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62 俺、どうにか騎乗試合に間に合う。

✿✿✿❀✿✿✿




 予定外のアクシデントこそ起こったものの、カリナは見事に役目を果たした。モンスター狩りで2位の成績を残したのだ。


 続く馬上弓術は、毎年、圧倒的な成績を修めていたビルキメが、ゼンキチとの共謀により不出場だったため、順当にエスメラルダが1位を取った。ここまでのエオガリアス家の成績は2位、2位、1位。対するテゾナリアス家は1位、1位、2位である。


 馬上試合の成績は、任意競技か必須競技かに応じて、重み分けがなされており、現時点での両家の成績は、9ポイント対11ポイントと評価できる。これは残り2つの種目で、エオガリアス家がテゾナリアス家を上回れば、優勝できることを意味していた。


 雌雄を決するのは、次の競技であると誰もが最初から理解していた。騎乗試合だ。

 1対1で正面から戦うこの競技で、ディートリヒがケラハーを打ち負かすことができれば、エオガリアス家の勝利は目前となる。


 本命の種目が始まることに対して、ディートリヒに気負いはない。たった数日とはいえ、ベロニカやソーニャと共に、ケラハーを倒すための修行を積んだのだ。スザクとの稽古は、ディートリヒがこれまで体験した、あらゆる出来事よりも、数段過酷で強烈だったといえる。その訓練を耐え抜いた自信が、強者を前にしても揺らがない心と、燃えるような闘志をディートリヒに与えていたのだが、本人にその自覚はなかった。


(……不思議と、いつもよりも落ち着いている)


 妙な感覚に、僅かなとまどいを覚えたものの、気が散ってしまうほどの強い違和感ではない。自身が臨もうとしている試合に対して、驚くほど集中できている。


 体調は万全だ。

 治りきっていない無数の傷こそ目立ったが、それも、剣を振るうには支障のないものだった。むしろ、努力が形となって現れた勲章なのだと、己を奮い立たせる希望である。


「やはり、ゼンキチくんは間に合いませんでしたね……」


 気難しい顔をして、エスメラルダが口を開く。

 ここ数日の修行の()()あって、見違えるほどにディートリヒは成長した。それでも相手の女は、テゾナリアス家が有する騎士団(ナイト・コー)きっての実力者。どれほどの対策を重ねても、過剰ということはないため、渚瑳(なぎさ)の使っていた聖剣虎獟(こぎょう)を、土壇場で獲得しようと動いていたのだ。スザク1人であれば、⦅朧影(おぼろかげ)の巣⦆に行って帰って来ることも、楽々と余裕であったろうが、封印された聖剣を見つけることは難しい。単独行動という人数の問題はもとより、スザク自身にそういった作業が、絶望的に向いていない。正確さを必要とせず、大雑把な力加減であっても、一様の成果を上げることができるもの。これが、スザクに任せてよい仕事の条件となる。


 第一、ダンジョンの場所を理解しているのは、ゼンキチのみなのだ。どうしたって、ゼンキチを連れていく必要がある。これではスザクも、化け物じみた運動性能を持てあましてしまうだろう。


 虎獟(こぎょう)が最初から使えれば、テゾナリアス家との試合にあっても、戦況を有利な状態で進められる。ゆえに、欲を言えば、ゼンキチたちには、試合が始まる前に戻って来てもらいたかったのだが、そうそう都合よく事は運ばないらしい。短時間でダンジョンを制覇するのも無茶だが、魔法を扱えるケラハーと、武器のアドバンテージがないまま戦うのは、もっと無謀である。ディートリヒが魔法を使えないことは、わざわざくり返すまでもないだろう。カリナのモンスター狩りからも、それは明らかだ。有効な魔法が使えるのであれば、尚蔵画布(リフレクトカンバス)のストックする選択肢に入っていた。


 こうなっては、ディートリヒには時間を稼いでもらうしかない。スザクたちが、必ず虎獟(こぎょう)を持って帰って来ることを信じて、防御や回避に専念するのだ。


 壊れかけの剣を身につけ、ディートリヒは柵の内側へと足を向ける。


「行け! ディートリヒ。お前なら、やれる!」


 ソーニャの声援を受け、ディートリヒは力強くうなずく。スザクの幻影を探すようにして背後を振り返れば、一緒に修行をこなしたベロニカが、エオガリアス家の騎士(ナイト)に対する信頼を、言外に示すように頭を少し下げていた。


