要領を得ないモノ
「このままではこの都市に住む人全ての人と共倒れするのですよ!?何故それが分かっていて燻っているのですか!」
第十五階層の一角、都市の中でも屈指の影響力を持つクラン[有給消化器官]の応接室にて声を荒げる琴音だが、相手の四十代程の男は困った顔をして要領の得ない言葉を並べるだけであった。
「さっきも言っただろう、私には、いや私達にはこの生き方しか残されていないんだよ」
「先程から申している通り仰っている言葉の意味が分かりません。この様な生き方以外など選べる程多く存在しているでしょう。何故よりにもよってこの様な地獄に執着するのですか。貴方は知っている筈でしょう?この都市の現状を。アルラルトがいなくなった今、水も電気も魔力も枯渇して下層階のみならず上層階でも物資の奪い合いや有用な魔法を使える者の奪い合いが激化しています。この様な地獄に一体どんな魅力があるというのですか…!」
「………君の言いたい事は理解できる。しかし何度もいうが私達にはこれしか無いんだ」
「ですから_!」
「もう帰ってくれ!!何を言われようと私は君達に協力できない!!!」
俯き、悲痛の表情でその言葉を吐き捨てる。最初から最後までこの男が何を考えているのかもわからないまま話し合いは終わり、琴音達は渋々と帰路に着く。
「またダメでしたね。もう他に有力なクランは残っていませんよ」
「……桃華、聞いているんでしょう?」
この場には琴音と陽介と安城の三人しかいないが、いつ何が起きても良い様に超遠距離から桃華がこちらを見ている筈と虚空に声をかける。
『勿論聞いているよ。でも残念、アルラルトの奴何処にもいないや』
「クランに属していない者達の勧誘はどう?」
『それもダメっぽいよ、みんな狂った様に現状を変えようとしない』
「これも運営の差し金だと思う?」
『う〜ん。もし仮にそうだとしても人を洗脳する魔法何て聞いたことがないし、この都市のプレイヤーを含む数百万人の人々を洗脳できるとは考えにくいかな。だからこそ、どちらかというと人格改変や世紀末の様な現状に酔って市民全員が狂人化したと考えた方がしっくりくる』
魔法の単純な規模だけを考えればそれなりの力があるプレイヤーであれば都市丸ごとどうにかする力を持つ者もいるだろう。現に桃華であればそれなりの規模の魔法を行使できる。
しかしそれを数日数ヶ月と続けるのであれば話は別だろう。そんな事ができるのは仁や千咲の様に常時地球から魔力を汲み上げられる様な化け物じみた実力を持つ者のみ。その仁でさえ長期間大量の魔力放出と補給を繰り返していれば次第に体が摩耗して自滅するのだが。
「覚者は…?」
『ん?』
「覚醒者ならどう?覚醒者が行使できる偉業なら実現可能なんじゃない?」
『できるだろうけど……やっぱ思いつかないんだよねぇ、そんな魔法使うプレイヤー何て。覚醒者ともなれば細々とプレイしているプレイヤーでさえ名前が知れ渡るっていうのに』
オープンオンラインワールドでプレイする以上、クエスト中やらダンジョンの中やらイベント期間やら街中で買い物している時にやら、何処かしらで自らが覚醒者である事がバレてしまうもの。
もっともレベルやステータスを覗き見されるのを恐れて隠蔽の魔道具や技能を使う者も多いが、それでも覚醒者ともなればソロでプレイしている者は極々少数、幾ら隠そうが大抵仲間が仲間へバラしていき結局皆に知れ渡る。
「なら人の洗脳を前提にした魔法では無いとしたらどうでしょう?」
『こんにちは安城さん。それで、どういう事かな?』
「エネミーの使役には心を通わすものもありますがその殆どが洗脳や調教による強制的な使役なのですよね?」
「成程、確かにエネミーを洗脳する魔法が人間にも効くとすれば…」
『でもやっぱり規模がおかしいでしょ。あり得なくない?馬鹿でかい都市に散らばる数百万人よ人間に魔法をかけるなんて』
「ありえなく無いと思いますよ」
先程から周囲に殺気を放ち威嚇する事で襲撃から二人を守っていた陽介が口を開く。
茜が連れ去られた件移行外にいる時は常に戦闘モードで集中して滅多に自分から喋る事が無くなってしまった彼だが、一人思い当たる人物がいる様だ。
「プレイヤー名[爆弾ハンバーグ]家族ぐるみでブレサリをプレイしていたらしく情報も乏しい為覚醒者という確証はありませんが、アイツはエネミーを使役して戦闘するプレイヤーで尚且つ、覚醒者だけで組まれたパーティ[吊るされた聖杯]に勧誘された事があるという噂がありますので、覚醒者である可能性もあるかと」
『随分と美味しそうな名前の人だね。人物像は?』
「平和的で温厚で物腰柔らかなお父さん。自分を襲ってきたPKerからも物資を奪わなかったって話を聞く程お優しいプレイヤーだったらしいですよ」
「そんな人がこんな事するのでしょうか?」
「考えにくいと言うのが本音だけど…」
『人格改変の事を考えればおかしくない。運営陣の覚醒者の生き残りは[ペスティア]と[秀人]という人物と[トーマス]と恐らく[アルラルト]となると、この秀人って人がその爆弾ハンバーグなんだろうけど、みんな会ったことある?』
桃華の言葉に皆否定の言葉を述べる。
実際の所、景虎とアルラルト以外は表にでてこない為如何に覚醒者であろうとこの二人の他にトーマスくらいしか12席次の覚醒者には会えない。
