第1話 森に現れた魔物とへんてこな武器
はじめまして。
西の砦の町から始まるアーレンたちの物語です。
気軽に読んでいただければ嬉しいです。
西の砦の町は、今日も冷たい風が吹いていた。
魔物の噂が広がるにつれ、町の空気はどこか張りつめている。
そんな中、領主の次男ジュリアン・ボーモントは、
退屈しのぎにと馬を引かせ、数名の供を連れて町外れの森へ向かっていた。
「魔物が出る? そんなもの、見たこともないじゃないか」
「それより、森の奥に大鹿がいると聞いた。今日はそれを仕留めてやる」
供の兵士たちは顔を見合わせたが、
領主の息子に逆らえる者はいない。
その話を聞いたフレドリック・ウェストフォードは、
眉間にしわを寄せた。
「よりによって、こんな時に森へ行くとは……」
魔物の噂はただの噂ではない。
国境の町の守備隊長である彼には、
“何かが起きている”という確信があった。
「アーレン、頼みがある」
鍛錬場で片手剣を振っていたアーレンは、
汗を拭いながら振り返る。
「ん? またジュリアン様が何かやらかしたのか」
「……ああ。森へ狩りに行った。供はつけているが、あれでは心もとない。
万が一のことがあっては、ヘンリック様に合わせる顔がない」
アーレンは肩をすくめ、しかし笑った。
「親父の頼みなら聞くさ。
それに、あの坊ちゃんが森で迷子になったら大変だしな」
軽口を叩きながらも、
アーレンはすぐに愛馬にまたがり、森へ向かう。
森に入ると、この歩き慣れているはずの森の空気が一変した。
静かすぎる。鳥の声も、風の音もない。
森の細道を進んでいたアーレンは、ふと前方に倒れた兵士の姿を見つけた。
「おい、大丈夫か!」
馬を止め、アーレンは慌てて駆け寄る。
兵士は血に濡れ、胸や腕に深い切り傷がいくつも走っていた。
「ジュリアン様が……危ない……」
それだけ言い残すと、兵士は意識を失った。
アーレンは歯を食いしばる。
「野盗か? こんな真昼間に…誘拐でも企んでやがるのか」
しかし、胸の奥にざらつく違和感があった。
この傷は、初めて見る類のものだった。
野盗が使いそうな安物の刀剣でできた傷ではなさそうだ。
もっと鋭く、もっと深い。
嫌な予感を振り払うように、アーレンは馬に飛び乗った。
さらに進むと、また一人、兵士が倒れていた。
今度は、すでに息がない。
アーレンは拳を握りしめる。
「…まずいな」
馬を走らせる速度が自然と上がる。
森の奥、洞窟の前に出た瞬間、アーレンは息を呑んだ。
ジュリアンと供の兵士二人が、
黒い影のような“何者か”に取り囲まれていた。
その動きは異様に速い。
こいつらは人間ではない。
「これが噂の…魔物…!」
アーレンは腰の剣を抜いた。
彼には戦場の経験はまだない。
だが、不思議と恐怖は感じなかった。
むしろ胸が高鳴っていた。
「-腕試しにはちょうどいい」
アーレンは馬を走らせ、敵の背後から一気に突っ込んだ。
「どけぇぇぇっ!」
馬から飛び降り、ジュリアンと敵の間に割って入る。
片手剣が閃き、最初の一体の腕を切り落とした。
「あ、そなたはアーレン…!?」
「若さま、あんたは下がってろ。あとは俺がやる」
いつも普段着のままで理由も無くニコニコしている青年とは思えない動きだった。
その大柄な体が、風のように軽く動く。
敵の剣が迫る。
だがアーレンには、すべてが見えていた。
「遅い!」
剣が走る。
敵が倒れる。
また一体、また一体。
ジュリアンは呆然とその光景を見つめていた。
「…あいつは、こんなに強かったのか?」
最後の一体が地に崩れ落ちたとき、
おそらく十分も経っていなかっただろう。
アーレンは息を整え、剣を軽く振って血を払う。
「ふぅ…危なかったな、若さま!ケガは無いか?」
ジュリアンは言葉を失っていた。
突然現れたこの少年が、自分の兵よりも、誰よりも強かった。
助けられたという事実が、彼の誇りを深く傷つけていた。
「ふん……余計なことをしおって!
これくらい、我が親衛隊にかかれば問題はなかったものを!」
声は震えていた。
恐怖ではなく、悔しさと羞恥の震えだ。
アーレンは剣を鞘に収め、いつもの調子で笑った。
「おう、それは悪かったな。
でも、そんな強がりが言えるってことは無事って証拠だ」
その軽さが、ジュリアンには余計に腹立たしい。
だが、反論できない。
自分が助けられたのは紛れもない事実だからだ。
アーレンは倒れた兵士たちに目を向ける。
「さぁ、ケガしたやつを連れて町に帰るぞ。
こいつらの仲間がまだいるかもしれない」
生き残った兵士の一人が、涙を浮かべながらアーレンに頭を下げた。
「助けていただき、本当に……感謝します!
さぁ、ジュリアン様、町へ戻りましょう!」
ジュリアンは唇を噛み、視線をそらした。
「……そうだな。お前がそう言うなら、そうしよう」
その声には、先ほどの傲慢さはなかった。
しかし、アーレンに礼を言うことはできない。
プライドがそれを許さなかった。
アーレンはふと、倒れた魔物の一体が握っていた”へんてこな武器”に目を留めた。
「……なんだ、この形。見たことねぇな」
ゆったりとしたカーブを描いている、刃は薄く、波をうったような形をしていて、金属の質も青みがかっていて今まで見たものとは違う。
軽いのに、妙に硬い。
アーレンはそれを拾い上げ、腰に差した。
「町の物知りの――鍛冶屋のガルドに見せてみるか。
あいつなら何かわかるかもしれない」
ガルド ― 西の砦で最も腕の立つ鍛冶職人であり、
アーレンが子どもの頃から世話になっている人物だ。
彼はただの鍛冶屋ではない。
材料となる金属の知識だけでなく古い伝承や異国の武器にも詳しい。
アーレンは馬にまたがり、ジュリアンたちとともに町へ急いだ。
森の奥から、まだ何かがこちらを見ているような気配を感じながら。
ここまで読んでいただきありがとうございます。
アーレンが拾った“へんてこな武器”が、物語の大きな鍵になります。
次回もよろしくお願いします。




