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教皇

「おいどーすんだよ。このままじゃあたし一生檻ん中だぞ。」


地下牢にて、アリスとミディが鉄格子越しに話していた。


「大丈夫よ。ここの司法は犯人には厳しいけど、容疑者には易しいわ。」


何しろ、前世では汚職の罪を被せられたミディがこの檻に入っていたのだから。


「そう言う意味じゃねえ。あたしはあんたの立場を心配してるんだ。」


「レンシャの目的は私の信用を損なわせる事。幾ら疑いを晴らしても、待っているのは“悪い噂の絶えない皇女”の肩書きだけ。卑怯だけど理には叶っているわ。」


「つまり?」


「私の地位を案じても無駄。最後の一発大逆転で、全て帳消しにすれば問題無いわ。」


「はぁ…ま良いけど、あたしとの約束も忘れんなよ。」


「勿論よ。」


面会を終え、ミディは地下牢を後にした。


(餌は撒いたわ。さあ…来るなら来なさい。)


ミディは周囲を見回す。

ここは朱雀騎士の持ち場。あんな堂々と談合しているのに無反応な時点で彼等は白。となると敵は別に居る。


「お待ちを。ミディ陛下。」


立ち塞がったのは、白虎騎士団。

最も歴史の長い騎士団だが、原住民の戦士達を起源としており、組織が一枚岩で無い事は周知の事実だ。

やっぱりか。ミディは心の中で呟いた。


「これはこれは白虎の勇姿様。私に何か御用でして?」


「レンシャ陛下からの呼び出しだ。一緒に来てもらう。」


「かしこまりましたわ。所用を片付けたら直ぐに行くとお伝えして下さい。」


ミディはそう言って、立ち塞がる白虎騎士団を抜けようとする。


「?」


だが彼等は頑なに道を開けようとしない。


「良いから来い!」


騎士の一人が、ミディの腕を強引に掴む。


「きゃあ!?な…何するんですか!?誰か!」


ミディの声に反応し、牢を見張っていた朱雀騎士達が続々と集まってきて、鎧を脱ぎ捨て正体を現す。


「なっ!?」


地下牢は既に、白虎騎士団の手に落ちていた。


「へへへ。12歳のガキでも、騎士団を見分けるだけの能はあるらしいな。お前ら!こいつを連れてくぞ。」


騎士の一人が、大きな袋を持ってくる。


「観念しろ。汚らわしい淫魔の末裔が。」


「誰かああああ!」


叫ぶミディ。

だが胸の内では、高笑いを抑え込むのに必死だった。


“ダアアアン!”


鉄格子が吹き飛ぶ。


「おい。うちの主人から手ぇ離せよ。」


アリスは懐から小さな煙玉をいくつも取り出し、檻の中に投げ入れていく。

すると檻の中で眠っていた囚人、否、本物の朱雀騎士達が続々と起き上がってきた。


「うん…一体何が…」

「…ん?おい貴様ら何やっている!第二皇女様から今すぐ離れるんだ!」


朱雀騎士が目覚めたのを見計らい、アリスは錠前を素手で殴って破壊し、騎士達を解放した。


「な…何だよお前!?ただの盗賊の筈じゃ…」


狼狽える白虎騎士。


「あたしは盗賊だ。だからよ、卑怯な手をいっぱい持ってるのさ。」


“ゴンゴンッ!”


アリスは二度壁を叩く。

すると入り口で待機していた玄武騎士団も突入してきた。


「地下牢獄の不法占拠、朱雀騎士団、そして第二皇女陛下への暴行!朱雀、玄武騎士連盟の名の下、貴様らを現行犯で逮捕する!」




かくしてアリスへの疑いは晴れ、彼女がミディの忠実な護衛だと言う印象も広まる事となった。

一方、騎士の身でありながら皇女への暴行を働いた白虎騎士団は裁判にかけられ、当該団員の処分及び当分の活動休止命令が下される事となった。


ミディの私室にて。


「やったじゃん!これであの連打?とか言う腹黒皇女も…」


「無いわ。末端の暴走を理由に実行犯を切り捨てて終わりよ。この程度ではとてもレンシャには辿り着けないわ。」


「はぁ!?んじゃあ、今回の作戦は何も意味無かったって事か!?」


「そうでは無いわ。今回の作戦目的は相手への攻撃の為では無くて、あなたの立場を良くするためのものだったもの。」


ミディはそう言って机から小さな封筒を取り出し、アリスに投げる。


「これ。」


「?」


「舞踏会の招待状よ。私の護衛と言う名目で、貴女も参加できるようになったわ。」


「マジかよ!?舞踏会って、あの?」


「白馬の王子様、見つかると良いわね。」



〜〜〜



「ああああああああああもう!」


日記帳が壁に叩きつけられる。

盛大にアテを外したレンシャは、自室で癇癪を起こしていた。


「使えない…どいつもこいつも使えなさすぎる!嘘が下手な医者!闇雲にミディに手を出す白虎のサル共!クソ…完全にしてやられた…まさか白虎の暴走を、あの番犬の株上げに利用するなんて!」


レンシャは両拳で壁を叩く。


「ミディ…あんたいつからそんな狡猾になったの…?」


今からターゲットを変えるか?

