16 ヴァンパイアとブラック企業社長
――モゴモゴモゴ
ユウの血液を口の中で分析し終えた僕は、それまで口の中で転がしていた血をペッと吐き出す。
それから、青髪の三男坊を手招きして近くに呼びよせ、真水を吐き出させて、口の中をよくすすいでおいた。
でもさ、なぜかユウも、三男坊も、ビクついてるんだよね。
僕がミカちゃんをあしらっただけなのに、そこまで怖い事なのか?
仮にドラゴンマザーだったら、ミカちゃんなんて足のひと踏みで原型が残らない物にできるのに。
マザーの強さに比べれば、僕なんて全然怖いのうちに入らないよね。
ま、それはともかく、血液検査の結果だ。
『ユウ、君は吸血鬼……というか、吸血竜だね』
地面に日本語をサラサラサラと書いて、診察結果を伝える。
ちなみに、血を舐めただけでなぜそんなことが分かるのかって質問は無用だ。元魔王様だからね、僕は。
『吸血竜……ですか?』
『そうだよ。人間だと吸血鬼になるけど、僕らは人間じゃなくてドラゴニュート。半分は竜だから、吸血竜って呼び名でいいでしょう』
説明する僕だけど、それに対してユウはいまひとつ納得できてない顔になる。
ユウの血液を口の中で分析した範囲で分かったことだけど、ユウはただのドラゴニュートでなく、ヴァンパイアとしての能力がある。
前世で魔王をしていた僕の配下には、ヴァンパイアの始祖もいた。
あいつは自分以外の生物から吸血することで力を増すことができ、逆に自分の血を他の生物に与えることで、自らの眷属として吸血鬼に転化させることもできた。
ユウの血液は、その部下だったヴァンパイアとそっくりだ。
部下だったヴァンパイアは、生まれながらにして超常的な身体能力を持ち、闇を操り、死霊術の扱いに長け、自らの体を霧や犬、コウモリに変化させることができた。
もっともヴァンパイアの始祖と言っても、魔王だった僕ほど強いわけでなかった。それでも、僕の率いた魔王軍の中では、そこそこの幹部として扱われていた。
だってあいつ、死霊術が使えるから、死んだ人間や魔族をアンデットにして蘇らせられる。おかげで死ぬことも疲れることもない労働力を、大量に生産することができた。
おまけに、自分たちの血を吸わせることで、生きてる相手を眷属に取り込むこともできた。そして吸血鬼は自分を吸血鬼にした親の命令に、逆らうことができない。
なので吸血鬼を作らせまくることで、逆らう心配のない労働力を大量に手に入れて、こき使うことができた。
僕って魔王をしていた頃は、元日本人らしくブラック企業の社長みたいな感じで、魔王軍に君臨していた。
だから魔族とか人間とか関係なく、労働者には日々寝ることすらできない労働環境を提供してあげていた。
そして日本人だった頃には、いくつか企業を経営していたけど、その時もブラック労働を"させる側"として、辣腕を振るわせていただいた。
いやー、日本での経験が異世界で魔王をする時にも大変に役に立ったなー。
アッハッハー。
と、話が脱線してはいけない。
僕が日本人だった頃の話も若干交えつつ、ユウが吸血竜だということを、筆談で説明しておいた。
『ブラック企業の社長だっただと!この労働者の敵め!』
『はいはい、警備会社で働いていた一労働者のミカちゃんは黙ってようね』
『グヌヌヌヌッ!』
ユウに説明しているのに、なぜか僕の椅子になっているミカちゃんが、悔しそうに呻きだす。
もしかしてミカちゃんの前世って、なかなか家に帰れないで会社(仕事)に拘束されていたのかな?
そういえば僕が日本人だった時に経営していた企業の一つに、警備会社もあったなー。
僕とミカちゃんの前世である鈴木次郎氏は、名前こそ同じ日本の出身だけど、名前が同じだけで、全く別物の異世界の日本だった。
だから僕の会社の社員に、鈴木次郎氏が実は存在していた……なんて展開はありえない。
とはいえ、同姓同名の別人ならいたかもしれないね。
『でもいいよな。転生したらドラゴニュートで、死霊術が使えて、おまけにヴァンパイア。
なにこれ、設定盛りすぎじゃない?
まさか主人公補正?主人公補正なのか!
しかもお前、地味に将来はイケメンに成長しそう……。
いいかユウ、俺はお前が主役補正でハーレムなんか作り出したら、マジで食ってやるからなー!』
そんなこと考えている間に、ミカちゃんは荒々しく地面に文字を書いていき、1人で絶叫し始める。
さらには、なぜか目から涙まで流し始めていた。
あ、うん。
ユウがヴァンパイアってことより、ミカちゃんの思考回路の方がヤヴァイや。




