頼み事
お茶を淹れようとした柊を洗濯物と一緒に自分の部屋に追いやり、ソファに深々とすわる。
「お茶なんていらんだろう?」
「ああ」
「んじゃあ月城さん、俺の分はお茶淹れて」
「畏まりました」
「お前は飲むのかよ…」
「ははは。ちょっとしたジョークだろ?お前さんが怖い顔してるからちょっと言ってみただけだよ。んで、何の様?」
「先程、月城から『近日中に以下の事を実行しない限り12席次及び上位職員を殺す』と伝言を受け取った。あれは本当か?」
「以下の事を実行ってのは?」
「は?お前があいつに伝えたんだろ?」
「いいから」
「…はぁ。上級職員の総入れ替え、下級職員の契約改定及び待遇の改善、12席次[厄災のペスティア]によって病を患った者の完璧な治療、だったか?」
仁の名前を使ってこれ見よがしに要求を伝えた月城にジト目を向ける。
苦笑いで仁の前にお茶をおきそそくさとキッチンへ逃げていく月城に何も言えずにアルラルトの方へ向き直す。
「ああ、そうだな。いったな、うん」
「そうか。ではまず上級職員の総入れ替えの件だが、これについては難しい」
「何だ、意外と使える人材いんの?」
「ああ、今抜けられるとまずいのが数名、だが柊の直属の上司の様な最近仕事をせずに堕落した者達であれば直ぐにでもできる。というよりお前の考えているだろう酷い職員は柊の上司、奥田という奴と仲の良い奴等の事だろうし、この者等は全員奴隷へ落とそう」
「は?できんのに何でやらなかったんだ?」
「こっちにも色々事情があるんだ」
「ふ〜ん。で?お前が考えている奴全員解雇して柊みたいな奴は満足いくのかね?」
「その点も、後々詫びをいれようと思う」
随分と素直なアルラルトに首を捻る。
(何か裏があるのかね?まぁ、探るのも面倒だから直球に聞くか)
「やけに素直だな、何か狙いでもあんのか?」
「単純にお前に事を起こされたらたまらないからだ」
「ダウト。覚醒者のくせに魔力揺らぎすぎ。でも完全な嘘じゃ無いな、言えないのか?」
「……あれが全てだ」
何やら様子のおかしいアルラルトを不審に思い適当に身体チェックしていた魔力を鋭くし、アルラルトと月城以外の魔力が部屋に無いか確認する。
(無いな)
「この家の中の音は魔道具でも盗み聞きができんぞ?」
「…本当に特に狙いはない」
(狙いはあるんだろうがこうも分かりやすいのは逆に違和感があるな。ここじゃ信用ならんのか)
「まぁいいや、続きをどぞー」
「ああ。次の契約改定と待遇改善に関してだが、俺ではこの点をどうにかすることはできん」
「理由は?この都市はお前さんのものなんだろう?」
「いや、この都市は12席次のものだ。そして俺の言う事を聞く12席次は多くない」
「驚いた。アンタ人望ないのな」
「まぁ、力が使えなければ所詮ただのゲーマーだ。お前の言った様に安直な考えしかできない俺ではできることなんざ限られてるのさ」
「はえぇ…」
この町のトップがアルラルトではなく、むしろアルラルトの立場が強くない事に驚くというより拍子抜けと言った感情をもつ。
「んで最後のは?」
「…お前、ペスティアについてどこまで聞いた?」
「いや何も?誰それって感じ。正直いって月城さんには好きに要求伝えてこいっていったから、マジで何も知らん」
「は……?」
理解ができないと言った様に惚けるしかできないアルラルト。
「じ、じゃあお前は何でそんな事…」
「色仕掛け要員をけしかけた事への嫌がらせのやり返しだけど、分からん?」
「…そういう事だったのか……」
安心した様に息を吐くアルラルトの魔力からは安堵の感情が伝わってくる。
「じゃあ本当に武力行使は_」
「するぞ」
「え?」
「それはするぞ、だからとりま欲に溺れたゴミ共の屠殺はちゃんとやれよ」
「わ、わかった」
「で、最後のやつなんなん?」
「ああ、ペスティアは12席次の一人で覚醒者でもある者だ。病魔の魔法を操るアイツは色々な人間に実験と称して病を植え付ける性同一性障害者だ。主に美人な女か、女の親族に魔法をかけて、『治療して欲しければ全力でイかせて見せろという』変態だ」
「うわぁ……。うわぁ…」
「そして、月城と月城の弟もあの女の餌食になった。俺もできる限り注意したり薬を作ってはいるが、俺は病魔に効く薬を専門に研究していたわけではないし、進行を遅らす程度しかできていない」
「あれ、月城さんも柊と同じ上司かと思ったけど、違うんだ」
「ああ。なんなら処女だぞ、本当に要らんのか?」
「茶化すな。そんで、こっちもどうにもならんと?」
「ああ。所詮俺ではどうにもできん」
「つかえねぇーなー…」
「使えませんねぇ…」
「月城、お前後ろ盾ができた瞬間やけに強気だな。マジで俺にお茶出さねぇし…」
最初の一つ、それも部分的にしか叶えられないというのだから、仁が本気でアルラルトに敵対していたのならこの場で戦いが起きていただろう。
そういうレベルで何もできないアルラルト。だがそんな現状に思うところはあるらしく、月城をハンドサインで下がらせた後、無言で封筒を渡してきた。
「お前にやれるものはこのくらいだが、どうか許してほしい」
「は?」
黙って受け取れと言わんばかりのアルラルトの意思を汲み、「分かった」と一言言ってそれを受け取る。