誰に?


第三皇女エルテは既に東の国の豪商との婚約が決定している。ここを潰すと、いざ女皇に就任した時が辛い。

第四皇女アルテは論外。彼女はアルスケイン皇国の国教、ルクスィア教の敬虔な信徒。聖教会が後ろ盾として存在する上に、本人は政治に無関心。陥れようが無いのだ。


「去年までエルテと同じくらいお馬鹿だったのに…どうして急に賢くなったのよ!ミディ!」


ひとしきり暴れたのち、レンシャは大人しくなる。


「…まあ良いわ。どうせあと10人は妹ができるでしょうし、お母様もまだまだ健在。今は手を引くのも良さそうね。」



〜〜〜



ミディとアリスの二人が、ある場所を目指して歩いている。


「なあ、アルテってあの無口な奴だろ?何しに行くんだよ。」


「彼女は、これから生まれる妹達や私を含めた全皇女の中でも、一番安定した立ち位置にいるの。彼女を引き込む事が出来れば、強力なセーフティネットとなってくれる筈よ。」


前世でも、アルテは最後まで平和だった。

皇女にはなれなかったものの教会から聖女として受け入れられ、その信心強さからルクスィア教最高司祭に上り詰める。

アルスケイン皇国陥落の後もアルテは他のルクスィア教国家に迎え入れられ、聖地ルクストハポリスで101年の生涯を終えた。


「アルテは一切の政治活動を行なっていないにも関わらず、私から簒奪した信用と敵国の支援を受けた第一皇女レンシャと最後まで互角だった。

もし万が一私がダメになっても、女皇の座をアルテに託す事ができればまだ希望はある。アルスケイン皇国は宗教国家に塗り替わるだろうけど、滅亡よりかは遥かにマシよ。」


「なるほど?妹を保険に使う訳か。」


「否定はしないわ。」


そうこうしているうちに、二人はアルテの部屋の前に辿り着いた。

ミディはドアをノックする。

このノックで、どの身分の者が何人居るかを相手に伝えるのだ。


「どーぞー。」


二人は、すんなりとアルテに迎え入れられた。


「うっわすげえな…」


壁や天井には神話の英雄達を描いた無数の宗教画、そこかしこには神の姿を象った精巧な彫像。

もはや浮世離れしたアルテの部屋に、アリスは思わず息を呑んだ。


「相変わらずすごい部屋ね、アルテ。」


「あれ?お姉ちゃん来たことあったっけ。まいっか。」


アルテは机に向かい啓典を写していた。

これも修行の一環である。


「それで?ミディお姉ちゃん。ウチに何の用?」


「ねえアルテ、本当に女皇の座に興味は無いの?」


女皇と言う単語を聞いた瞬間、アルテはため息を吐きながら作業を止めミディの方を向く。


「無い。どいつもこいつも女皇女皇って…ウチはただ“祖なる聖魔”様と共に居たいだけ。ほっといてよ。」


「本当に信心深いのね。…でも、だったら尚更だと思うわ。」


「何故。」


「聖女アルテが女皇となった暁には、あなたは間違い無く教皇となるのよ?教会の立場はぐんと跳ね上がり、この国はルクスィア教一色に染まるでしょうね。

国民全員で英雄アレフの生誕祭を祝い、祖なる聖魔様に祈りを捧げるの。」


「…本当に?本当にそんな国にできるの?」


「どうしてみんなが女皇女皇って言ってるか解る?女皇は国家のありかたそのものだからよ。」


「…………」


国の根幹を担っているとはいえ、現状、教会の立場は無に等しい。

人々はルクスィア教を忘れ、祭日も知らずに生きている。

そんな国の事などアルテは心底どうでも良かったので、女皇の座への興味も失っていた。

だが、


「国の形を決めるのは女皇よ。アルテ。権力闘争は苛烈だけど、貴女なら充分戦えるわ。」


「…お姉ちゃんがそう言うなら…」


アルテはデスクから立つ。


「少し、頑張ってみようかな。」


その時、アルテの部屋の窓ガラスが割れた。

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