19 名付け
「レギュレギュー、名前、名前欲しいー」
「名前ー」
この世界に転生してから1カ月半。
転生組を除いたドラゴニュートの弟と妹の成長速度が半端ない。
外見的には生まれた時からたいして変わってないけれど、ミカちゃんやユウが日本語を教えていたら、もうこれくらいの言葉を理解して、話せるようになっていた。
そして僕たち転生組にはレギュラス、ミカ、ユウと名前がある。
そこで自分たちも名前を欲しがってきたのが、赤い髪の次女と、青い髪の三男坊だった。
ちなみにこの2人、それぞれ尻尾をパタパタと左右に機嫌よく振っている。
まるで犬だ。
今まで次女とか三男坊扱いしてたから、いい加減兄弟に名前を付けてやらないといけないだろう。
というわけで、早速兄弟たちに名前を付けることにしよう。
兄弟の名前を考えるのは、転生組である僕とミカちゃんとユウの3人。
「グフフフフ、次女にはあみちゃんの名前がいいなー。あるいはめぐみや奈々も捨てがたい」
名前を考えてくれるのはいいけど、ミカちゃんの顔が物凄くおっさんの下卑た笑みになっている。
見た目は愛らしい幼女のはずなのに、前世の27歳おっさんの、下心しか存在ないエロ顔と化している。
キモイ、化け物レベルでキモイ!
「ミカちゃん、参考までに聞いておくけど、その名前はどこから思いついたの?」
「俺の、愛と勇気と希望の巨乳グラビアアイドルの名前だ!」
両手を腰に当てて、ツルペタのない胸突き出して、なぜか威張って宣言するミカちゃん。
「「……」」
その発言に僕とユウの2人は沈黙だ。
てか、ドン引きだよ!
「巨乳、至高、男の夢!」
そしてその言葉に反応して、次女がそんなことを口走りだす。
「オッパイ、オッパイ」
さらにはすぐ傍にいる三男坊が、次女の胸を揉み始めるというトンデモ事態が直後に発生した。
「ああ、馬鹿野郎!女の胸を揉んでもいいのは、この俺だけだ!弟のくせに、女の胸を揉むんじゃない!」
セクハラを始めた三男坊の顔面に蹴りを入れて、ぶっ飛ばすミカちゃん。
三男坊の体が空中を飛んでぶっ飛んでいくけど、今更僕たち兄弟の中で、この程度の攻撃に今更驚くことはない。
「ウヘヘッ。将来お胸が大きくなるように、おじさんが大切に揉んであげようねー」
そして、ただのエロ親父と化した、見た目だけ幼児。中身がエロ親父のミカちゃんが、次女の今はツルペタな胸に両手を当てて、揉み始め……
――ビビビビ、ビンタ!
セクハラ親父を黙らせるため、僕はミカちゃんのにやけまくった顔に、尻尾で連続ビンタをしておいた。
黙っていれば幼女で可愛らしい顔立ちをしているのに、今のにやけ切った顔には愛らしさなんて微塵もない。むしろ、その顔で、どうしてそこまでのエロ親父顔になれるんだというくらい、ミカちゃんの顔は原形を失ってエロ親父化していた。
「ミカちゃん、頼むから兄弟に変な教育をしないでくれる?」
「レギレギュの馬鹿野郎!女はな、巨大な胸があってこそ価値があるんだ!だからこうして小さいころからよく揉んであげて、将来俺の大好きな巨乳美女にしてあげようと……」
「黙れ、変態エロ親父!」
変態親父がこれ以上しゃべれないよう、僕はその顎を蹴り上げた。
実はミカちゃん、巨乳が至高とか抜かす妙な教育を、たまに兄弟たちに施している。それが原因で、純真な兄弟たちがこんなにも影響されていたとは……。
「フガー、ムガーッ!」
蹴られたミカちゃんが、顎を抑えて地面の上を転がりだした。しばらくしゃべることができないだろうから、これでいい。
あれくらいで顎の骨が砕けるほど、僕らは弱くないから大丈夫だし。
「とりあえず次女は炎の扱いがうまいから、フレイかフレイアってのが妥当かな?」
「フレイアがいい!」
エロ親父の変態教育は完全に黙殺して、次女の名前について再度考えることにする。
幸い、フレイアという名前が、気に入ったようだ。
「炎の扱いが得意だからフレイア……安直すぎる気が……」
