17 魔法
ユウが実はヴァンパイアだと発覚したけど、だからと言って大きな問題は何も起こらなかった。
ヴァンパイアと言えば、吸血衝動に駆られて生き血を啜り……ナントカカントカって性質があるけど、僕らの毎日の食事は、ドラゴンマザーがかみ砕いたズタボロの謎肉で、そこには当然血が混じっている。
毎日の食事で血も一緒に摂取しているから、吸血衝動なんて全く関係ないね。
「喉が渇く。血を、血をよこせー!」
なんて言わなくても、いつもの食事が既に多量の血液混じりの状態だ。
あと、人間のヴァンパイアだと身体能力が上昇したりするけど、僕らはもともとドラゴニュート。
もともと身体能力が高いので、そこにヴァンパイアの能力がちょっと加わった程度では、誤差の範囲だ。
そして僕ら兄弟の中では、ユウではなくミカちゃんが一番凶暴で、無駄に力が強い。
僕を除けば、ミカちゃんが兄弟の中で最強だ。
そしてそんなミカちゃんが、
「ウガー、主役補正、血祭……」
なんて唸りながら、ユウをギラギラした目で睨んでいる。
ユウの性格は心優しいけど、なんだかいろいろ抱え込みそうな性格をしている。
その結果、何かのきっかけで闇落ちなんて展開もありそうだけど、その時はミカちゃんが止めてくれるだろう。
というか、ミカちゃんが無駄に眼光鋭く睨んでいるので、ユウには自分がヴァンパイアだったことに悩むなんて、全くできずにいた。
まあ、転生にドラゴニュートにヴァンパイアだ。
今の時点で、血塗れ唾液まみれの謎肉とか毎日食べてるんだから、今更何か変なものが一つ二つ増えたところで、どうってことないだろう。
なお、後日ユウが無意識に使う死霊術が原因で、ドラゴンマザーの運んできた謎肉の一部がビクビク動き出し、アンデット化する出来事がたまに起きたりした。
でも、マザーが前足でひと踏みしただけで、すべて解決した。
不死のアンデットと言えど、ぺちゃんこに潰されてしまえば、もはや動きようがない。
「なにこれ、なんか動いてるんだけど?」
――プチッ。
てな感じで、人間が虫を潰すように、マザーはあっさりアンデットを処理しちゃう。
ヴァンパイアやアンデットより、マザーの方が遥かにおっかないや。
ただ、ユウのヴァンパイアとしての能力――死霊術に対しての適性――が、無駄に高いようだ。
本人が無自覚の内に死霊術を発動させて、死体をアンデット化させてしまうようで、こうもたびたびマザーの運んでくる御飯が、アンデット化されてはたまらない。
てなわけで、僕はユウに魔力の扱い方を指導することにした。
死霊術は魔法の一つだから、魔法の扱い方を覚えさせれば、無意識の暴発もなくなる。
「座る、座禅、瞑想」
そして、なんだかんだで、転生してからひと月ほど経つ。
生まれたての頃より多少日本語をうまく話せるようになったので、僕はそう言ってユウに瞑想をさせた。
また舌っ足らずで長文は無理だけど、それでも単語を区切っていけばきちんと意味のある言葉を出せる。
「空中に、魔力がある。それを、感じ取れ」
とりあえず魔法を使うための、初歩的な訓練から施していく。
魔法を使うためには、まず世界に満ちている魔力の気配を感じ取る事から始まる。そうするために、まずは瞑想だ。
そして、魔法に関する教育を始めたら、
「俺は大魔法使いになって、チートになるんだ!」
とかなんとかほざいて、ミカちゃんも瞑想を始めた。
野生児でオタだったミカちゃんは、相変わらず適応が早いね。
あと、いつものように他の兄弟たちも真似して瞑想をやりだした。
瞑想とか魔力とか、転生組以外の兄弟が言葉の意味をきちんと理解できているのか不明だ。
ただドラゴニュートは人間に比べてかなり早熟で、成長が早いので、もしかすると少しは意味を理解できてるかもしれなかった。
で、兄弟で瞑想を始めたら、真っ先にミカちゃんが、
「ダアアアー、やってらんねえ、足が痺れたー!」
早速瞑想ならぬ、迷走をやりやがった。
足が本当に痺れたようで、地面の上でのたうち回り、それから翼と尻尾をバタバタさせ始める。
「つまらん!暇だ!こんなことやってられるか!」
野生児ミカちゃんには、黙って瞑想するなんて不可能だった。
「……」
ただ、その後周りを見たミカちゃんが絶句する。
