21 念願の服とズボンを作ったぞー
前回と苦労して毛皮のマントをこしらえたけど、その後も工夫を凝らして服の製作を続けている。
何しろ今の僕たちは、マント1枚だけ着ていて、その下は全裸なんだよね。
これを現代日本で置き換えると、マントを着るなんてコスプレくらいだから、かわりにコートを1枚だけ着ているような状態だね。
夜道を歩いている若い娘さんの前にいきなり表れて、コートをガバっと開いて、男の象徴物を見せつける変質者……。
うん、確実に犯罪だ。
お巡りさんに逮捕されるね。
昭和の日本で、そんな事件があったとか、なかったとか……
そんな変な話をしてみたけれど、ここは日本のある地球とは別の世界である上に、断崖絶壁にあるドラゴニュートの巣。
兄弟7人とマザーしかいない場所なので、逮捕もなにもあったものじゃない。
……というか、この世界ってまともな文明が存在してるのかな?
マザーが持ってくるのは野生生物やモンスターの死骸だけなので、文明が存在しているのか分からない。
そんな外の世界の事はさておいて、衣服の製作の続きだ。
目指せ、脱変態衣装!
今回はゴブリンとサイクロプスの皮を剥ぎとって、鞣し作業をしていく。
ゴツゴツしていて、狼の毛皮のように肌触りが良くない。
死後時間が経過しているので、固くなってしまっているけど、それを鍋で煮込むことである程度柔らかくする。
なお鍋は、サイクロプスの頭蓋骨があったので、それをひっくり返して使ってる。
頭蓋骨鍋って、どこの世界の魔女だろうね?
いや、魔女が使うのは大釜が主流なので、アフリカかアマゾン奥地の、未開地域にいる呪術師か?
まあいいや。
前世が魔族だった僕は、一時期頭蓋骨鍋で自炊してたことがあるので、多少懐かしく思いながら、この頭蓋骨鍋を使用した。
ただ、頭蓋骨の隙間から水が漏れ続けるのが難点なんだよなー。
粘土があれば塞げるんだけど、ここには粘土がない。代わりに、謎肉の肉片や狼の毛皮についている毛で、無理やり隙間を塞いでいるけど、火が当たると燃えてしまう……。
手に入る物が限られまくってる環境なので、しょうがない。
そんな苦労がありながらも、鍋で煮た後も手間のかかる鞣しの作業をしていき、ゴブリンとサイクロプスの鞣し皮が完成した。
ふー、皮を鞣すのは大変な作業だ。
なのに、
「メシー!」
「これはミカちゃんのおやつじゃないからね?」
「ウガーッ!」
ミカちゃんが腹ぺコードに突入して、なめし皮を食おうとしてきた。
こいつは皮をなめす間は遊びほうけているので、この作業がどれだけ大変か理解してない。
それどころか、食おうとするな!
――ゲシゲシッ、ガンガンゴン
「ヒデブウッ!」
ちょいと足蹴り。
ついでにモンスターの大骨があったので、それで頭を軽く何度か叩いて、沈めておいた。
うーん、今の僕って、棍棒代わりの大骨を武器に、マント1枚で戦ってる。
……なんて原始人スタイルだろう。
あるいは、どこかの蛮族?
自分で自分の格好を見て、泣きたくなるや。
ドラゴンマザーが狩ってきた動物やモンスターを素材にして、それを武器や防具に加工して装備する。
……一体、どこのモンスターをハンティングするゲームだろうね。
リアルでこんな状況なので、泣けるよ。
なお、モンスターの骨よりドラゴニュートの拳の方が遥かに頑丈で、実は直接殴る方が骨で叩くより攻撃力があったりする。
ミカちゃんの頭を叩きすぎると、今以上に馬鹿になりそうなので、手加減しておかないとね。
「ふっかーつ!」
「はいはい、骨でも齧ってなさい」
手加減したせいで、すぐに復活してしまった。
しょうがないので、ミカちゃんを殴った骨と他数本を渡しておいた。
「ウガー」
「ウガー」
「ウガー」
そして骨に食らいつくミカちゃん。さらに他の兄弟たちも集まってきて、午後のティータイムならぬ、午後のおやつタイムを始めた。
「クッ、貴様に俺の骨は渡さんぞ!バリバリボリボリッ」
僕の渡した骨を巡って、ミカちゃんが集まった兄弟たちを押しのけながら、骨を意地汚くかみ砕いていく。
三男坊のレオンと四女のドラドの顔面に蹴りを入れて、骨から遠ざける。兄弟に対して顔面蹴りとか酷いよね。
まあ、僕もミカちゃんの顔面に、尻尾蹴りとかよくかましてるけど。
ところでミカちゃんが蹴りを入れている間に、その隙をついて三女のリズが背後から骨を一本抜き取った。
が、ミカちゃんは容赦なく、回転蹴りを放って、踵でリズの顔面を攻撃。
おいおい、女の子相手になんて技使ってるんだ!