 エスメラルダとグラントリーを合わせた、4人の気持ちを心に、ディートリヒはケラハーに相対(あいたい)する。


 騎士(ナイト)として申し分のない恰好(かっこう)であったが、武具の質が水準よりも低いところまでは、どうしてもごまかせない。たとえ、実際に剣で打ちあっていなくとも、姿を見ただけでケラハーにはそれが分かった。


 残念だとでも言いたげに、彼女はあからさまなため息をつく。


「勝負を捨てたか、エオガリアス家の騎士(ナイト)よ。いかに白癩騎士(プレッジ・ナイト)ではないとはいえ、最後までエオガリアス家に残った、忠義者のそなたならば、騎士道(ナイト・コード)にも反しない男だと思っていたのだがな……。どうやらこれは私の買いかぶり、見込み違いだったようだ」


 対するケラハーの腰には、2本の剣が()かれてある。1つは普段用の変哲のないものだが、もう1つの(きら)びやかな剣は、ディートリヒも知らないものだった。


 ケラハーのことを、実力・高潔さともに認めていたディートリヒにしてみれば、彼女の示した明らかな落胆に、憤りを隠せない。


 ディートリヒの出身は紫璻(しすい)の町だ。町と冠していても、そこは小さな共同体で、有力な貴族もいなければ、莫大(ばくだい)な富を持つ商人もいない。子供の頃に憧れた騎士(ナイト)という職業に()くには、あまりに不向きな環境であった。


 よそから来た人間。

 運がよければ、それこそ王都で騎士(ナイト)になれたかもしれない。王家に仕えるという最も名誉のある騎士(ナイト)――白癩騎士(プレッジ・ナイト)だ。当然、相応のふるまいを求められるし、騎士道(ナイト・コード)という厳しい規範も守らなくてはならない。魔法の使えないディートリヒでは、仮に白癩騎士(プレッジ・ナイト)になれたとしても、三流の騎士(ナイト)が関の山であったろう。


 それでも、白癩騎士(プレッジ・ナイト)白癩騎士(プレッジ・ナイト)だ。万が一にもなれたら、故郷に錦を飾ることができる。

 だが、そうはならなかった。

 初めて訪れた巴苗(はなえ)の町で、ディートリヒはグラントリーの父親と出会ったのだ。


『感銘を受けました。己の名誉にならずとも、命の刻が許す限り、自分のいる町に尽くそうというモーリッツ様の姿に、私は、幼い時に描いていた騎士(ナイト)の面影を見たのです。少なからず、自分に恥じいる部分もありました。だって、私は故郷を捨てて来てしまっていたのですから。それでも、私はエオガリアス家に仕えようと心に決めたのです』


 ディートリヒはそう語る。

 たとえ、白癩騎士(プレッジ・ナイト)でなくとも、その心意気だけは負けていない。モーリッツに顔向けできないことは何もしていないと、ディートリヒはケラハーの軽蔑を、真正面から受け止めていた。


「これが策謀であることは認めよう。だが、勝負まで捨てたと思われるのは、いささか心外だ。私とて騎士(ナイト)の端くれ。戦いを愚弄するつもりはない」


 柵の内側にいるのは、ケラハーとディートリヒだけ。ワグトリアス家に出場する様子はない。

 いつものことだ。

 結果が目に見えているため、無駄に騎士(ナイト)を疲弊させることはしないのだ。その消極的な姿勢に、観客たちからブーイングも上がるが、常連たちは慣れっこなのですぐに収まってしまう。


 場が静まるのを合図に、試合が始まる。

 ディートリヒの実力は申し分ない。しかし、ケラハーは優にその上をいく。

 剣を交えた瞬間に、ディートリヒはそれを痛感した。

 ディートリヒの運動性能は、一般人を脱する7.6。だが、ケラハーのステータスは、間違いなくそれを超えている。


 真剣勝負といえども、これは馬上試合だ。巴苗(はなえ)に奉納するものが、殺人であってはならない。加減は必須だ。


 しかし、度重なる魔物との実戦で、ケラハーの剣術には、相手を効率よく排除するための、習癖がついてしまっている。その点、ディートリヒの剣術は正統なもので美しい。(こと)に騎乗試合にあっては、剣の腕前はディートリヒのほうが勝っているといえた。


