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合流

子気味の良い音をたて、石煉瓦の道を、5人の騎士に囲まれた馬車が行く。


暗色の木材で造られた馬車は、武骨な見た目と引き換えに頑丈だ。

カモフラージュになると同時に乗客の安全も担保できるので、一石二鳥だ。


「緊張なさらなくても大丈夫ですよ。フレッゲル港はとても治安の良い場所ですし、四聖騎士団の中でも護りに定評のある、玄武(げんぶ)騎士団もついています。」


「ええ、そうね。きっと上手く行くわよね。」


そう言いつつも、ミディは不安な眼差しで馬車の進行方向を見つめていた。


忘れもしない、人生最初の公務。

ミディはこの道中で、ダストタウンの盗賊団の襲撃に逢う。

馬車を護衛する騎士団の活躍によって大事には至らなかったものの、この経験はミディに鮮烈な印象を与えた。


(ああ、あそこだ。二股に分かれた木の陰。あそこから盗賊の集団が…)


"バンッ!"


銃声。

馬が倒れ、騎手が落馬する。


「何事だ!」


「総員盾構え!命に代えても皇女陛下をお守りするのだ!」


玄武騎士団の防護の象徴は、分厚い鎧と大盾。

その信頼は絶大で、悪い物が家に入ってこない縁起物として彼らの盾のミニチュアを玄関先に飾る風習が生まれる程である。


「ご安心下さい皇女様。我々が必ずお守りします故!」


ミディの記憶通り、二股の木から盗賊が現れた。


(…一人?)


ミディの記憶では、襲撃者は40人ほどの大隊だ。

しかし目の前に現れたのは、自分と同じ年頃の少女一人。


フード付きの土色のパーカー。

両手には銀の刃。

浅黒に日焼けた肌。


(もしかして未来が変わったの?それにあの武器…武器をからくり仕掛けにする考え方が広まったのは、早くても50年後の筈…)


盗賊少女の刃が、双銃に変形する。


「大人しく皇女を渡せば、命だけは見逃してやる。」


五人の玄武騎士が、携えていた長槍を構え少女の前に立ちはだかる。


「たった一人とは良い度胸だな。」

「ゴミの街の逆賊が!即刻駆除してくれる!」


盗賊少女が銃を向ける。

玄武騎士は当然盾を構える。


「駆除?…せめて処罰と言え畜生共が!」


発砲。

弾丸ははんだの要領で騎士の盾にくっつくと、暫し火花を吹き出す。


「何だ?」


次の瞬間、閃光と共に騎士の盾が爆発した。


砕け散る鎧。

飛び散る盾の破片。


「盾と鎧だけで小型戦車並みの装甲とは、恐れ入ったよ。」


全身の骨が砕けた騎士だったが、息はあった。


「何だ!?爆弾か!?」


「徹甲弾だ。」


少女は微かに銃をずらし、次の標的に狙いを定める。


「次は誰だ。」


「待って下さい!」


不意に馬車が開き、第二皇女が降りてきた。


「解りました。貴女に投降します。」


次いで、馬車から使用人の男が顔を出す。


「皇女陛下!危険です!」


「彼女を見て下さい!」


「陛下…?」


「私と同じ子供じゃ無いですか!それが…こんな、野盗みたいな事を…」


ミディは涙を浮かべながら、野盗少女の元まで駆けよる。


「皇女陛下!」


駆け寄ろうとした騎士を、少女の銃口が睨む。


「ぐ…汚らわしいダストタウンの住民め…」


第二皇女ミディを確保した少女は、そのまま林の中へと消えて行った。



~~~



ミディ誘拐から四時間が経過し、辺りはすっかり夜の帳を落としている。


林の中の簡易キャンプにて。

ミディと盗賊少女アリスは、黙って焚火を囲んでいた。


「まさか私以外にも居たなんて、思っても見なかったわ。」


「何の話だ?」


「貴女も転生者なのでしょう?その武器を見れば一目瞭然よ。」


「…つまりお前も?」


「ええ。98年後の未来からね。」


「未来?あたしはてっきり異世界からだと。」


「異世界転生…なるほど、だとしたら過去の出来事が変わった説明もつくわね。」


タイムスリップ、異世界転生、共に現実離れした絵空事だったが、二人ともそんな異常体験をした身。ミディの思慮深さも相まって、話はすんなりと進んだ。


「まず、人生初公務の日に盗賊に襲われると言う事象は、前世と同じように発生した。しかし盗賊の人数も、出来事の結果もまるっきり異なる物になった。

この事から過去が変わる条件は、わたしと貴女と言う二つの変数が関わることね。」


「さすが100越えのババアだな。随分と賢いこった。」


「わたしをババア呼ばわりとは、つまり貴女は私より年下ってことで良いのよね?」


「はは、老猾ってのはこういうのを言うんだな。」


「…とにかく話を戻すわ。

わたしの目的、皇国の滅亡の回避を果たすには、この過去改変が必須なの。…ねえ貴女、わたしと組まない?」


「何?」


「わたしには未来の知識、あなたには異界の力がある。最高のコンビになると思うんだけど。」


「はん、そんなの誰が乗るかって…」


「曲がりなりにもわたしは皇女よ。あなたの望みを叶えるだけの力はあるわ。」


「…」


アリスは足を組み、暫し考え込む。


「あたしの望み…」


ダストタウンには、自分の帰りを待つ沢山の仲間が居る。


皇女を攫い、その身代金で沢山の食べ物を手に入れてくると約束した孤児院のみんな。

病気の母親を助けるため、なけなしの火薬を託してくれた親友。

今や殆ど手に入らない、綺麗な水を飲ませてくれたカンタル爺さん。

武器や服を見繕ってくれた、盗賊団のみんな。


「…あたしの望みは、ダストタウンを消す事だ。」


「?」


「みんなが良い暮らしを出来る様にして、ゴミの街ダストタウンと言う言葉をこの世界から綺麗さっぱり消したい。」


「なるほど。実に難しい課題ですね。」


戦争難民と犯罪が吹き溜まり、自然に発生した歴史のゴミ捨て場。

そこを掃除するという事は、ゴミ処理場からゴミを無くす事に等しい。


「ですが…」


しかし、ダストタウンに溜まっているのはゴミでは無く犯罪と人だ。

犯罪は撲滅できるし、人は救う事ができる。


「わたしが女皇となった暁には可能でしょう。」


「本当か?」


「皇位就任はわたしの目標の最優先事項の一つでもあるの。女皇ミディが誕生した暁には、最優先で着手すると誓うわ。」


「絶対だな?」


「絶対よ。わたし、人を騙す嘘はこの世で一番嫌いなの。」


「…であれば、一先ずは契約成立だ。だが勘違いするな、まだ信用した訳じゃ無いぞ。」


「勿論よ。信頼はこれから築いて行けばいいわ。」


ミディは徐に懐中時計を取り出す。


「そろそろ時間ね。」


周囲の林が一斉に騒めきだし、二人は無数の騎士に取り囲まれた。


「そこまでだ逆賊め!この青龍騎士団が成敗してくれる!」


鎧に剣、常識的な大きさと厚さの盾。

玄武とは打って変わって、青龍騎士団の装備は正当なそれである。


「皇女陛下、もう大丈夫です。今すぐこのダストタウンのゴミを…」


「もう良いの。」


「陛下?」


「彼女とは和解したわ。これからはわたしの傍で働いてもらうわ。」


「…はい?」

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