ただし顔面に蹴りを食らっても、リズはピンピンしてるんだけどね。
相変わらず、我ら兄弟の耐久力は、人間と比較にならない。
「ウー、ミカちゃんばかりズルい!」
なんてミカちゃんが1人で骨を独占していると、次女のフレイアが涙目になる。
「……フレイア安心しろ。お前は食べていいぞ。だから、将来その胸をたわわに実らせるんだぞ」
「ワーイ。あ、ミカちゃんくすぐったいってば。ア、アヒヒ、アフフッ」
両手でフレイアのツルペタな胸を揉み始めるミカちゃん。
僕らの兄弟の女性組の中では、ミカちゃんとフレイアだけが人間に近い外見をしている。
同じ女性組でも、リズはリザードマンの外見、ドラドに至っては完全にドラゴンの外見をしていた。
あのおっさん、次女にだけは甘いんだよな。
下心が、全開なんだよ。
胸を揉むことで、フレイアを将来巨乳に成長させるつもりらしい。
相変わらずのエロおっさんだ。
とまあ、いつものようにドタバタがあった。
ちなみに、さっきのおやつ争いに僕とユウだけ未参加だ。
これでも元は日本人なので、骨を巡っての戦いなんか参加しないよ。
犬じゃないんだから。
さて、衣服を作るための作業を続けていく事にしよう。
服を作るためには、皮を針と糸で縫う必要がある。
それと皮を切断する際には劣化黒曜石のナイフがあるけど、ハサミもあると便利だね。
針に関しては今までに何度も作っているので、お手の物。
三女のリズを呼んで、巣の近くにある岩を削り出してもらう。
それを僕が重力魔法と土魔法の合わせ技で劣化黒曜石にして、ウインドカッターで細かい整形をして完成だ。
ただ今回欲しいのは縫い針なので、作った針の後ろに、糸を通すための穴を空けておいた。
それとハサミも、針を作るのと同じ要領で、魔法で加工して作成。
劣化黒曜石のハサミだ。
僕の行う一連の作業を、リズはしげしげと眺めていた。
同じ事をやりたそうにして、ウズウズしていた。
なのでリズも重力魔法を使って、劣化黒曜石を作る練習をするけど、この前のようにバラバラに砕けた岩ができるだけだった。
「難しい……」
「これは意外とコツがいるからね。すぐに真似できるようになったら、僕が困るよ」
「むうっ」
僕は簡単に劣化黒曜石を作っているけれど、実はこれ、かなり難易度の高い魔法操作が必要だ。
なので、生まれたての子供にすぐに真似できるようなものでない。
伊達に前世で魔王はしてないですよ。
しばらくリズが劣化黒曜石を作る練習をしたけど、結局岩が砕けるだけなので、やがて飽きてしまう。
いつものようにミカちゃんが兄弟たちの中心になって遊んでいるので、リズはそっちの方へ行った。
なお、ミカちゃんは兄弟たちを前にして「巨乳とは男のロマンであり、大宇宙の神秘であり、すなわちこの世界の真理なのです」などと、仰々しく宣っている。
しかもミカちゃんの背後からは後光がさしていて、神々しい輝きまで発していた。
まるで神に仕える聖職者。いや、それ以上の存在だ。
ちなみにあの後光、光魔法による輝きだったりする。
瞑想からの魔法の練習は全くできないくせして、欲望まみれの話となると、瞑想をするより遥かに深いレベルで集中できるらしい。
ミカちゃんは光の属性竜の性質を持っているので、集中力が高くなっていくと、無意識のうちに光魔法を使えてしまう。
フレイアやレオンが瞑想中に、火球や水球を無意識に作り出してしまう。
あるいは、以前ユウの魔法が暴走して、無意識にアンデットを生み出してしまったのと同じだ。
なお、巨乳がどうとか偉そうに説法するミカちゃんは、その後次女のフレイアの胸を両手で揉んで、セクハラ行為を始めていた。
「フレイア、こうやれば大人になった時に胸が大きくなるからなー。グヘヘヘヘ」
「アウウッ、ウヒンッ」
まだまだ外見は幼女なのに、胸を揉まれて、興奮した声を上げるフレイア。
体は小さいけど、声が無駄に色っぽいぞ。
そしてミカちゃんの顔は、完全にエロおっさんの顔と化している。
黙っていて、何もしていなければ天使のように愛らしい顔立ちをしているのに、今のミカちゃんには元の愛らしさが一片たりとも存在しない。
どうやれば、元の愛らしい顔立ちから、あそこまで顔面の崩壊したおっさん顔になってしまうのだろう?