 防戦一方のディートリヒが持ちこたえているのは、馬の差も大きかっただろう。汍瀾(かんらん)は、鍛え抜かれたテゾナリアス家の馬匹(ばひつ)にも、全く引けを取っていない。


「あれほどの啖呵(たんか)を切ったのだ。剣に何か仕掛けがあるのかと警戒したが、そのようなこともない。……いったい、なぜそんな得物を手に取ったのか、まるで理解に苦しむな」


「――ッ」


 ディートリヒの返事を聞くそぶりもなく、苛烈にケラハーが攻める。

 チバチバ雷撃(ライジングサンダー)

 振るわれた刺突と同じ軌道に、雷撃が3度走る。

 とっさのことで、ディートリヒは彼女の剣技を、自分の武具で受けてしまう。その(もろ)い剣に、容赦のない魔法を相殺するだけの力は残されておらず、武具は中ほどから砕けてしまった。


 破損に基づく武具の交換――狙っていたこととはいえ、いくらなんでもこれでは早すぎる。


(まだなのか、ゼンキチ殿!)


 悲鳴のような叫びが、ディートリヒの胸中に広がった。




✿✿✿❀✿✿✿




 俺が巴苗(はなえ)の町に戻って来られたのは、太陽が南中を過ぎてからだった。

 広大な牧草地をかき分けるようにして作られた、馬上試合のためのサークル。そこより上がる大歓声が、試合の進行を明確に伝えて来る。


 ……あの様子じゃ、もう始まっちまっているのか。

 決着に間に合ったのかどうかを、一々、世界攻略指南(ザ・ゴールデンブック)で調べているような余裕はない。ディートリヒが今も必死に耐えていることを信じて、現場に向かうしかないのだろう。


「急いでくれ、スザク」


 背中の上で、言われなくとも分かっているはずのことを、俺は無意味に叫ぶ。

 スザクとしても、そのつもりで体を動かしているのだろう。

 だが、集まった観客の数が多すぎて、思うように会場に近づくことができないでいた。

 力任せに突き進むことも、スザクならもちろん可能だが、不用意に頼んで観客に怪我(けが)をさせることは、結局、エオガリアス家を不利にする。他家から、試合の結果に文句をつけられてしまえば、あとから順位が変動することだって、ありうるかもしれない。


 それならば、強引な方法の中身を変えてしまえばいい。


「スザク、俺をあそこに向かって投げ飛ばせ!」


 上空から、ディートリヒに虎獟(こぎょう)を落として渡すのだ。

 これならば、馬鹿正直に観客の群れとつきあう必要などない。

 聖剣をしっかりと抱きしめて、俺はスザクに指示を出す。


「……分かりました。行きます!」


 負ぶりなおす要領で、手早く俺の腹と足に手をやったスザクが、槍投げ選手のようにして身構える。


「あれ? ごめん、スザクさん待って――」


 自分の体がどうなるのか、気にしていなかった。


「ぎょええええ」


 俺の言葉がスザクに届くことはなく、ノータイムで射出される。

 化け物じみた運動性能のおかげで、狙いがそれるようなことはない。幸いにも、ぴたりと指定した地点に到達する。その場所とはまさしく、ディートリヒの敗北が決する直前の空中だった。


「ディートリヒ!」


 突然、近くより響いて来る自分の名前に、ディートリヒがとまどっているのが目に入る。

 すでに武具は持っていない。丸腰だ。

 ケラハーの視線が俺を射貫(いぬ)く。気のせいか、彼女は俺を認めた瞬間に、ディートリヒへのとどめを中断したように見えた。


 空を見上げたディートリヒが、ようやく俺の到着を理解する。


「間に合ったのか!」


 俺はそれ以上何も言わず、ただ手を離す。

 頭上より落下して来る聖剣虎獟(こぎょう)を、エオガリアス家の騎士(ナイト)はしかと受け止める。直後、俺は柵の外側で生えていた直並鴨茅(ひたみかもがや)に激突した。これが、ぎりぎり緩衝材の役目を果たしてくれたので、どうにか死んでいない。……立ちあがれもしなかったが。


