24 自宅拡張工事?
文明人目指して、原始人から石器時代人へクラスチェンジした僕たち。
でも、石器時代人になったつもりで、実は蛮族になっただけかもしれない。
狼の毛皮のマントを着て、使っている道具は劣化黒曜石の道具ばかり。現代日本から見れば、石器時代人も蛮族も違いなんてないよね。
でも、当事者である僕は違うと思う。
少なくとも、そう思わせてほしい。
そう思ってないと、涙が出そうだ。
――カーンカーンカーン
――ザックザックザック
ちなみに現在僕たちは、巣のある断崖絶壁の壁を採掘中。
腹ペコ化して襲ってくるミカちゃんを、僕が毎回放り投げて岩場にめり込ませたり、道具の作成の為に何度も岩を削っていた。
その結果、岩場に大きな空洞が出来上がり、今では僕たちの住居である木造の巣と、同じぐらいの大きさの洞窟が出来上がっていた。
いつの間にか自宅が広がって、2倍の大きさになったわけだ。
断崖絶壁で始まった僕たち兄弟の人生だけど、今までより行動できるスペースが2倍に広がった。
――やったね、マイルームが広がったよ。
ちなみに出来上がった洞窟は、外から太陽の光が差し込むのでそれなりに明るい。
兄弟たちは、新しく出来上がった洞窟でキャッキャ、ワイワイと遊び回っている。
ならばせっかくなので、僕たちは岩場をもっと掘り進めて、自宅の拡張工事をしていく事にした。
その作業音が、冒頭の音だ。
そして採掘の為に必要になる道具は、いつものように岩場から切り出して作った、劣化黒曜石製の道具だ。
今回作ったのは穴掘りの定番、ツルハシ。
これで、固い岩でも掘削していくのが楽ちんだ。
それに大きな岩を砕くことができる、巨大ハンマーも作成。
その大きさは、4、5歳児の背丈しかない僕たちより大きいけど、ドラゴニュートの怪力があれば、簡単にふり回すことができた。
もっとも、僕らはハンマーを使わなくても、素手で岩を砕ける力があった。
さらに地属性に対しての適性が高い、三女のリズと四女のドラドに至っては、腕を使わなくても魔法で岩を削れた。
そのせいで、ハンマーの必要性が非常に乏しかった。
でも、それも気にしちゃいけない
絶対に気にしてはいけない。
でないと、せっかく作ったハンマーの意味がなくなるから……。
なお、ツルハシの方はハンマーより遥かに使えるので、こっちは自宅の拡張工事に役立っていた。
「ガーハッハッハッ、雑魚がいくら集まっても俺様には勝てんぞー」
ところで工事をしている傍らで、蛮族大王ミカちゃんが(使い道のない)ハンマーを振り回して遊んでいた。
「イター、ミカちゃんハンマーで頭叩かないでよー」
そして三男のレオンの頭を、ハンマーで殴りつける。
人間だったら、頭が砕けそうな一撃だけど、相変わらずドラゴニュートは頑丈なので、ハンマーで殴られたレオンはピンピンしている。
とはいえ、さすがにノーダメージとはいかず、レオンが涙目になって頭を押さえる。
「あ、やべ。砕けた!」
なお、砕けたのはレオンの頭でなく、ハンマーの方だ。
をぃ、見た目だけ幼女のおっさん。子供相手にハンマーで殴りかかるって、どういう頭してるんだ?
そして相変わらずドラゴニュートの防御力高すぎ。
あと、僕が作ったハンマーを壊すなよ!
使い道がなかったからって、お前のオモチャじゃないんだぞ!
――ギロッ
「レギュレギュ、これは事故だ不可抗力だ」
「やかましい、このクソガキがー!」
兄弟内で道具製作を担当しているのは僕。ユウも協力はしてくれるけど、魔法を使っての石材加工となると、兄弟内では今のところ僕にしかできないことだった。
人の苦労を水の泡にすることにかけて、ミカちゃんは天才的だ。
「ワー、レギュレギュも口から火を噴けるんだー。私と一緒だ」
大慌てで逃げ出すミカちゃんを、僕は追いかける。
そんな僕を見て、なぜか次女のフレイアが嬉しそうにしていた。
僕は風の属性竜の性質を持ってるから風を操れても、炎の属性竜の性質を持つフレイアみたいに、火を噴くことはできないんだけど。
あ、いや、ちょっと怒りすぎて、口から魔法で火を出してたや。
いやー、前世で魔王してた頃に、口から火を噴けたら、相手を威圧したり恐喝するのに便利だったので、なんとなく覚えちゃったんだよねー。
なお、この後ミカちゃんの顔面を岩の壁にめり込ませておいた。
これで反省してくれればいいけど、どうせいつもの事なので、本人はこのことをすぐに忘れて、また道具を壊すんだろうけど。
とまあ、ミカちゃんとこんなやり取りがあったものの、自宅拡張工事の話を続けよう。
岩場をツルハシやハンマーで削り、砕いていくと、どうしても小さな岩の欠片がたまってくる。
これが馬鹿にならないほど出てくるので、かき出すためのスコップも作成した。
スコップと言っても、家庭菜園などで土をいじる程度の物でなく、工事現場などで使われる大型のサイズの物だ。
