皆、無事か!」


アーレン「ああ、俺たちは平気だ」


ジュリアン「イオリ…今のは…?」


イオリは険しい表情で首を振る。


「わからぬ。

だが…ただの魔物ではない」


甲板を見渡しても、あの日の森の光景と同じく、

魔物の遺体は一つも残っていなかった。


霧のように消え、

海に逃げた者も浮かんでこない。


レム「…気味が悪いです…」


ジュリアン「手掛かりが…何もない…」


イオリは決断した。


「ここに留まるのは危険だ。

すぐに出航する!」


船員たちが一斉に動き出す。


アーレンは剣を収め、

ジュリアンとレムに言った。


「どうやら…俺たちの旅は、

もう後戻りできねぇみたいだ」


三人は頷き、

揺れ始めた船の甲板に立った。


船はあわただしく出航し、あっという間に沖に出た。

白波丸はもう後戻りできない海へと漕ぎ出した。

シオリの優しい声と、魔物の不気味な影。

光と闇が同時に動き始めたことで、旅はただの移動ではなく、運命の分岐点へと変わっていく。

次に彼らを待つのは、東国の港か、それともさらなる脅威か。

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