「試合中の剣の交換は、違反であるまいな?」


 言うやいなや、(さや)を投げ捨てるように抜いて、ディートリヒは切っ先をケラハーに向ける。


「……面白い。そう来なくては、剣を交える()()がない!」


 途端に、虎獟(こぎょう)の効果が発動する。

 抜刀後、常時3つの竜巻が、使用者を護衛するようにして周囲に展開するのだ。剣と連動する竜巻は、切っ先の位置で操作することもできる。極端な話、一切、相手に接近することなく、風の渦だけで攻撃することも可能だ。


 明らかに超常と分かる特殊な効果。

 それだけで業物(わざもの)と判断するには十分だったのだろう。

 ()が悪いことを悟るや、ケラハーもまた直前まで自分が手にしていた剣を、明後日の方向に投げ捨てていた。


 左手で2本目の得物を抜く。恐ろしく鋭利な白刃が、日の光に照らされて(まぶ)しく反射していた。


「使うつもりなどなかったのだが、魔剣が相手ならば不足はあるまい」


 あとで調べたところによれば、聖剣も魔剣の1種らしい。勇者たちの使っていた魔剣を、特に聖剣と呼んでいるのだという。じゃあ、魔剣はなんだって? 本当に知りたい? やめとこうぜ。≪効魔石のため、異常現象を起こす武具≫なんて、何を言っているのか俺分かんないよ。


 テゾナリアス家の宝刀――鶴霙(かくえい)

 ケラハーの周囲に、太ももほどの大きさもある、馬鹿でかい氷柱(つらら)が生みだされては、音もなく地面に落下していく。


 虎獟(こぎょう)に比べて、氷柱(つらら)の数は多い。

 目視で数えられないほどの量ではないが、天空と大地を循環するようにして流れていくため、逐一追うのが困難だ。それでも、同じ瞬間に存在しているのは、多くても7個ほどのように見えた。


 痛む体に(むち)を打って世界攻略指南(ザ・ゴールデンブック)を開けば、鶴霙(かくえい)の効果によって出現する氷柱(つらら)は、ディートリヒの運動性能よりも低いことが分かった。ダメージを食らわないは言い過ぎだが、致命傷を恐れなければいけない数値ではない。


 虎獟(こぎょう)の竜巻は防御の役目もこなす。早々、鶴霙(かくえい)の攻撃が体にあたることもないだろう。

 風を避けるようにして、汍瀾(かんらん)から距離を取ったケラハーが、左手をディートリヒに向けて構える。

 僅かに発光する手のひらで、ケラハーが魔法を使ったのだと分かった。

 ツアツア火球(ファイヤーボール)

 ディートリヒが苦しみに顔を(ゆが)めたのは、当たり前のように複数の魔法を扱うケラハーに対して、言いようのない格の違いを覚えたからだったらしい。


 火球が竜巻に衝突する。

 だが、竜巻は綺麗(きれい)に残ったままだ。

 その光景に、ケラハーが目を見開いて驚く。虎獟(こぎょう)の効果を知らない彼女にしてみれば、この反応も無理はない。


ツアツア火球(ファイヤーボール)(はじ)くか……。すさまじい魔術防御だな)


 竜巻は、運動性能8.2相当までの魔術攻撃を防ぐ。手加減したドロシーの威力と同じでは、無力化されるというのだから、さすがに聖剣の加護は尋常じゃない。


 魔法では不利と理解したのだろう。ケラハーは素早く剣戟に切り替えていた。

 ……試合の観戦に、夢中になっている場合じゃなかった。

 虎獟(こぎょう)を無事に届けてもまだ、俺にはするべきことが残っていたのだ。

 世界攻略指南(ザ・ゴールデンブック)の発動。

 聖剣の力で勝てるのではないかと思ったが、まさか向こうも、同等の武器を持ち出して来るなんて想定外だ。楽観的な見方でも、今の戦況は互角。疲弊したディートリヒの体力を思えば、聖剣を手にしてなおも若干、エオガリアス家が劣勢にある。


 ……逆転のための一手を探さなきゃいけない!

