第68話 世紀の大発見 第七章完
簡潔に言えば、ステラの直感は正しかった。
「…………できました。間違いなく、同等の性能を発揮する魔力計測器の完成です」
工房で、ステラがやりきった、といった様子で長く溜息を吐いた。
渡たちは、結果を黙って見つめていただけに、その報告を聞いた時は思わず立ち上がって喜ぶ。
クローシェなどは思わずエアに全力で抱きついて、エアから嫌そうな顔をされていた。
渡はゆっくりと、ステラに立ち寄ると、その体を優しく抱きしめる。
目を細めて受け止めるステラは、とても満足気だ。
一人で本当によく頑張っていたと思う。
錬金術の内容については、渡たちはほとんどタッチできない。
かろうじて現代科学の面から、サレム博士が報告できたに過ぎなかった。
後はすべて、この類まれな才能と、諦めない心を持つ一人の美少女が、成し遂げたことだ。
「よくやった。君は俺達の誇りだ。ステラと出会えなかったら、俺達は大きな野望だけを掲げて、何も達成できなかっただろう。ステラにとっては苦しかっただろうけど、あのときに、君に会えて俺は幸せだった」
「わたしも、あなた様にお会いできて、本当に幸せです。ただ命令を聞き続ける奴隷だったわたしは、あなた様に出会って、はじめて人の愛情を知りました。わたしの体を見て美しいと感じる人もいるのだと、そう信じることができました」
エルフの一族の中でもっとも差別的な扱いを受けていたステラが、今は時折怯えながらも、素直に自分への愛情を信じることができている。
ステラは熱っぽい視線を上げると、優しく口づけしてきた。
きっと誰よりも重圧を抱えて研究を続けていただろうステラの思いを考えれば、きっとここは受け入れるべき場面だろう。
渡はステラの行動を拒絶することなく、身を委ねている。
ステラは最初はおとなしい。火が付くと段々と過激に求めてくるタイプだ。
そっと舌先で舌をつつくと、恐る恐るといった様子で、舌を絡め始めた。
「ご主人様、私はちょっと片付けておきますね」
「まあ今日のところは、ステラに譲ってあげるかあ。お手柄だしね」
「う、ううう、羨ましくなんてありませんわ! お姉様、わたくしたちは畑の拡張を行いましょう!」
「そうしよっか。計測器ができたなら、本格的にポーションの製造も進むだろうし、それに薬草園の拡大は急務だろうし」
「わたくしとお姉様で、どっちがより広く開拓できるか勝負ですわ!」
「おっ、アタシに勝つつもり?」
「あなたさま、あなたさまぁ……」
そう言って各々ができることをやり始めてくれるのは、正直なところとても助かる。
おそらく魔力計測器ができたことで、研究は加速的に進み、製造も軌道に乗る。
いよいよ事前準備の段階から、製造と認可、販売に向けて大きく進むのだ。
渡はステラの意外としっかりとした背中を撫で、ひたすら啄むようなキスを降らしてくる愛撫を受け止めていた。
◯
二〇二五年八月某日。
『魔力(MP)という未知のエネルギーの発見と、その医学的応用の可能性』という論文が発表された。
この論文は、従来の物理学や生物学の常識を根底から覆す内容だ。
世界中の研究者や医療関係者の間で瞬く間に話題となった。
論文では、魔力(MP)が生体内でどのように生成・循環し、特定の条件下で計測可能であること、さらにそのエネルギーが細胞の修復や活性化、免疫機能の向上など、医学的に高度に応用できる可能性について、詳細に記述されていた。
と同時に、Nature MedicineやLancetといった世界的に権威のある医学誌に対しても、査読付き論文を投稿。
これらの論文は、従来の科学的枠組みでは説明できない現象を数多く含んでいたため、査読者たちの間でも賛否両論が巻き起こり、論文の真偽や再現性について激しい議論が交わされることになる。
また、魔力計測器の特許を出願し、自分たちの装置でのみ、現時点では観測可能であることを、プレスリリースで公表した。
この計測器は、従来の科学機器では検出できないエネルギー波動を捉える独自の技術を用いており、その構造や原理は企業秘密として厳重に管理されることになる。
これには祖父江の息のかかったプレスリリース会社や、渡が美容液を提供しているマスコミを中心に、情報が一気に拡散される。
テレビやインターネット、SNSなどあらゆるメディアでこのニュースが取り上げられ、瞬く間に世間の話題を独占した。
特にSNSでは「MPとかwww」「新時代の幕開けか、あるいは稀代の詐欺師か」「三〇歳童貞が魔法使いになる説は本当だったんだ!」などと話題をかっさらった。
また美容や健康業界では、魔力の応用による新たな商品開発や治療法への期待が高まり、関連株の急騰や新規事業の立ち上げが相次いだ。
学術界では追試や再現のできない研究は認められない、と批判や論争が勃発。
「計測機器を寄越せ、装置の作り方を公開しろ!」
「できないなら出任せで株価操作をしているんだろう!」
などと、その発見そのものを疑問視する声があがる。
多くの研究者が独自に魔力の存在を証明しようと試みたが、計測器がなければ再現できず、学会やシンポジウムでは激しい論争が繰り広げられた。
中には、魔力の存在自体を否定し、詐欺やオカルトと断じる者も現れた。
さらに投資家たちは新技術の開発に非常に熱い視線を向け、プレスリリース直後から、工場の回線はパンク。
メールの問い合わせも殺到し、人的な対応がフリーズする。
ベンチャーキャピタルや大手企業からの出資や提携の申し出が相次ぎ、工場や研究所には連日、見学や商談の申し込みが殺到した。
電話やメールだけでなく、直接訪問する者も後を絶たず、現場は混乱の極みに達した。
可哀想だったのは工場長の平田だろう。
一中小企業の社長でしかなかった平田は、気の利いた対応などできるわけもなく、後日渡は陳謝することになる。
渡のポーション販売の問い合わせ件数も数十倍規模に増え、対応不可能になるレベルに陥る。
メディアは「トンデモ科学か? あるいは世紀の大発見か?」と騒ぎ立て、政府筋は早急な秘密裏の接触と、内閣が安全保障上の懸念を述べるに至る。
各国政府や情報機関もこの発見に強い関心を示し、技術流出や軍事転用のリスクを警戒して極秘裏に調査や交渉を開始した。
日本政府も内閣主導で専門チームを立ち上げ、魔力技術の管理や国益確保に向けた対策を急いだ。
某国たちのスパイたちは、自分たちがその兆候を捉えておきながら、肝心な内容については一切掴めなかったことに、顔色を失った。
さらに宗教界、スピリチュアル界隈は、神の存在や精霊信仰、霊的存在の実在を訴えるなど、驚くほどの社会変化を引き起こすことになる。
伝統的な宗教団体や新興宗教、スピリチュアルリーダーたちは、魔力の発見を自らの教義や信仰の証拠として取り上げ、信者の獲得や布教活動を活発化させた。SNS上では「魔力覚醒」や「霊的進化」といった新たなムーブメントが生まれ、社会全体がかつてない熱狂と混乱に包まれていった。
こうして、魔力という未知のエネルギーの発見は、科学、経済、宗教、政治、そして人々の価値観にまで、計り知れない影響を及ぼし始めていたのだった。
第七章完
次回から最終章に。
といってもまだそれなりに続くんですが、区切りとしては最終章になります。
ここまで読んでいただいた皆様には、できれば物語の最後までお付き合いいただきたく思います。
さて、渡たちはこれからどのような結末を迎えるのか、作者としても楽しみです。
キリが良いところですので、感想やレビューお待ちしております。