そしてそれに加え下級職員への聞き込みでもペスティアと秀人、特に秀人の情報は一切聞くことができなかった。
その事を考えればますます秀人という男が怪しく思える三人。
「もしこの秀人って覚醒者が人を洗脳できる魔法が使えるとすれば仁君が洗脳されている可能性とあって事だよね」
「もしそうなら最悪ですね」
『ああ、考えうる限り最悪な状況だね』
「えっと…どう最悪なんでしょう?」
『そりゃ勿論、彼が本気で私達を殺しにくる可能性があるって事が最悪なんだよ。もし洗脳されてるのであれば、如何に啓文さん達でも容赦なく殺される恐れがある。まぁ、そうなっても良い様に戦略は練っているつもりだけどねぇ…』
「相手はその強さの余りプレイヤーのバン申請願いを集団で出される程のPKerですし、ワンチャン思いもよらない初見殺しで一瞬にして壊滅させられる可能性があるんですよ。丁度数日前の俺たちみたいにね」
「成程……」
PKは一つの遊び方として許容されていたし、仁は暴言や迷惑行為までしていなかった為バンはされなかったがその一件で[死を望まれた者]という称号によって多少アクセサリースロットが使用不可になるデバフを受けている。
しかしそのデバフを意に介さずPKを続けた彼はいつしか恨まれながらも一周回って皆から認められる様になっていった。アイツは本物だと。
全プレイヤーから一目置かれたPKerの本気の殺意を果たして受け止められるだろうかと考えるだけでも嫌になってくる彼等だが、それでもやらねばならぬと今一度覚悟を決める。
「それでも倒すよ」
「ええ」「分かってます」
『勿の論だよ。茜ちゃんと琴音ちゃんにしでかしてくれた事の仕返し、必ず受けてもらうよ。仁君?』
敵が強大である事は再確認できた。民衆が烏合の衆以下の有象無象である事も理解できた。勝ち目が薄い可能性も出てきた。しかし決意は漲った。
交渉や説得はもうお終いだと帰路に着く。
時間は無いのだ、もうなす事を見誤らない。
茜を助ける為、この都市に反旗を翻す為、彼女達は次の手を打とうと行動し始める。
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「無様だな」
無骨な石壁と冷たい鉄格子に囲われ、両手首を[魔封じの枷]に繋がれた茜へ声をかける仁。
戦闘時に身につけていた修道服は没収されたのか、今や麻布一枚で作られた服とも呼べない様な代物しか身につけていない為、角度によっては水着姿であろうと隠されている部位が見えてしまう。
「お前こそ惨めだな。あの傲岸不遜のPKerジンともあろう者が今や欲の権化共の奴隷か?」
「その姿でも達者な口は健在か、随分と元気そうじゃねぇの。そんなに元気なら最期に一発ヤっとくか?お前の言う通り欲の権化は掃いて捨てる程いるぜ?」
「奴隷に成り下がって話題まで下劣なものになったのか。最早怒りを通り越してお前には呆れたぞ」
「はははっ…良いねぇ。ここだけの話テメェの処刑が行われる前にガキ共を色んな方法で殺す余興をする予定なんだよ。メインディッシュのお前が前菜のガキ共を殺されて絶望する顔が今からもう楽しみになってきた。そんでお前を殺された時の桃華と琴音の顔もなぁ?っははは!アイツ等きっと逆上して俺等を殺しにくるぜ?そしたら最期にアイツ等だ、テメェの幼馴染二人とも、お前と同じ所へ行けるように俺が__!」
ガンッ!!!
仁の言葉を遮り耳をつん裂く金属音が牢獄に響く。
魔力を封じられ碌なものを口にさせてもらえず水すら十分に摂取できていない為相当弱っている筈の茜だが、それでも人間離れした速度で牢屋の奥から鉄格子に頭突きをかまし、それを咎めようと枷が彼女の両腕を引っ張る。
枷に繋がれた鎖に引っ張られた手首からも鉄格子に物凄い威力の頭突きを繰り出した額からも血が流れるが、その程度の事気にする様子もなく恐らく彼女が人生で発したどの声よりも低く殺気の籠った声で言葉を発する。
「余り私達を舐めるなよ小僧…!!楽に殺して欲しいなら過ぎた行動は控えろ…!これ以上舐めた真似をするのならお前ら都市運営の人間一人残らず肉の一片血の一滴人々に残る記憶の残滓すらも一つ残さず人類史から消し去ってやるぞ!!精々その足りない脳で必死に覚えておくんだなぁクソガキ…!!!」
動物の本能的恐怖を鷲掴みにする様な威圧感に、仁の額から脂汗が流れる。
(はっははは…。何だよこの殺気、本当に魔力封じれてんのかこれ?すげぇな、いやマジで。思わず檻と枷の鍵を渡したくなっちまう程怖えじゃねぇの)
「覚醒者が三人揃ってあの体たらくのお前等だが、そこまで大口叩くんなら見せてもらおうじゃねぇの。お前等塵共の本気とやらを」
それだけ言って牢屋から立ち去ろうと踵を返す仁だが、「ああそうだ」とここに来た当初の目的を思い出し牢屋に一冊の本を投げ入れる。
「こんな殺風景なゴミ溜めじゃ相当暇してんだろ?最後の慈悲だ。死ぬまでによくよく読んでおくと良いよ、お姉さん?」
「………。」
半笑いの仁から渡された【ブレサリ大辞典】という妙に厚みのある本を、胡散臭そうに掴み中身を閲覧する。
(何か狙いがあるのか?それとも本当に暇潰しの差し入れをしに来たのか?)