赤い髪をした三女の傍では、赤い炎の玉が空中に三つ浮かび上がっている。RPGの定番魔法、火球って奴だ。
そしてその隣では、青い髪の三男の傍に、水でできた玉が3つほど空中に浮かび上がっている。火球に対して、こっちは水球だ。
火球は、命中すれば相手や物を燃やすことができる攻撃力に長けた魔法。
水球は攻撃力が乏しそうに見えるが、これで相手の顔面を覆い続ければ、そのまま溺死させることができる。
地味にエグイ戦い方のできる魔法だ。
そしてリザードマンっぽい外見をしている三女の傍では、岩が空中に浮かび上がっていた。
僕の見立てでは、これは土属性の魔法によるものでなく、重力制御魔法だ。
三女は土の属性竜の性質を持っていると思っていたけど、重力魔法への適性も高いようだ。
ちなみに重力魔法を自分に対して使えば、空を飛ぶことができる。
もっとも長時間空を飛び続けるには高い集中力が常に必要になるから、ちょっと気を抜いたら墜落してしまう。
なので空を飛ぶ際には、扱いに注意のいる魔法だ。
そして完全にドラゴンの姿をしている四女の周囲では、黒い砂が渦を作って空中を舞っていた。
つむじ風レベルの小さな竜巻が発生していて、その中を黒い砂が飛び交っている。
土の属性竜らしい魔法だ。
ちなみにこの魔法、今は威力が全くないけど、魔力を注ぎまくって強化していくと、砂の竜巻という魔法になる。
天から地上にまで届く巨大な竜巻を発生させ、その内部を細かい砂が荒れ狂う。
竜巻に飲み込まれたものは、内部を飛び交う超音速の砂粒に晒され、肉体を砂によってズタボロに切り裂かれて、血塗れの肉塊にされてしまう。
威力次第では対軍団魔法として利用でき、一度に数万人の人間を砂の竜巻に巻き込み、竜巻の内部を生き物の血で真っ赤に染め上げることもできた。
なので砂の竜巻は、別名血の竜巻と呼ばれることがあった。
ちなみに僕が前世で魔王していた時、敵対していた国の12万の魔族軍団を砂の竜巻の魔法で壊滅させたりしてる。
いやー、前世は魔王だったから、いろいろあったんだよねー。
アッハッハー。
とまあ、こんな具合で兄弟たちは瞑想しながら、各々の属性に応じた魔法を無意識に放っていた。
「ありえねー。魔法じゃねえんだぞ!」
「魔法だよ!」
地球なら魔法はゲームや物語の中にしか存在しなかったけど、この世界にはちゃんと魔法が存在している。
自分が魔法を使える前に瞑想を辞めたからって、現実逃避は良くないよ、ミカちゃん。
そしてミカちゃんが、ジト目になりながらユウの方も見る。
ユウの周辺には、黒い闇が集まっている。
日中で頭上からは太陽の光が降り注いでいるのに、ユウの傍だけ太陽の光が届くことのなく、暗い闇で覆われていた。
「……ノウッ」
「魔法が使えてないのは、ミカちゃんだけだね」
「そ、そういうレギュレギュはどうなんだ?」
僕の名前がレギュラスだから、レギュレギュと呼ばれている。
自分だけ魔法が使えてないミカちゃんは、焦りながら聞いて来た。
なので僕はちょっと周囲の風を操ることにした。
僕たちが住んでいる巣は断崖絶壁の岩場にある。たまに強い風が吹き込んでくる場所だけど、僕はその風を操って……
――ワレワレ、ハ、ウチュウジン、ダ!
辺り一帯の風を操って、山彦交じりにこんな音を響かせた。
誰でも子供の頃に扇風機に向かって、こういうバカをやったりするよね。
あれと同じことだよ。
「……スゲーけど、魔法の使い方が物凄く間違ってる」
「失礼な。いろいろ常識外れなミカちゃんに、言われる覚えはないよ!」
プンプン。
全く失礼な奴だよ。
で、その後瞑想を終えた兄弟たち。
「魔力の感覚はつかめた?」
今回の第一の目的は、ユウの魔力コントロールにある。
「なんとなく、今まで感じられなかった力の気配が分かった気がします」
「うんうん。とりあえずはその感覚を、強く持てるようになってくことだね。そうしたら、死霊術が暴発することもなくなるから」
「はい!」
ミカちゃんと違って、ユウはかなり素直だ。
「あ、ありえねー。魔法なんて存在するわけないだろー」
一方、ただ1人魔法の使えないミカちゃんが、現実逃避してた。
ミカちゃんの前世の日本であれば間違ってない言葉だけど、この世界では魔法があるんだから現実逃避はよくないよね。




