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魔法が使えない落ちこぼれ貴族の三男は、天才錬金術師のたまごでした  作者: 茜カナコ


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21.休日

 工房に入って、はじめての休日。

僕は朝早くに起きて、母上に手紙を書くことにした。

『母上、お元気でしょうか。僕は元気です。今は錬金術師になるため、錬金術工房で働いています。どうか、僕が一人前になるまで待っていてください。メルヴィン』


 便箋を封筒に入れ、封をした。

「さてと。手紙ってどこで出せるのかな……?」

 僕は書いた手紙をとりあえず机の引き出しにしまった。


休日とはいえ、しなくてはいけない仕事はある。部屋を出て顔を洗い、井戸で食堂用の水汲みをしているとデニスが二階から降りてきた。

「おはようございます。デニスさん」

「ん」

 デニスは僕の方を見ることもなく、あくびをしながら工房に歩いて行く。

「デニスさん、手紙ってどこで出せますか?」

「あ? ……知らねえよ」

 デニスはふり返りもせず、工房に入って行った。


 工房脇の小部屋で、デニスと朝食をとっていると、ドアがノックされた。

「はい」

「おはよう、デニス、メルヴィン」

「ビルさん、おはようございます」

 デニスが口元を拭いながら慌てて姿勢を正す。

「ビルさん! おはようございます!」

 僕も椅子から立ち上がり、お辞儀をした。


「ごめん、食事中だったんだね。そのまま続けて? 僕は錬金術の練習をしに来ただけだから」

 そう言ってビルは工房に入って行った。


 ビルがいなくなった小部屋で、デニスに尋ねる。

「錬金術の練習って?」

「あ? 工房が休みの時は自由に使えるから、調合の練習に来たんだろう?」

 ビルがつまらなそうに言う。

「え!? 工房を自由に使って良いの?」

 僕が思わず声を上げると、デニスは舌打ちした。

「あほか。ビルさんだから自由につかえるんだよ。それになんだ? その言葉遣いは」

 デニスが眉間にしわを寄せて僕を睨んでいる。


「あ、ごめんなさい。ビルさんだから特別に工房が使えるってことですか?」

「ああ、まあな。……フランクさんや俺も、使った薬草とか鉱物とかの代金を支払えば、ある程度工房を使って良いことにはなってるな」

 僕は心臓がドキドキするのを感じた。

「あの、僕も……」


「はあ!? 入って一週間の新参者がつかえるわけねえだろ!?」

 デニスは心底あきれたという様子で両手をあげて苦笑していた。

「そう……ですか」

 僕は食べ終わったお皿を片付けて、工房の様子を見に行った。


 工房ではビルが色々な薬草を並べて、ノートと見比べている。

「ビルさん、何を作っているんですか?」

「ああ、メルヴィン。……ポーションを改良しようと思ってるんだけど……どの薬草を使うか悩んでるんだ。メルヴィンならどれを使う?」

「え? えっと……」


 僕は並べられた薬草を一つずつ手に取ってみた。

 正直、どの薬草がいいのか、全然わからない。

「ごめんなさい、ビルさん。僕、まだ薬草の種類とかあまりわからなくて」

「そうか。だんだん覚えればいいよ。頑張ってね」

 ビルは並べた薬草の中から、黄色っぽい薬草と紫っぽい薬草を残して、ほかの薬草は箱のなかに戻した。

「薬草の種類って、どうやって覚えればいいんですか?」

「うーん。工房にも薬草辞典は何冊かおいてあるけど、デニスから聞いてない?」

「初耳です」

「……そうなんだね。薬草辞典は二階の広間の棚の中にあるから、時間のある時に見てみたら良いんじゃないかな?」

「そうします! ありがとうございます!」


 ビルはニコリと笑うと「じゃ、僕は調合に戻るね」と言って、工房の大きなテーブルで作業を始めた。

「あの、ビルさんの調合、見てても良いですか?」

 僕の問いかけに、ビルはきょとんとした後で微笑んだ。

「別に構わないよ」


 僕はビルの向かいに置いてある椅子に腰かけて、テーブル越しにビルの調合方法をじっと見つめた。

 ビルは薬草や薬品を慎重に量り、フラスコに入れていく。水もガラスのカップに書かれた目盛りを確かめながら少しずつフラスコに入れている。

 何をどれだけ入れたかをノートに書きながら丁寧に作業を進めていくビルを観察していると、ビルが僕のことを見た。

「他人の調合を見ることはあまりないのかな?」

「はい、いつもは自分のことで手一杯で周りを見ている余裕がなくて……」

「そうなの? ……そうか」

 ビルは目を伏せて、つぶやいた。

「……なのに、あんなに高品質なポーションを作れるんだ……」

「え? なんですか?」


 僕が首をかしげると、ビルは慌てたように右手を振って「なんでもないよ」と笑った。


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