ページを捲れど捲れどブレサリの基本的な知識や様々なエネミーの生態、スタンダードな技能から聞いた事もない様な魔法まで本当に様々な事が書いてあるだけで何か伝えたいことがあるとは思えない。
しかしきっと何かある筈だと縋る様にページを捲る。
(有力なプレイヤーの情報だと…?しかも無駄に詳細に書かれている…。一体誰がこんなものを書いたんだ?[ライブラリ]の連中か?いや、あの者達でもここまで詳しく固有スキルや称号の情報まで掴めているとは考えづらいし、何より仁と接点がない筈……となると[賢者]がこれを?だが結局何を伝えたいのかはわからない。仁の情報も載っているしこの本の知識を使って自分を殺して見せろとでも言うのか?いや、奴が私達の魔法を封じた手段は書かれていない。となると本当に暇潰しの為に用意したのか?)
「失礼します。こちら仁様からの贈り物です」
突然一人のバニーガールが入っきて下着と包帯を渡してきた。
本に引き続き何故この様な物を用意して渡してきたのか真意がはかれず困惑するが、もらえると言うのならば受け取ろうと女の手からその二つを受け取る。
「アイツ、お前にこれを渡す時に何か言っていなかったか?」
「え?えぇっと…確か『いやぁ、小僧の俺にはちょっと刺激が強かったものでね』と仰られていました」
「そうか、ありがとう」
「では失礼します」
恐らく新品の物であろう下着を履き包帯を胸に巻き、一つ結論を出す。
(腕と頭の痛みが和らいでいく…治癒効果のある包帯か。成程、如何に魔封じの枷といえどその枷に直接触れているモノの魔力しか封じられないのか。そして何より、仁は恐らく心まで運営陣についたわけでは無いのだろうな。演技の上手い奴め……いや、私が攫われた日のアイツの言葉も一つの真実だったのだろうな。……まぁ何はともあれ、この本を私に差し出した理由を見つけ出さないとな)
そう考え空腹や渇きに耐え寝る間も惜しみページを前に後ろに捲っていく。
そしてどれ程時間が経ったかは分からないが遂に一つヒントを見つけることができた。
(これは…僅かに紙が折り曲がっている事で適当に本を広げた時仁が長い間開いていたページが開きやすくなっているのか。幾つか開きやすくなってなっているページはあるが………あぁ、成程。コイツか…コイツ等が……)
【ブレサリ大辞典】の内容より一部抜粋。
【___。また、上記に記した[爆弾ハンバーグ][爆弾ホットケーキ][爆弾おにぎり]の三名は[デリシャスボム]と言うパーティーで活動しており、リアルでは家族関係にあるとの噂である。
特筆すべき点としては、[爆弾ハンバーグ]は、覚醒者のみで構成されたパーティー[吊るされた聖杯]に勧誘された事があるという噂が立っており、その能力は遠方よりエリアボスを呼び寄せて使役したり、短時間ではあるがレイドボスでさえも使役する事ができる事が分かっていると言う事だろう。(追記:支配魔法は世界改変後、実力の差がある場合に限り人間でさえも洗脳する事ができる事が分かっている。{実験済み})
そして[爆弾おにぎり]は覚醒者では無いものの確認されているものだけでも18種類の魔法を使用できる事が分かっており、上記に記している通り[マジックホルダー]の称号を獲得している。が、基本的には攻撃魔法は使わずバフや回復支援、敵へのデバフや拘束などサポートに回る事が多い。とはいえ隙さえあれば強力な弱点をつく魔法を使用する為攻撃魔法が不得意という訳では無いだろう。
[爆弾ホットケーキ]は個人として特筆すべき点が無いものの、元よりバランスが良く高いステータスを有している事もあり[爆弾おにぎり]によるバフ支援を受けた状態では全プレイヤー屈指の戦闘力を誇る。一例を挙げるとするのならば、[ワールドクエスト:果てなき豊穣の宴]では全ステータスがS以上になっていた。
パーティー単位の戦闘力としては、適正レベル130程度のレイドダンジョンならば三人で攻略できる程度の実力を有している。
(追記:改変後には恐らく最初から三人揃って居る可能性が高い為、接触した際には最大限の警戒が必要だろう。)】