 このとき、俺が世界攻略指南(ザ・ゴールデンブック)でケラハーではなく、その乗っている馬に注目したのは、本当に単なる偶然だった。ビルキメから借りた汍瀾(かんらん)が、テゾナリアス家ごときに負けているはずがないと、確信していたからだ。


「ディートリヒ! 右だ!」


 ケラハーの馬は、汍瀾(かんらん)とは全然違う。不出来ではないが、騎手の反応に答えるまでが少し遅い。それは右側に移動するとき、顕著な緩慢さとして現れている。


 俺の声を受け、ケラハーが(にら)みつけるような一瞥(いちべつ)を送って来る。


(気がつかれたか……目のいいやつだな)


 これでどうにか、互角の勝負にまでは持ちこめただろうか。

 あとはディートリヒに任せるしかない。

 ケラハーの刺突――直後、雷撃が3回走る。

 果敢にディートリヒも竜巻を誘導するが、段々と相手も()()()のが上手くなっている。その成長速度は、不幸なことにディートリヒよりも速い。


「それはもう見切った」


 呆気(あっけ)なく、風の加護がケラハーによって()ぎ払われる。

 竜巻の魔術防御は高いが、あくまでもこれは、魔法や邪法に対しての数値だ。単純な物理耐性であれば、それほど強いものではない。もっとも、それでも運動性能で7.4という、ドン引きの数値なので、ソーニャの蹴りでは壊せないことになる。俺は言うまでもない。


 もはや死線を越えることでしか、勝機を(つか)めないと分かったのだろう。覚悟を決めたディートリヒが、ケラハーに迫った。


 それに対し、彼女も剣を斜めに構えて、真っ向から応じる。


(消滅した竜巻の復活間隔は、およそ20秒。チバチバ雷撃(ライジングサンダー)を避けられたとしても、チパチパ拍手(セーブクラップ)で威力を上げれば、あるいは遠距離からツアツア火球(ファイヤーボール)を放るだけでも……。いや、やめておくか。こちらはランタンレースで不正をしているのだ。そこまでムキになることもあるまい)


 肉薄する両者。

 必然的に、鶴霙(かくえい)氷柱(つらら)もまた、ディートリヒに接触することになる。

 その重なった箇所(かしょ)から、突如としてチバチバ雷撃(ライジングサンダー)が放たれる。


「「なっ!」」


 俺とディートリヒが同時に声を発する。

 刺突の軌道に沿って再現される雷撃。その魔法は、性質からして単独での発生がありえない。そのルールを()じ曲げ、強引に成功させたのは、鶴霙(かくえい)の力にほかならなかった。


 ……油断した! まさか、そんな特殊効果まで持っていたのか。

 並外れた集中をしていたからであろう。ディートリヒは、紙一重で直撃を回避するも、雷撃は彼の脇腹を確実に(えぐ)っていた。


 痛みに声を上げることもなく、ディートリヒは剣に力を込める。

 膝下(ひざした)から跳ねあげるようにして振るわれた剣は、ケラハーの持つ鶴霙(かくえい)を手元から吹っ飛ばし、その切っ先を彼女の首元にあてていた。


「……お見事」


 満足げにうなずくケラハーに遅れて、大歓声が沸き起こる。

 この瞬間、ディートリヒの勝利が確定したのだ。


「よっしゃあ!」


 痛みを忘れて俺も、天に向けて拳を突き上げていた。

 本命での勝利。これほど喜ばしいことはない。

 だが、無邪気に喜ぶ俺のすぐそばで、別の問題が生じていたことを、俺はまだ気がついていなかった。


 ディートリヒは重傷だ。エスメラルダも、すでに今期の馬上試合に2度出場している。そして、カリナは馬に乗れない。


 ディートリヒがこなす予定だった、牧羊競争の騎手はどうするのかと、エオガリアス家に動揺が走った。

 コメントまでは望みませんので、お手数ですが、評価をいただけますと幸いです。この後書きは各話で共通しておりますので、以降はお読みにならなくても大丈夫です(臨時の連絡は前書きで行います)。

 次回作へのモチベーションアップにもつながりますので、なにとぞよろしくお願いいたします。(*・ω・)*_ _)ペコリ

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