77 大草原の野生児ミカちゃん
前回ミカちゃんの服が、フレイアの炎で燃えてしまった。
ミカちゃんの服はオークの皮製でそれなりに頑丈だけど、まさか屁が原因で全焼してしまうとは……。
オークなんて立派な名前がついていても、所詮2足歩行するだけのただのブタだ。
炎で焼けば、皮なんて丸焦げになってしまう。
とはいえ服が焼けてしまったミカちゃんを、全裸のままにしておくわけにはいかない。
「ワハハハ、大自然を感じるぜー」
生まれた時以来の全裸に、ミカちゃんは野生を取り戻して笑い声を上げている。
2本の足で大地を踏みしめ、偉そうにない胸を突きだし、両手を腰に当てている。
「ワッハッハッハッハー」
「ワッハッハッハッハー」
ミカちゃんにつられて、レオンも真似をし始めた。
教育上、大変よろしくないね。
その後は太陽が沈んでしまい、ミカちゃんの蛍光灯以外の明かりもなくなったので、やることがなくなった兄弟たちは、みんな眠っていった。
でも、僕とユウは起きている。
夜の内にその辺にある草を集め、それを寄り合わせて拙いながらも、草の綱を作る。
草の背丈が低いので、綱と言ってもかなり短いけれど、それをなんとかがんじがらめに編んでいって、無理やり服を作り上げる。
いつものモンスター皮の服と比べて、かなり見劣りするボロい服が出来上がった。
そして僕とユウが協力して服を完成させたときには、朝になっていた。
完全に徹夜だけど、ドラゴニュートの体力は人間と違うので、一晩徹夜するくらいでは、体の負担にならない。
「うおおおっ、朝じゃー!」
そして太陽が出ると共に、ミカちゃんが元気に飛びあがる。
服がなくなったことで、ミカちゃんの野生児レベルが、格段に上昇している。
このまま放っておくと、原始人ミカちゃんから、スーパー原始人ミカちゃんになりかねない。
「ミカちゃん、ぼろいけど服を作ったから、これを着ておこうか」
「……ヤダ!全身で風を感じ……ブギャー!」
「さあ、服を着ようか」
「は、はい、レギュ様。だからやめて、それ以上拳でいじめないで……」
抵抗したので、肉体言語を使って無理やり草の服を着せておいた。
「兄さん、お願いですから暴力以外の方法を使いましょう」
「ユウ、ミカちゃんが言葉だけで納得しないのは分かってるだろ」
「……」
ユウが沈黙したってことは、僕の意見が正しいと認めているわけだ。
ミカちゃんには、言葉で注意しても無駄。力以外では、あの子は人の言うことを聞かない。
なお、その後野生児ミカちゃんが元気に走り回りだした途端、草の服がバリッと音を立てて破けた。
所詮、付け焼刃で作った服だから仕方ない。
でもせっかく作った服を、どうしてすぐに破るんだよミカちゃん。
「レギュレギュ、この服脆すぎ」
情けない顔をするミカちゃん。
「……ドラド、その帽子をしばらくミカちゃんに貸してくれないか?」
「GYAOOー!」
ドラドの帽子をマント代わりにすれば、とりあえずミカちゃんを全裸から脱せられる。
でも、ドラドはそれを拒否。
『レギュ兄、ドラド裸は嫌』
と仰せだ。
ドラゴン体形のドラドに全裸も何もないと思うけど、兄弟たちが服を着ていることに影響されて、ドラドは頭にかぶっている帽子を自分の服だと思い込んでいた。
「……どうしよう、ミカちゃんよりドラドの方がまともだよ」
『レギュ兄、ドラドはミカちゃんよりまともだよ!』
「あ、うん、そうだね」
末っ子のドラゴン体形のドラドにまでこう言われるとは、ミカちゃんって本当に……
そんな僕たちの前で、ミカちゃんは破れた服を着たまま、
「ワハハハハ」
と、豪快に笑って走り続けていた。
なにがそんなに嬉しいんだ?
野生児の思考は、僕にはさっぱり理解できない。




