95 スケルトン軍団消滅
「うわあああっ、乳神様が、乳神様が去って行かれるー」
スケルトン軍団に包囲を解かせ、モコ牛を解放した。
体の羊毛は全て刈らせてもらったので、毛がなくなってみすぼらしい姿になっているけど、僕たちは羊毛が手に入ったのでこれでいい。
毛がなくても、あのモコ牛たちはきっと元気に生き続け、そしてまた僕たちに羊毛とミルクを提供してくれるだろう。
「死ぬんじゃないぞ、資源の成るモコ牛たちよ」
「兄さん、その言い方はおかしいですよ」
「金の生るモコ牛とか言わないだけましだろう」
「……」
なんてやり取りを、僕とユウはする。
「乳神様ー!」
そしてミカちゃんは平原に去っていくモコ牛たちを見て、大絶叫で涙を流していた。
このまま僕たちを見捨てて、モコ牛たちの方へ走り出しかねないので、ミカちゃんの尻尾をレオンとリズ、さらにドラドの3人がかりで掴んで、何とか抑えている。
ミカちゃんの世話がかかるのは、いつもの事だ。
「クッ、目障りな牛どもめ。もう2度と私の前に現れるな」
……。
あと、フレイアが物凄くブラックになっていた。
種族が違うのに、胸の大きさで負けたのをものすごく恨んでる。
この子、将来本当に怖い子になりそうで怖い。
というか、もうすでにその鱗片が確実に現れてるけど……。
まあ、そんなこんながありつつも、平原で出会ったモコ牛たちと分かれた。
モコ牛の毛を刈って、羊毛を持ちきれないほど手に入れることもできた。
「旅に出て5日経つし、そろそろ家に帰ろうか」
初めての狩りと、採集作業。自宅周辺の地理も多少は知ることができた。
そして寝ることも疲れることも食うことも必要としない、手駒の労働用スケルトンが100体以上手に入った。
今回の旅は、この辺りでいいだろう。
僕が兄弟たちに呼びかけると、兄弟たちも元気に同意の返事を返してくれた。
――GYYYYYAAAAOOOOOーーー!!!
と、そんなところに響くのはマザーの声。
『子供たち、そろそろ帰ってらっしゃいー!』
マザーの姿は見えないけれど、大気を振るわせて聞こえてくる。
ただあまりにも声がでかいから、声だけで大地が震動する。
震度3か4はある。
マザー、マジで存在自体が半端ない。
それから数分ほど経つと、バサバサと翼のはためく音がして、太陽の光を黄金の鱗に反射させながら、マザーが空から僕たちの傍へと降りてきた。
『子供たち、皆無事でよかったわ』
「マザー」
「マザー」
「マザー」
『マザー』
僕たちが5日間駆けて歩いてきた距離を、マザーはひと飛びで飛んできたのだろう。
久しぶりに会う我が子たちの姿を見て、マザーは嬉しそうに喉をグルグル鳴らし、兄弟たちもマザーを見て嬉しそうな表情をする。
ただ全長120メートル越えのマザーが喉を鳴らす音は、それだけ聞くと嬉しそうというより、威圧感の方が半端なくある。
僕らは家族なので気にはならないけど、他の生き物は殺されるとでも思って、この辺一帯から全力で逃げ出してるだろうね。
「ああ、マザーの胸もマミーみたいに大きければなー」
「ミカちゃん、頼むから守備範囲は人間とドラゴニュートまでで収めよう。それ以上いくと、ヤバすぎるって」
「……俺も、俺だって分かってる。でも、本能には逆らえないんだ。この世界に生まれてから、エロ雑誌すらなく、1年以上耐えてるんだ。
だから、だから俺の本能が牛でもいいと……ゲフッ」
もうやだこのおっさん。
面倒なので僕は拳を一撃くらわしておいた。
これもまた、いつもの光景だ。
ところで、家族が再会できて喜んだのもつかの間、
『あら、変なのがいるわね?』
マザーは僕が作ったスケルトン軍団を見て、ちょっと表情を硬くする。
――ドガンッ
無言で後ろ足を上げて、それから下ろす。
たったそれだけの動作で、スケルトン軍団の半数以上が一瞬でぺちゃんこにされ、地面に白い粉の跡だけが残った。
この粉はもちろん、スケルトンどもの骨の残骸だ。
原型は完全になくなり、文字通り粉となってしまった。
「へっ、マザー……?」
なぜに、マザーはスケルトンどもを葬るのか?
僕がそう思っている間に、もう一度マザーは足を上げて、そして降ろした。
――ズズンッ
それによって残っていたスケルトン軍団が全て消滅した。
僕が名付けてやった社畜警備員も、ただの地面に引っ付く白い粉と化した。
『さあ皆、お家へ帰るわよ』
「Noーーーー」
マザーは変なのがいなくなってせいせいした顔。
だけど、僕は労働用の手駒が一瞬で踏み潰されてしまい絶叫した。
――なぜ、どうして、こういう結果になるんだ!
『レギュちゃん、あんまり変なのと一緒にいちゃダメよ』
そんな僕の前で、マザーは喉をゴロゴロ鳴らしながら言う。
労働用のスケルトンは、マザーにとってただの変なの扱いで終わりらしい。
ハッ、ハハッ……。




