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98 ガラス製品

 前回、石ころガラスを作成した後、さらにコップや液体保存用の瓶などを作成していった。


 脱皮を1回経験したことで、以前より使える魔力量が増えていて、制作作業自体はそれほど苦になる物ではなかった。

 とはいえ数を作らないといけないので、時間がかかる。


 それに高温で液化させたガラスを冷却させる際、ガラスにひびが入って割れたりもした。

 僕は本職のガラス職人じゃないけど、魔法を使ってガラスを作るのも結構大変だ。


 でも、そんなこんなでコップや瓶が出来上がった。


 贅沢を言えば瓶よりも大量に液体を入れられる壺が欲しいけれど、壺はガラスよりも、粘土から作る陶器にした方がいい。

 魔法を使用したガラス作成法だと、ある一定以上の大きさになると割れる確率が極端に高くなっていく。おまけに大きさとは別に成形上の問題で、割れる可能性が更に高くなってしまう。

 そのため、僕の魔法技術で壺を作るのは、難易度が高すぎた。


 僕は前世が魔王だけど、今まで魔法を使って生産職をしていたわけじゃないから、さすがに何でもできるわけじゃない。



 でも、そんなこんなで作ったコップや瓶は、皆に好評だった。


「綺麗」

 水をガラスコップに注いで、太陽に透かしてみるフレイア。

 その表情はうっとりとしていて、光物の虜になっている顔だ。


 ガラスには気泡が入っていて歪みもあるけど、それゆえに芸術品のような味わいがあって美しい……ということにしておこう。

 芸術じゃなくて、単に技術的な限界でそうなったんだけど、要は表現次第。心の持ち方次第だ。


「美味しいなー」

 ガラスコップでゴクゴク水を飲んでるのはレオン。

 尻尾をフリフリ、嬉しそうに水を飲んでいく。


 でもレオンって、自分で吐き出したウォーター・ブレスの水を、自分で飲んでるんだよね。


 ――それって意味なくね?

