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15 血液採取

『三女と四女は、ブレスを掃けないけど、かわりに土属性の竜だから魔法で岩を掘り出したりできるだろ。それと同じで、ユウもブレスは出せないけど、死霊術とか使えるタイプだな』


 元魔王として、ユウの属性をそう分析する僕。

 その内容を筆談で伝えると、ユウは物凄く微妙な顔になった。


『死霊術って、さっきみたいに死体をゾンビにさせるやつですよね……』

『そうだよ。ブレスの練習をしていたせいで、この辺りの魔力(マナ)が影響されてたから、そのせいでゾンビ化したんだろうね』


 それはないわー。

 てな感じの表情になってしまうユウ。


『なんで、レギュラスさんってそう言うのが分かるんですか?』

『だから、僕は元日本人だけど、ついでに元魔王だったから』


 僕は何度も転生を繰り返しているので、元日本人なのも元魔王なのも事実だ。

 だけど突拍子もない事実を正直に語ると、信じてもらえない事はよくあるんだよね。


 なのでユウが僕を見る顔は呆れ半分、残りはうさん臭さと言ったところだろうか?



『ククク、死霊術。ユウ、貴様はこの世界で魔王になる運命なんだな!』

 なんて筆談をしていると、ミカちゃんが意地の悪い笑みを浮かべて筆談に交じる。


『魔王なんてなりませんよ!』

 即座に拒否するユウ。


 でも、ユウが魔王になるなら、兄である僕は、

『僕は大魔王になろうかなー』

 と、筆談しておかないとね。


『ならば俺は超魔王だー!』

 と、ミカちゃんもノリノリになった。


 僕は半分本気だけど、ミカちゃんは悪乗りが入ってる。


 そしてそんな僕たちを見てユウは、

(あ、この2人はダメだ。まともな相談相手にならない……)

 何も言わないけど、ユウの心の声が僕にはしっかりと聞こえた。


 ミカちゃんはともかくとして、僕は厨二病じゃないんだけどなー。





『ところでユウ。もう少し詳しく調べてみたいから、少し血をちょうだい』


 話が少々脱線気味だけど、死霊術への適性が高いユウのことは詳しく調べてみたい。

 なので、地面にそう書いた僕。


『えっ、血ですか?』

『そうそう。血だよ、血』


 地面に書くだけでなく、口でも『チー、チー』と繰り返す僕。



「ガウーッ」

 なんてしてたら、早速ミカちゃんが大きな口を開けて、ユウの頭に齧り付いた。


「ヒギャー!」

「チ、だせー。チー!」


 涙目になって絶叫するユウ。対するミカちゃんは超ノリノリ。

 相変わらず何をしでかすか分からないミカちゃんだ。

 頭に齧り付いて、そのまま出血させるつもりか?


 ガジガジとユウの頭に齧り付き、それを振りほどこうとユウは暴れるけど、ミカちゃんの顎の力は強力で、振り払うことができない。


 血がどうこうってより、またしても腹ペコモードに入って、ユウを食おうとしてないか?



 しかし、ドラゴニュートな僕たちは物凄く頑丈にできている。

 噛みつかれているユウは痛そうに暴れているけど、噛まれても頭から血が流れることはない。

 僕らの肌は普段は人間のように弾力があって柔らかいけど、ミカちゃんの噛みつきみたいにある一定以上の力が加わると、肌の表面に鱗が浮かび上がって、物凄く頑丈になる。


 見た目は跳人尻尾が生えている人間でも、やはりドラゴニュート。ドラゴンとしての能力が、そういうときに顕わになるわけだ。


 ミカちゃんの食い意地の張った歯でも貫けないから、鱗の防御力はそうとうなものだろう。



 で、ミカちゃんはしばらくユウに齧り付いて、じゃれ合うというか、一方的にユウをおもちゃにして遊び始めてしまう。

 この中身がおっさんな幼女は、弟が嫌がることを進んでやってくね。


 そんな光景が繰り広げられている間に、僕はユウの体から採血するために、巣の近くにある岩の所へ行く。


 チョイチョイと人差し指を動かして、ドラゴン姿の四女を近くに呼びよせ、四女に岩の一部を魔法で削り出してもらう。

 さすがは土属性のドラゴン。岩の形を自在に削りだすなんて朝飯前だ。


 取り出した岩を手に持った僕は、それから少しだけ魔法を加えて、形を変化させていく。


 土魔法と重力魔法の合わせ技によって岩を圧縮し、普通の岩から超高密度の強固な岩に変化させる。

 変化させた岩は太陽の光を受けると黒光りするようになり、若干黒曜石めいた輝きになった。もっともこれは本物の黒曜石ほど頑丈でないので、劣化黒曜石と言ったところだろう。