「だが、今後柊の様な者を出さないのは約束しよう。何なら、そちらにいる[賢者]の力を使ってこちらを探っても構わない」
「おーけーおーけー、そうするよ」
「……お前、本当はそんなキャラなんだな。威圧的な感じとどちらが本性だ?」
「どっちも、気分次第って感じだよ」
「そうか…最後に一つ聞きたいんだが、お前はクーデター軍に加わるのか?」
「いや?俺はどっちにもつく気がないよ」
「そうか。ありがとう、有意義な話し合いだった。お前という男がどんな奴か知れたしな。では、俺はこのくらいで失礼する」
「おう。んじゃあな」
そう言って一人で帰ったアルラルトだが、月城は忘れていたわけではなく普通に置いて行った。
「話し合い終わったー?」
「終わったー」
「あら?飲み干していただけましたか、どうでした?」
「美味かった。じゃあな」
「え?私は帰りませんよ?」
「なぜぇ?」
「それは勿論、アルラルトが使えない以上仁様に媚びて媚びて媚びまくってあのクソ女を殺していただこうと思いまして」
「やだよ、何で俺が」
「対人最強なのでしょう?」
「だからって何で俺がやらんといけんのよ」
「私の体だけでは満足できませんか?」
「はぁぁ……」
会話にならない、というより確実に聞く気がない。むしろ引かなければ確実に請け負ってもらえるというような考えがある様に思える。
「お前が何と言おうと俺はソイツを殺さんぞ?」
「そうですか…なら、私は仁様がいいと言うまでこの家に住みます」
「よし分かった交渉くらいはしてやろう。だがまた今度だ、そんで助けられんのは良くてお前の弟くらいだ。良いな?」
「ええ!流石仁様です!」
そう言って腕に抱きつかれる仁。
腕に胸が当たることで長らく眠っていた性欲が少し湧いてくるが、それよりも月城の鬱陶しさが勝ったためそんな欲直ぐに踏み潰して魔法を発動する。
「あっ…」
人の腕程の太さの幹が月城の体を仁から丁寧に敷き剥がす。
「隙あれば色仕掛けして来んのやめろ。もうお前のその仕事は無くなっただろ」
「いえ、これは私の本心からくる行動です。仁様を取り込めばこの都市思うままにできそうなので」
「…丁寧な言葉遣いってのが俺は好きじゃないがお前は一生その口調でいろ」
「ええわかりました。仁様の唯一の特別な女というわけですね?」
「すっご、メンタル強。もう七週くらい回って好きになっちゃうかも」
「うふふふふ。ああそれはそうと、仁様オシャレの勉強していらっしゃるのですよね?」
「あ?おい柊てめぇ色々入れ知恵したろ」
「したよ?」
(え?何その平然な顔。全く悪びれないじゃん。え?俺がおかしいの?)
その言葉を口に出す気力も湧かずに、諦めた…もといいつもよりも死んだ目を柊に向ける。
「………。」
「それで、オシャレの勉強であればきっと私も力になれますので、明日からも来ますね?」
「明日は予定あるから、やるとしても明後日からだな」
「では明後日からも来ますね?」
「はあ、良いんじゃないですか?」
「ふふふ。何だか可愛く思えてきました」
「あ、わかる。私弟いなかったけどもし居たらこんな風なのかな?」
「いえ、もう少し口調が柔らかくてもう少し可愛げがありませんよ」
「そうなんだ。じゃあ仁、今日もやろうか」
「………。」
何故だか勝てそうにない二人にその後も好き勝手され、いつの間にか女装をしていた仁は、帰ってきた啓文達に盛大に笑われる事となった。
夜。自分以外誰もいない部屋でそっと封筒を開ける。
リビングで開けずに態々寝静まった夜更けに開けるのには理由がある。
(【この封筒は絶対に誰にも見られない様にしてくれ】ねぇ?封筒を出す時にインベントリの魔力じゃないものを感じたし、恐らくあの場でこれを作ったな、アイツ。即興で作ってでも伝えたいことがあるって事だろうが、はたして何が書いてあるのやら)
【これを読み終わるか、誰かに読まれそうになったら迷わず消してほしい。魔法による盗撮にも警戒しろ。
先程お前が感じだ違和感について話がある。
六日後の25時頃、誰も居なくなった劇場にて待つ。
頼む、お前しか頼れる奴が居ない。
この都市を救ってくれ。】
短い文章であるが何故かアルラルトの必死さが窺えた。
読み返す必要もなさそうなので魔法で作り出した自作の食虫植物に紙を消火させ考えを巡らす。
(六日ごとなると桃華に呼ばれた日か。深夜の誰も居なくなった劇場って書いてあるし恐らくダブルブッキングにはならずに済むだろうが…この都市を救ってくれって一体何を考えているんだ?クーデター軍が勝ったら不味いのか?それともアイツ単体じゃ強い権力がないらしいし、もしかしたら階級社会を作って愉悦に浸る黒幕が他にいるのか?)
様々な考えを巡らせるが本人がいないのだからこれのどれが正解なのか、はたまた正解がないのかが分からない。
もやもやとする感情をどうにか沈めてベッドに潜るがこのままでは眠れそうもない。
(きっとあの封筒はあれだ、俺を欺くための罠だ。うん、しっくりきたよし寝よう)
明日は真衣と出かける約束があるので、無理やり自分を納得させて魔法の研究もせずに眠りについた。
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