「安直でもいいでしょう」
ユウが何か言いたげだったけど、本人が気に入ったので、次女の名前はフレイアで決定だ。
次に三男坊。
ミカちゃんに蹴っ飛ばされていたけど、ケロッとした顔ですでに復活している。
さて、青い髪をしていて、水の扱いに長けている三男坊の名前か……。
「フレイアと同じように付けるなら、水の扱いに長けている三男は、ウォーター……だとそのまますぎるから、レインとかですかね?」
ユウが提案する。
「あ、レインはダメ」
「どうしてです?」
ユウの提案はダメだ。
少しだけ長くなる話だけど、僕の前世の魔王時代、魔王軍の幹部にレインと言う名の幹部がいた。
魔族なのに土木工事が大好きな変わり者の銀髪魔族だったけど、ある日大雨で川が増水した時に、それに巻き込まれて流されてしまった。
後日、川の下流で発見されたけど、水の飲み過ぎて腹がパンパンに膨れ上がって、溺死していた。
そんなことを話したら、
「魔族が増水した川に流されて溺死って……」
ものすごく微妙な顔をユウがする。
「そりゃ仕方ないって。魔族って人間より強くて頑丈だけど、大自然の力は、時にもっと強力だから」
そう、大自然の脅威は恐ろしいのだよ。
まあ僕の場合は魔法で人工的に大津波を発生させ、100キロ四方の海岸沿いの都市をまとめて壊滅させた……なんてことも前世ではしたけどね。
「ねえ、溺死ってなーに?」
「水に溺れて死ぬことだよ」
「よく分かんないや?」
少し過去を振り返っていた僕の傍で、三男坊とユウがそんなことを話してた。
「レインは曰く付きの名前だったから、僕としては反対だね。とりあえず、レイル、スレイ、レオン、レクトル、クレイン……」
「レオンがいい!」
「よしよし、じゃあお前の名前は今日からレオンだ」
「分かった、レギュレギュ!」
てな感じで、適当に思いつく名前を上げていたら、三男坊はレオンと言う名前に食いついた。
「レ、レオンだと……将来イケメンになりそうな名前でムカつく!」
そして、さっきまで顎を蹴られて悶絶していたミカちゃんが、早くも復活してきた。
しかしこの子、今世では女の子に転生したのに、中身が非モテのおっさんのままだよ。
前世では確実に、リア充吹き飛べって連呼してたんだろうなー。
「ミカちゃん。レオンなんて名前は、地球ではザラにいたんだよ。当然デブのレオンさんとか、非モテのレオンさんなんて、世界中にゴロゴロいたはずだから」
「そうだとしても、気に入らない……。どうせなら蛸三郎って名前にして……」
「お前、弟の名前まともに考える気がないだろ!」
このおっさん、本当に訳分からんよ。
で、この後三女と四女も呼んで、名前を考える。
三女はドラゴニュートというよりは、リザードマンっぽい外見をしていて、人間よりドラゴンの外見に近い。
顔がドラゴンの顔をしているので、声帯も僕たちとは結構違うようだ。
そのせいで日本語の発音は、あまり得意でない。
「リザードマンっぽいから、リザでいいだろ」
「ミカちゃん、三女の見た目が人間っぽくないから、いい加減な名前を付けようとしてるでしょう」
「当たり前だ。俺は人間の巨乳にしか興味がない!次女のフレイアは、将来絶対に巨乳の美女になる!けど、蜥蜴顔のリザードマンが巨乳になっても、何が嬉し……」
――ゲシッ
妹に向かって物凄く失礼なことを言ってるので、僕はミカちゃんの腹を蹴っておいた。
「相変わらずミカちゃんに手加減なさすぎ……」
ユウがそう言うと、三女と四女までがコクコクと首を縦に振っていた。
この子たち、日本語はしゃべらなくても、ちゃんと言葉は理解してるからね。
で、腹を蹴られたミカちゃんが、いつものように悶絶してるので、その間に三女の名前を考えよう。
「リザって名前は安直すぎるけど、でも悪くないよね」
「……」
あれ?
なんかユウが白い眼をして僕を見てきたけど、どうしたんだろう?