 と思ってしまうが……細かいことは気にしないでおこう。

 これも気持ち方の問題。心の在り様だ。



 ――ゴクゴクゴク

 ――ゴクゴクゴク

 そしてリズとドラゴニュート形態のドラドは、腰に手を当ててコップの水を一気飲み干していた。

 飲んでいる間はただ無心になって、コップの水を飲むことだけに集中している。


「ふうっ、ガラスのコップで飲む水は格別ですね」

『格別、格別ー』

 狩りの旅でグルメリポートをしていたリズだけど、水に対してもリポートしてくれるようだ。

 ドラドの方は、尻尾を振って嬉しそうにしている。



「できは不細工ですが、やっぱりガラス製のコップがあるだけで、今までと違う気がしますね」

「ユウ、不細工とか言わなくていいから。素直にガラスのコップで水を飲めることを喜ぼう」

 どうも、ユウにはコップの評価が低い。

 元日本人なのがいけないのだ。

 現代日本だと普通に売られているものが、とてつもない技術の上で作られているのに、それに気づくことがなく、当たり前だと思っているからいけない。



 そしてもう1人の元日本人だけど、

「レギュレギュ、落としたら割れた。劣化黒曜石のコップの方が頑丈で、落としても割れにくくてよかったぞ」

「……」

 中身が野生児で原始人なので、こんな感想だった。


「だったらガラスのコップを使わなきゃいいでしょう」

「次からそうするわー」

「あと、割れたガラスはちゃんと片づけておくように」

「へーい」

 尻尾が垂れさがっていて、面倒くさそうに返事するミカちゃんだった。



 というわけで、ガラスのコップの評価はこんな感じだった。





 ところで今回入手した砂はまだ残っているので、さらにガラス製品の製作を進めていく事にしよう。


 ガラスの作成に関しては、何度もやったのでだいぶ手馴れてきた。

 そして今回新たに作る物の成形は、とても簡単。

 魔法で溶けてドロドロになったガラスを、ただ板状に伸ばすだけでいい。


 と思っていたけれど、均等に引き延ばすのが難しくて、何度か失敗した。

 冷やしている途中でガラスにひびが入ったり、厚みが不均衡すぎて冷やした後で割れてしまったり。


 そんなこんなで何度か試行錯誤を繰り返した後、なんとか板ガラスを完成させた。


「おお、窓ガラスだ」

「相変わらず気泡交じりで歪んでるなー」

 ユウは感心してるけど、ミカちゃんの評価は何とかならないか。


「僕が作るガラスに文句言ってるけど、僕以外ガラスを作ることができないんだから、文句を言わないで欲しいな」

「ヘイヘイ、分かりましたよレギュ様」

 ミカちゃんが不貞腐れた様子で言う。


 ――ゴンッ

 とりあえず肉体言語で語っておいた。



 さて、今回作ったのは板ガラス。

 これを作った目的は至極単純で、僕たちの住んでいる家は拡張するたびに崖に面した場所に穴を空けて、部屋を増やしていった。

 採光の関係で、太陽の光が入る崖沿いに部屋を作らなければならず、そのせいで家の内側と外側の仕切りは、安全のためにつけた劣化黒曜石製の柵しかなかった。


 なので今回作った板ガラスをはめ込んで、それで家の内側と外側を仕切ろうというわけだ。

 ユウの言うように、ガラス窓として使うわけだ。


 ただガラスで覆いつくすと、室内がビニールハウスみたいに熱されてしまう気がする。


 まあ、まずははめ込んで、改善点があればそれから考えていくとしよう。



「とりあえず倉庫部屋に運ぶから、ユウはそっちを持ってくれ」

「分かりました。でも、この大きさのガラスだと、通路を通りますかね?結構ギリギリですよ」


 大きめに作ったのが仇となった。

 ユウに指摘された通り、板ガラスを持って通路を通ろうとしたらつっかえた。


 脱皮したときに兄弟の体が一気に成長したので、その時に通路の天井も高く作り直した。なのにそこでつっかえてしまうとは、なんてこった。


「ガラスって、途中で切ったりできないですよね?」

「できるかもしれないけど。多分割れる」

「俺に任せとけー」

 ――バリッ


「「「……」」」

 ミカちゃんが元気よく拳でガラス板を割った……粉々に。


「なぜ粉々にするんだよ!」

 ただ割れるなら分かるが、どうして一撃で粉々にしてしまうんだよ!


 ――ガンッ

 いつも通り、肉体言語必要だ。


「レ、レギュレギュ、少し手加減して。でないと俺のお(つむ)が、深刻な記憶障害を起こしてしまう」

「つまり馬鹿になるってこと?もうミカちゃんは手が付けられないから大丈夫だよ」

「お、俺だって傷つくことがあるんだぞ。ウワーン」

 なんて言い残して、ミカちゃんは泣いて部屋から出ていった。

 そしてなぜか、こんな時だけ見た目相応の幼女の泣き顔になっていた。


 ま、いいや。煩いのがいなくなった。

 単細胞生物並の頭脳だから、どうせご飯食べる頃には何があったのか綺麗さっぱり忘れてるだろう。


 この後小さめに板ガラスを作って、それを作業兼倉庫部屋へと運んだ。


 そして僕とユウであれこれ工夫して、板ガラスを家の仕切りとしてはめ込んでいく。


「……ガラスの透明度が今一つだから、部屋の中が少し暗くなるな」

「開閉式の窓みたいにできればいいですね。

 ……でも、そんな技術僕たちにはないですし」


 その後も僕とユウでなんだかんだとアイディアを出し合ったけど、どうもガラスで家の中と外を仕切るのは難しそうだ。



 ――日本の知識があれば異世界でチートできる?

 現実にやってみたら、うまくいかないことの方が多いって。


 板ガラスに関してはそれ以上いいアイディアも出なかったので、これで一旦保留となった。


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