……
……
……
――ガンッ
危険な香りしかしないので、僕はその辺に転がっていた岩をミカちゃんの頭に投擲して沈めておいた。
「ミカちゃんも大概だけど、兄さんの暴力も日に日にひどくなっていく……」
なぜか、ユウが困った顔をしてるね。
僕、何か悪い事したっけ?
変態妹をちょっと黙らせただけなのに。
そんなこんなも日常の事。
ミカちゃんの将来が甚だ不安すぎるけど、衣服の製作作業の続きだ。
鞣した皮を劣化黒曜石のナイフとハサミを使って裁断。
ナイフは直線に切るときは便利だけど、曲線に切るときはハサミの方が扱いやすい。
とはいえ、お手軽で作った劣化黒曜石のハサミだ。
切れ味には限界があり、どうしても裁断がうまくいかないこともある。
鉄製のハサミなら、もっと切れ味がいいだろうけど、ない物ねだりをしても仕方がない。
そんなこんなの苦戦がありつつも、何とか裁断が完了。
衣服を縫い合わせるには糸がないけど、これは鞣した皮を細長く裁断して、革製の糸を作ることで解決した。
皮製品に対しては、普通の糸では強度が足りないから、同じ皮の糸で縫う必要がある。
もっとも太さ的には糸と言うより紐に近いけど。
今は、便宜上糸と呼んでおこう。
ただ、ここから皮を縫い合わせていく作業で、かなり苦労させられた。
鞣してはいても、ゴブリンやサイクロプスの皮はかなり固い。
ドラゴニュートの力があるので、固い皮に針を通すのは問題ないけど、肝心の針の方が皮の固さに負けて、折れてしまうことが何度もあった。
やっぱり劣化黒曜石では限界がある。
それでも何十本もの針を犠牲にして、四苦八苦させられまくって、何とか皮の服とズボンを作成することができた。
なお、この作業には僕と共に、ユウも参加している。
全裸脱出の為、僕とユウの2人でとにかく頑張ったよ。
もちろん原始人ミカちゃんが、僕らの作業に全く参加してないのは、今更言うまでもないことだ。
でも、こうして僕たちはなんとか皮製の服を手に入れた。
「ああ、服だ。服だ。僕らは文明人だー!」
上着とズボンを着れて、大感動だ。
皮の原料が原料なので、色合いもデザインも酷いものだ。
それでも全裸にマント1枚の姿から、ようやく脱出できた。
なお、この服も、マントの時と同じで、兄弟の人数分製作しておいた。
「うーん、ゴワゴワするー」
「動きにくいー」
しかし、今まで全裸が当たり前だった兄弟たちには、評判があまりよくない。
「ウガー、服なんて着てられるかー!」
あと原始人が一匹、せっかく苦労して作り上げた服を破って、暴れ出した。
「このクソ野郎!その服作るのに俺とユウがどれだけ苦労したと思ってるんだ!」
――ガンッ
ものすごくムカついたので、拳で原始人を沈めておいた。
「……ワー、ワー、この服嬉しいなー」
「た、大切にするー」
ミカちゃんが沈むと、それまで服に対して不評を口にしていた兄弟たちの反応がなぜか180度変化した。
声が平坦で棒読み臭いけど、それはきっと僕の気のせいに違いない。
「よしよし、いい子だな。お前ら」
とってもいい弟妹を僕は持ったものだ。
長男としては、感動だよ。
「兄さんの暴力に、みんなが怯えてる……」
ところでユウ、君は何を言ってるのかな?
僕は暴力なんて振るってないよ?
ダメな妹に対する、兄からの愛の拳は打ったけどさ。