ま、いいか。
「うーん、リザ……リジはないな……リズ……リゼ……リゾ……」
「ザ行ですか?」
「あ、バレちゃった?」
「バレますって」
リザという名前から、後ろの1文字をザ行で適当に連呼していた僕。
「リズ!」
そんな中、三女がだみ声で、リズという名前を口にした。
「リズがいいんだな?」
――コクコク
静かながらも、嬉しそうに2度首を縦に振るリズ。
ついでに尻尾もご機嫌にフリフリしている。
ドラゴニュートというより、本当に犬みたいだな。
なんてことがありつつ、三女の名前はリズに決定した。
「兄さん、リズって某VRMMO小説の登場キャラと名前が被って……」
「えー、何のことだか分からないー」
ユウの奴が何か言いかけたけど、僕はそれを無視した。
僕とユウのいた日本は、互いに似ているだけの異世界同士のはずだけど、有名なVRMMOを取り扱った小説まで存在していたようだ。
パラレルワールドの日本とはいえ、なんて偶然だろう。
もっとも、これはこの際特に重要なことでないので、どうでもいいや。
さて、最後に名前を付けるのは、見た目が完全にドラゴンの四女だ。
三女のリズは、だみ声ながらも日本語を多少発音できるけど、四女に関しては完全に日本語を話すことができない。
「GULULULU」
と、喉を鳴らすので、僕は「いい子だなー」と言いながら、四女の顎を撫でてやる。
すると尻尾を振って嬉しそうにする四女。
うん、ペットの犬だな。完全に。
僕は妹の四女に対して、すごく失礼な事を思いつつも、名前を考える。
「ドラゴンだから、ドラコにするか?」
あ、ミカちゃんが復活してきた。
「ドラコは酷いでしょう。女の子だから、子は間違ってないけど……」
「だよねー。それに四女って、将来マザーみたいなサイズまで成長するかもしれないから、コはないよなー」
ミカちゃんの案に、ダメ出しするユウと僕。
「ならは全く関係ないが、南米にはドラドって魚がいるそうだ。うまいかは知らないけどな」
――ビクッ
本当に何も関係ないね。
というかミカちゃんは、その魚を食べてみたくて口にしただけだろう。
でもさ、なぜかドラドという言葉に反応する四女。
尻尾を振り振り、ミカちゃんに近づいていく。
「なんだ?もしかしてお前はドラドを食ってみたいのか?」
「GYUU!」
ミカちゃんの手に四女が噛みつく。
もっとも食い意地の張っているミカちゃんと違って、別に食いたいわけではないらしい。
「……ガブッ」
四女にとっては甘噛みのつもりだけど、外見はマジもののドラゴンに噛みつかれてしまうミカちゃん。
ミカちゃんは、そんな四女に無言で、さらに噛みつき返した。
……訳が分からん。
ドラゴンと野生児なので、僕には理解できない野生生物同士の会話が成立しているのだろう。
たぶんそうだ。
そういうことにしておこう。
「よし、ドラド。この骨を取ってこいー」
そうしているうちに、ミカちゃんが四女の名前をドラドと呼んでしまう。
どこに隠し持っていたのか知らないけど、ドラゴンマザーが運んでくる謎肉に混じっている骨を取り出して、それをミカちゃんが放り投げた。
放り投げられた骨に向かって、四女のドラドが走っていく。
そのまま地面に転がった骨を口に加えてゲット。
完全に犬だなこりゃ。
――バリバリバリッ
だけど、四女は投げた骨をミカちゃんの所に持って帰ることなく、そのまま強力な顎の力で噛み砕いていった。
そして、ゴックンと飲み込む。
「俺のおやつが食われた……」
「そりゃ、犬じゃないからね」
いや、僕も途中まで四女改めドラドが、犬みたいだと思っていたけどさ。
そんなことながありつつ、僕たち兄弟の名前がすべて決まった。
長男の僕は、昔からの名前であるレギュラス。
長女の名前はミカちゃん。前世の名前なら鈴木次郎だけど、性別が変わっているから、さすがにジロウとは呼べなしいね。
次男はユウ。前世の名前が優一だけど、一までつけると長男の名前になってしまうので、ユウとなった。
次女は、炎属性の竜と言うこともあってフレイア。名付けた僕が言うのもなんだけど、安直だったかな?
三男はレオン。この名前が原因で将来イケメンになるとかどうかは、今の段階では不明だ。なお、現在の見た目はただのショタボーイ。
三女は、リザードマンに外見が似ていたから、そこから少し捻ってリズ。
末っ子の四女は、ドラゴンの見た目をしているけど、なぜか南米に生息しているという魚の名前をとって、ドラドとなった。




