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メイド共観察日記~それを編集して小説に~  作者: ナレーショナー: [データ削除済]
第0章 終わりを告げる夜明けの暁
9/27

8 幼子 ~日記の続き~

 

 ニルソニアがローゼに近づいていく。


 歩みは走行へ、走行は疾走へ、疾走は疾駆へ。

 偶然、階段状になっていた書類を蹴り上がり、

 飛び上がり、

 空中でローゼの両肩をつかみ、

 強張(こわば)った顔に微笑みかけて、

 小さな膝を鳩尾(みぞおち)にぶちこんだ。



 鈍い音がした。


 ニルソニアは紙を巻き上げ、着地する。

 ローゼは紙を巻き込み、後ろに吹き飛んだ。



「今あなたは私の信頼を裏切ったの」


 白紙が舞い散る中、吸血鬼は冷たく嗤う。


「ローゼ・キュリエイド。この状態から私を納得させる言い分があるなら、言ってみなさい」






 最期の言葉を言い終わるや、衝撃があった。


 いつの間にか吹き飛んだはずのメイドが抱き着いていた。



 当然、驚いたのは抱き着かれたニルソニアだ。

 ローゼを引きはがそうとして、声もなく泣いているメイド(彼女)を見た。




 驚いたのもつかの間、

 ニルソニアは日記をメイドに読まれたことを思い出し、


『同情された』


 そう、心から感じ、


「何よ。哀れみならいらないわよ。それと、離れなさい」


 と、冷たい拒絶を発した。




 だが、

 その願いは、

「同情で泣いて"いるわ"けでも、(いた”)みに涙し"て"いるわけ"でも、あ"りませ"ん。安堵と、嬉しいのと、少しの怒りが混ざった"嬉し涙です」

 ローゼには、届かない。

 離れるどころか、抱き着く腕に力を込めた。




『誕生日』に予想外の(日記を読まれ、)ことが起き(オルゴールを鳴らされ)

 荒ぶりささくれ立っていたニルソニアの心は、

 知らず知らず、冷静に考えることが出来る程度には、落ち着きを取り戻していた。



 それでも、心の奥底(思い出)に土足で踏み込まれた怒りは消えなかった。

 メイドの言ったことを信じられなかった。




 もう一度拒絶しようと、メイドの体を押しのける。


 人間はいとも簡単に吸血鬼の力によって引きはがされる。


 ただ、引きはがすときに、吸血鬼は、ローゼの蒼眼を覗いてしまった。

 それだけで、吸血鬼は固まった。動けなくなった。拒絶できなくなった。



 ―――知らぬ間に泣き止んでいた深蒼の眼に感じたものは、哀れみや同情ではなく、本当に純粋な感謝や安堵―――



 メイドは固まった吸血鬼(主人)に語りかける。

「私は小さい頃に御嬢様――御主人様(お嬢様)(すく)い上げてもらいました。」

「あのとき、御主人様(お嬢様)は心身ともに、私を死から(すく)い上げてくださりました。」

「あのままだったら、私はわたしではなくなっていたでしょう。」


 だから

 だからこそ


御主人(ニルソニア)様に私の()()をもって恩返ししたいのです。」

「でも長年おそばにおりましたが、御主人(ニルソニア)様は、特別なことは何も願わず、何も求めず、お心を私に、明かしてはくれませんでした。」

「お前にできる事は何もない、そう言われているような気分でした。」


「それももう今日で終わりです。」





「やっとやっと、ニルソニア様に長年の感謝を返せます。」






 そう独白して、主人の頭を胸にもっていき、優しく抱きしめた。


 吸血鬼は、反射的に拒絶しようと、押しのけようとするが、

 頭から伝わるやさしくて、それでいて少しぎこちない手つきが止めた。


「お嬢様――いえニルソニア様。私はどこにも行きませんよ」


 気づいたらローゼの胸に顔を押し付け、

 何年ぶりだろうか、吸血鬼――ニルソニアは大声で泣いた。


 その光景は、さながら――――――――――――


 ――――――――母親が子供にするような、、、
















 それは、――――――シミだらけの日記。日付は今からきっちり二百十年前。


『お父様、お母様どこにいるのですか。』

『かくれんぼなら、百年経っても見つけられない私の負けです。』

『私が悪い子で怒っているのなら、ご飯も残さず食べます。』

『嫌いな人参も食べます。言いつけも守ります。』

『あの日頂いたお母様のオルゴールも返します。』

『日記として使ってしまっているけど、お父様から頂いたこの手帳も返します。』

『誕生日も祝わなくてもいいです。プレゼントもいりません。』



『だから、だから、一緒にいてください。私を一人にしないでください。一生のお願いです。』


『私は、ニルソニアは――――――』




 この次のページは、メモ――『いってきます。待っててね』と走り書いているものが張りつけてあった。



 この続きは、水にでも濡れたのか、にじんで読めなかった。
























 もうすぐ、吸血鬼の『夜』が明ける。

[実は、右側の引き出しには、ローゼを買ってからの日記が入っていました。その日記が読まれると人形劇が崩れるので、ローゼさんには見えないようにしておきました。それを忘れて何度やり直したことか……]


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