86 お仕事は、楽しいよ?
マザーなしでの狩りの旅3日目。
昨日倒した砂蜥蜴の食べ残しを、フレイアのファイア・ブレスで炙って、朝食にしていた。
「ウマー、ガツガツガツ」
「油があまりないですね……噛み応えはとてもいいですが」
食欲魔人ミカちゃんは相変わらず食べることに余念がない。
リズの方は、グルメリポートをしている。
――ガタガタガタガタガタガタ
「……」
そして肉を全部落とした砂蜥蜴の骨がスケルトン化していて、顎を鳴らしているのが鬱陶しい。
他の兄弟たちは今更スケルトン程度では驚かない。
せいぜい、動くおやつ程度としか認識してない。
でも、ユウはスケルトン蜥蜴を黙って見ている。
「ううっ、僕の能力って……」
またしても死霊術の能力を暴発させたわけで、ユウはガクリと項垂れている。
「いっその事そいつらに狩りをさせて、ユウは見てるだけでいいんじゃないか?」
「それはダメでしょう。ドラゴニュートとして生きてくために、自分でも狩りができなきゃいけないし」
「あ、この前の説教を真に受けてたんだ」
とことん真面目なユウは、僕がしたお説教をしっかり覚えてたんだね。
「真に受けてたって……」
「死霊術はユウの能力なんだから、こいつらに代わりに狩りさせてもいいんじゃないか?
まあ、自分単体でも狩りができた方が間違いなくいいけど」
「……僕が自分で狩りをします」
いろいろ悩んでいることはあるようだけど、それでもはっきり答えるユウ。
「そうか、分かった」
その覚悟を聞いて、僕は頷いておいた。
――ガタガタガタガタガタガタガタガタ
しかし、それにしてもこのスケルトンども煩いな。
「……」
――バラバラバラバラ
しばらく見てたら、スケルトンどもが死んだ。
いや、もうすでに死んでるから、これ以上死にようはないけど、バラバラに崩れて動かなくなった。
「兄さん、どうやってスケルトンを倒したんですか?」
「別に特別なことはしてないよ。
ただ顔を見ながら、『よしよしお前たち今日から永久に仕事ができるぞ。よかったなースケルトンに生まれ変われて。疲れることも飽きることもなく、ただひたすら働き続ける。楽しいぞ労働は』って、心の中で語っただけだ」
「……」
ユウはなぜか沈黙してしまう。
「ブラック労働ダメ。人権無視ダメ。おうち帰れないダメ」
ミカちゃんもなぜか肉を食う手を止めて、小声でそんなことを呟いていた。
お仕事は、楽しいよ?