 鋼ほど頑丈でないけど、薄い鉄板に叩きつければ、鉄を凹ませるくらいの強度がある。


 あとは岩の無駄な部分を、風魔法の風の刃(ウインド・カッター)で切り落とす。

 僕自体、風属性の竜の性質を持っているので、風魔法の操作はお手の物だ。

 最後に土魔法で細かい形成を行い、針のように鋭くとがった形にした。


 前世が魔王なので、この程度の魔法の扱いはお手の物だ。


 これら一連の魔法の作業をしている間、四女が近くでマジマジと見ていた。


「お前もそのうちこれぐらいの事は簡単にできるようになるからな」

 興味津々な様子の四女の頭を撫でて、そう言っておく僕。


 もっとも、相も変わらず僕の言葉は、「おまー、そのにょにょー……」なんて感じの赤ちゃん言葉だった。

 魔法の操作は多少できるようになってきたけど、なんだかんだ言っても、まだこの世界に生まれて1カ月も経ってない。

 口から出てくる言葉は相変わらずだし、前世に比べて使える魔法もかなり貧弱だった。


 魔法は使えるけど、前世の僕とは比較できないほど魔法の能力が落ちている。

 まあ、生まれたてだから、その内魔法の能力も向上していくだろうけど。




 で、針を完成させた僕は、それを持ってじゃれ合っているユウとミカちゃんの元へ戻った。


「ユウ、ちょっと痛いけど我慢してね」

「?」


 いけない。日本語を話したつもりだけど、実際には赤ちゃん言葉だったので、通じてない。



 とりあえず、いまだにユウの背中に張り付き、頭に噛みついてガジガジしている邪魔なミカちゃんを、尻尾を使って問答無用で排除。


 回転蹴りならぬ、回転尻尾蹴りで、ミカちゃんをふっ飛ばした。


「ヘブシー」

 なんて言いながらミカちゃんの体が空を飛び、巣の近くにある岩の壁に大激突。


 ――ズズンッ

 重たい音を立てて、ミカちゃんの体が岩の壁にめり込んだ。

 さらに、ズズズズズッてな音がして、岩の壁の一部が崩落した。そのまま岩にめり込んだままのミカちゃんが、崩落に巻き込まれてしまった。


「……」

 その光景に、ユウはもとより、僕以外の兄弟全員が全員沈黙してしまった。


「大丈夫大丈夫、ミカちゃんだからあの程度で死んだりしないって」


 そう僕が言った直後、

「フガー」

 と叫んで、崩落した岩の中からミカちゃんが飛び上がってきた。


 そのまま空中でクルクルと縦に数回転。

 地球だったら、オリンピックの体操選手も真っ青な空中連続回転だ。


「シネー!」

 そして見た目は可愛い幼女なのに、随分物騒なことを口走って、僕目がけて空中踵落としを放ってきやがった。


 僕の傍までミカちゃんの踵が迫るけど、まともに相手をするのが面倒なので、僕はミカちゃんの踵落とし中の足の太ももに尻尾を巻きつけ、それから真下の地面に、勢いをつけて叩きつけた。


 ――ズシンッ

 なんて音がして、ミカちゃんが床に再び大激突。


「ぷぎゃー!」

 目を回しながら、ミカちゃんが床にダウンした。


 でも、これぐらいならすぐに意識を取り戻してまた暴れるだろうから、地面にダウンしている間に、その体の上に乗っかって腰を下ろしておく。


 こうして僕は、ミカちゃんを椅子にしてやった。


「ウガー、ウガー」

「はいはい、暴れないでねー」

「このクソ!暴力兄貴!暴力反対!」


 僕に乗っかられたミカちゃんが、すぐに意識を取り戻して叫び声を上げる。

 けど、その声を無視して、僕はミカちゃんが動けないように体重を加えて抑え込んだ。





 とまあ、こんな余計な出来事があるけど、今やることはユウの事だ。


「おいで、おいでー」

 舌っ足らずな僕でも、これくらいなら正確な日本語で発音できる。



 だけどユウと兄弟たちが、なぜか固まってフリーズしてしまっている。

 どうしてだろうね?

 ちょっとミカちゃんと、戯れただけなのに。


 やがて僕に呼ばれたユウは、一瞬ビクリと全身を震わせた後、死を覚悟したような重い足取りで僕の方へやってきた。

 決死の覚悟というか、物凄く重い決意をした表情になってるね。


 だけど大丈夫だって。

 僕はミカちゃんみたいに、弟をとって食べたりしないから。



 やってきたユウに、僕は筆談で、

『口を開けて。しばらく口内炎になると思うけど、それぐらいは我慢してね』

 と、伝える。



 でも、こうしている間に、僕が座っている椅子がジタバタ暴れ出して、座りにくくなった。


 仕方ないので、右手で椅子の頭をペシペシと何回か叩いて静かにさせる。

 あと、おまけで椅子の額のライト・ブレス(笑)が点灯した。

 周りが明るくなったね。


 うちの兄弟たちは、頭を叩くとブレスを吐く習性でもあるんだろうか?

 まあ、このブレスは口でなく額から出でいるけど。



 そんな中、ユウは僕に向けて、素直に口を開けてくれた。


 OK。

 そんなに怖がらなくても大丈夫だよ。

 僕は怖くないからねー。


 そう心の中で諭しながら、僕はユウの口の中に、先ほど作った劣化黒曜石の針を突き刺した。


 ――プツッ


 僕たちドラゴニュートの肌は、強い力が加わると鱗が浮かび上がって頑丈になるけど、さすがに口の中までは鱗が浮かび上がることがなかった。


 針でユウの口内を刺す。


 針を刺された瞬間、ユウがビクリと震えた。

 針を刺したので、注射みたいな痛みがあったのだろう。



 口の中には小さな傷が出来て、そこから血が浮かび上がった。



 そして針の先にユウの血液が付着する。

 これで採血は完了だ。



 目的の物は手に入れたので、ユウの口を閉じさせる。



 あとはこの血液を分析することにしよう。


 というわけで、僕は血液が付着した針を、自分の口の中へ突っ込んだ。

 針についた血を口の中で転がして、モゴモゴモゴ。



「ふむふむふむ」

 口の中で血の味をよく吟味。


 なお、僕は吸血鬼でも、人に語れないような変な趣味があるわけじゃないから。

 一応、念のために言っておくよ。


 むしろ、吸血鬼なのは……


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