75 ドラゴニュートさんご一家狩りの旅に出る
前回、僕とミカちゃん、ユウの3人で自宅周辺の探索をしようとしたけれど、我が子がいなくなったことに気付いたマザーによって、強制帰宅の刑に処された。
子供を心配するマザーの咆哮はすさまじく、地震を起こしながら僕たちのいる方向へ走ってきた。
……マザーを怒らせてはダメだ。
いや前回のは怒ったのでなく心配したのだろうけど、子供を心配する母は恐ろしい。
なまじその母親が、身長120メートルの空を飛べるドラゴンだから、恐ろしさのレベルは天災級だ。
仮にここが現代地球の都市部だったとする。
僕たちが勝手に家を飛び出したら、マザーが僕たちを探し回るために大暴れするだろう。
その時はきっと、都市にあるビル群が壊滅し、国家の軍隊すら壊滅させられる。
日本だったら国会議事堂や都庁が破壊された挙句、スカイツリーも東京タワーもへし折られるね。
そう、昭和の大怪獣ゴジ○のように、暴れまわるマザーによって……。
なんて愚にもつかない想像はここまでにしておくか。
とりあえず、探索を勝手にするのはダメだということは分かった。
また勝手にやったら、子供がいなくなって心配するマザーに食われてしまう。
マザーに食われて、共食いのトラウマを思い出すなんて嫌だよ!
でも自宅の周辺を探索する機会は、思っていたより早くやってきた。
『さあ皆、今日はお母さんと一緒に狩りに行きましょうね』
と、マザーが言ったからだった。
僕たちはまだ子供のドラゴニュートだけど、野生の中で生きていくためには狩りの仕方を覚えないといけない。
マザーの狩りについていくということは、ついにその時が来たというわけだ。
「クックックッ、かつてPvPで頂点を極めし俺の実力を見せつける時が来たな」
1人クツクツと笑うミカちゃん。
でも、ゲームと現実を混同するのはよくないね。
なので僕が、
「ミーカちゃん」
って、笑いながら呼びかけると、ミカちゃんが気色の悪い笑顔を浮かべたまま凍り付いた。
「ななな、何でもございませんです、レギュ様。だからやめて、暴力反対、力づくで全てを解決するなんてよくないよ。野蛮人だよ。だからやめて―」
「そうだね、たしかに野蛮でよくないね。だから僕に暴力を振るわせないでね。フフフ」
笑ったら、ミカちゃんは素直に首をコクコクコクコクと高速で縦に振りまくった。
まあ、そんなことがありつつ、ついに狩りに出発だ。
なお、この日の為にいろいろと準備してきた僕たちは、次のような装備品を用意していた。
ここはミカちゃんにならって、ゲームっぽくいくとしよう。
――えっ、ゲームと現実の混同は良くないって?
そんなの知らん。
・レギュラス
職業、魔法使い兼格闘家
武器、拳
防具、オークの皮の服
・ミカちゃん
職業、剣士
武器、ブルーメタルタートルの剣
防具、オークの皮の服
・ユウ
職業、死霊術士?
武器、ブルーメタルタートルの剣
防具、カニ甲羅の盾、オークの皮の服
・レオン
職業、水魔法使い
武器、ブルーメタルタートルの剣
防具、カニ甲羅の盾、オークの皮の服
・フレイア
職業、炎魔法使い
武器、なし
防具、オークの皮の服
・リズ
職業、槍使い
武器、怪魚の骨の槍
防具、カニ甲羅の盾、オークの皮の服
・ドラド
職業、ドラゴン
武器、体当たり
防具、竜皮の帽子
と、これが僕たち兄弟の装備になる。
もっとも職業に関しては適当。
僕たちって人間離れしたパワーと防御力があるから、本当は殴るのが一番強かったりするんだよね。
それと以前作った竜皮のマントだけど、あれは完全に産廃になってしまった。
見た目は格好いいんだけど、翼で飛ぶとき邪魔にしかならない。
ドラドが頭に被っている帽子だけが、唯一有効活用されている。
そんなわけで、狩りの準備も万端。
僕たちはマザーと共に、狩りへ出かけることになった。
なお狩りだけど、現場まで僕たちは歩いて移動。
ドラゴニュートなので空は飛べるけど、あまり長時間空を飛んでいることができない。
ドラゴン自体が長時間飛ぶのが苦手なのか、あるいは僕たちが半分人間だからか、はたまた成長途上のせいなのか……。
自宅周りを飛んで移動するのは普通にできるけど、長距離を飛び続けるのは無理だった。
ただマザーの場合は規格外で、1日や2日空を飛び続けるなんて簡単にできるらしい。
僕たちに獲物を運んでくる時は、朝晩関係なく狩りに出ていたので、マザーはドラゴンらしく、底なしの体力があるのだろう。
で、フル装備で出発した僕たちは、太陽の方角から西北西の方向へ移動する。
視界の端まで続いていた荒野を超えると、その先には草の生い茂る草原が広がっていた。
当初は荒野との境目だったので、草はポツポツと物悲しい程度しか生えてなかったけど、歩いていくにしたがって、草の生えている割合が増えていく。
僕たちの膝にも届かない高さの草だけど、それでも草原と呼べる場所へたどり着く。
「ステップ気候って感じかな。農地には適さないけど、放牧をするにはよさそうだね。将来ここで動物を飼って、労働者を……ブツブツブツ」
僕は楽しい未来の構想を練る。
「嫌ですわ。レギュレギュの脳内が企業家思考過ぎますわ」
「ミカちゃん、いきなり気持ち悪い女言葉はやめてよ」
ミカちゃんが突っ込んできたけれど、そこにさらに突っ込みを入れるユウ。
「やかましかー」
――ガプッ
「ヒギャッ」
直後ミカちゃんが問答無用でユウの頭に齧り付いた。