ツルハシに、ハンマーに、スコップ。
これらの道具類の柄には、劣化黒曜石でなく、ドラゴンマザーが持ってきてくれる謎肉に混ざっている、モンスターの骨を使ってみた。
マザーが持ってくる獲物は巨大なモンスターも多く、腕や足、あばらなどの骨が、長い物もあった。
生前は巨大なモンスターの体を支えていた骨だけあって、その強度はかなりのものだ。
柄部分は、劣化黒曜石より骨で作った方が、耐久力があって壊れにくかった。
「なあなあ、レギュレギュ。これってモンスターをハンティングするゲームの生産職だよな。モンスターを素材に道具作ってるんだから」
「……」
「そうだ、モンスター素材から武器も作ろうぜ!」
先ほど懲らしめたミカちゃんが早くも復活し、嬉しそうに提案してくる。
というかミカちゃんのいた日本にも、モンスターをハンティングするゲームがあったんだね。
「それじゃあ、これをあげる」
「骨?」
どうせ作らないと子供みたいに駄々をこねるだろうから、僕はミカちゃんの欲しがってる武器をプレゼントした。
といっても、岩場を採掘している際に耐久限界がきて折れてしまった、ツルハシに使っていた骨だ。
「ただの壊れた骨じゃん。おやつにするか?」
道具の柄に使える頑丈な骨だけど、僕らドラゴニュートにとっては、かみ砕いて食べれるおやつにもなる。
味は大したことないけど、ガリガリゴリゴリと口の中で噛み続けてると、空腹を紛らわせることができた。
あと、はまるとなぜか噛み続けたなくなる、中毒性がある。
人間でいえば、ガムとかスルメを噛んでるようなものかな?
ただ、今回渡した骨は、ミカちゃんのおやつ用ではない。
「いや、武器だよ。折れた骨って鋭く尖ってるから、これで突き刺すことができるよ。竹槍ならぬ、骨槍……ボーンスピアかな」
「おお、これがボーンスピアか。英語で言うと格好いいなー」
ただの折れた骨を、感動した目でキラキラと眺めるミカちゃん。
そう言えばこの子はVRゲームしてたら、なぜかこの世界に生まれ変わっていたと言ってたね。
ゲーマー魂に火でもついたかな?
「でもさ、レギュレギュ。いくら名前が格好良くても、これってただの手抜きだろ」
「ちっ、バレたか」
「ブーブー、もっと格好いい武器が欲しいー」
「はいはい、だったら自分で作ろうか」
ボーンスピアなんて大層な名前を付けても、所詮はただの折れた骨。
ミカちゃんがそのことに気付いてしまったけど、僕は武器を作る職人じゃない。
大体、まともな武器なんて作ったことないし、作るとしたらどれだけ手間がかかると思ってるんだろう。
服を作る時だって、物凄く苦労させられたんだし。
なお、武器の自作を提案されたミカちゃんだけど、
「俺に、武器が作れるわけがなかろう!」
ツルペタな胸を強調しながら、偉そうに言ってきた。
なぜ、自信満々で偉そうに言うんだ?
でも、この子の我儘をまともに相手なんてしてられない。
「僕は忙しいから、ミカちゃんで頑張ろうね」
「あー、酷い。それが可愛い妹に対する態度かよ、兄貴ー」
「都合のいい時だけ妹ぶるなよ、おっさん」
「ウー、武器が欲しいー、武器が欲しいー」
まるでスーパーのお菓子売り場で、欲しいお菓子を買ってもらえなくて、だだをこねる子供だ。その場に転がって、イヤイヤし始めるミカちゃん。
結局こうなってしまったか。
なので、僕はそんなミカちゃんを放置することにした。
さて、ツルハシで家を拡張しないとねー。
本来の目的は家の拡張なんだから。
――ガプッ
なんて油断してたら、ミカちゃんに頭を噛まれた。
「武器、俺の武器ー」
頭を噛まれても僕にダメージはないけど、頭上からミカちゃんの涎が垂れてくる。
髪が濡れるどころか、そのまま大量の涎が顔を滴り落ちていく。
このおっさん!
転生して外見だけでなく、精神年齢まで完全に幼児に退化してやがる。
面倒なので、僕は尻尾をミカちゃんの尻尾に絡めた。
それから思い切り力を入れて、へばりつくミカちゃんを引き剥がす。
そして真下にある地面に、叩きつけておいた。
「ヘブオシィー」
ミカちゃんが、いつもよりいい声を上げるね。
クリティカルヒットかなー。
「兄さん、地面に罅が入ってるからちゃんと直しておいて」
ミカちゃんを退治したのはいいけれど、あまりに強く地面に叩きつけたせいで、岩の地面が砕け、小さな穴ができてしまった。
そのことをユウに注意されてしまう。
「……わ、わかった」
俺は悪くえね!
そう言って全部ミカちゃんのせいにしてしまいたいけど、僕は黙って穴の開いた地面を直すことにした。
わがままおっさんのミカちゃんとじゃれ合ってると、こんなことがよくあるから仕方ない。
あとがき(今頃になって気づくニブチン作者)
あれっ?
この話って断崖絶壁スタートじゃん。
開始早々、人生詰んでねぇ?
(生まれて早々、兄弟で共食いを始める蜘蛛人生よりはましだけど)




