29.図書館2
「ごめんね、メルヴィン。図書館なら僕の知らない資料もあると思ったんだけど」
「大丈夫です」
いくつもの本棚が置かれた広間と、広間の隅に置かれた六人で使える大きな机が二つ。反対側にも、大きな机がある。壁際には一人用の机と椅子が並んでいた。
天井はそんなに高くないけれど、圧迫感はない。
僕は図書館を見渡してから、ビルに言った。
「図書館は広いですね。机も大きくて、ノートを広げやすくて便利です」
僕の言葉を聞いて、ビルは少し微笑んだ。
ビルのノートを写して作った、僕のノートを広げる。少しノートを見直して、ビルに尋ねた。
「あの、ポーションについて質問なんですけど、緑のポーション、青のポーション、白のポーションって、どう違うんですか?」
「ああ、それはね……」
ふと、誰かの視線を感じた。僕がエイミーの方を見ると、エイミーは目をそらした。
「メルヴィン? どうしたの?」
「いえ、何でもないです」
僕はノートに目を向けた。
「一番簡単に作れるのは緑のポーション。いつも工房で作ってるものだね」
ビルはノートの該当箇所を指さしながら、僕に教えてくれた。
「はい」
「で、緑のポーションに魔力を込めながら煮詰めると青のポーションになるんだ。さらに魔力を込めて煮詰めて『水晶のしずく』を入れると、白のポーションができるんだよ」
「そうなんですか。でも、なんで工房では緑のポーションしか作らないんですか?」
「作らないんじゃなくて、作れないんだ。青のポーションを作るには、沢山の魔力を繊細に調整しながら注入しないといけないから……。父さん……工房長でも、なかなかうまく作れないんだよ。白のポーションは、さらに魔力と技術が必要だし、『水晶のしずく』も手に入れにくい希少な素材だから、作るのはもっと難しいんだよ」
「そうなんですか」
僕たちが話していると、エイミーがいつの間にか、僕たちのそばに立っていた。
「あんたたち、面白そうな話をしてるじゃない。それと、思い出したわ。あなた、マクネアー工房の人でしょ」
エイミーは人差し指でビルを指さした。
「えっと、僕のこと知ってるの?」
ビルが首をかしげると、エイミーは胸をはり腰に手を当てて、つんとした口調で言った。
「ええ。私がマクネアー工房で働きたいって言った時に、店の奥にいたのを思い出したわ」
「そうなんだ」
「私が声をかけたマクネアー工房の従業員は、『女なんて雇わない』って取りつく島もなかったけどね」
ため息をついたエイミーは、ちらりと僕のノートを覗き込んだ。反射的に僕はノートを隠した。
「錬金術のノート? ずいぶん良いもの持ってるじゃない」
「君には関係ないでしょ?」
僕が言うと、エイミーは真剣な顔で僕に訴えた。
「……私にも見せてくれない? ただでとは言わないわ」
「え?」
「近くの森の、素材採集場所を教えてあげるわ。だから、そのノートを見せてくれない?」
僕はビルを見た。ビルは難しい顔をしている。
「錬金術の情報は、あんまり他人に見せていいものじゃないんだよね。メルヴィンは同じ工房だから特別に見せたけど」
僕とビルがお互いを見て黙っていると、エイミーが言った。
「お願いよ。とっておきの採集場所を教えてあげるから。この図書館にある錬金術書の写しも見せてあげてもいいわよ」
ビルが腕を組んでちょっと目を瞑った後、エイミーに言った。
「ちょっと、考えさせて」
「わかったわ。毎週月曜日の午前中は図書館にいるから。良い返事を待ってるわよ」
エイミーはそう言うと、自分の座っていた席に戻って行った。
「ビルさん、錬金術のノートって、そんなに大事なものだったんですか?」
「うん、まあ、ね」
ビルはあいまいに微笑んだ。




