第67話 魔力計測器の試作品
魔力計測器の試作品ができた。
実際に使ってみないと分からないが、基本的な構成物は、これで問題がないはずだ。
ステラがまだ緊張した様子で、そう報告してくれている横では、クローシェが、顔を真っ赤にして、もじもじと足をすり合わせている。
両手でスカートの裾をぎゅっと握りしめ、視線を泳がせながら、ちらりとこちらを見てきた。
「クローシェも協力ありがとう。助かったよ」
「と、当然のことをしたまでですわ。別にお礼の言葉なんて、必要ありません。主様のためですもの」
「そうか? とても献身的な協力だったように思えるけど。……なんだか落ち着きがないが、どうかしたか?」
渡の指摘に、クローシェはビクッと背筋を震わせた。
ますます顔を赤くして、全身に力を込めている様子は、何かがありました、と言わんばかりだった。
あいつやったな、と言わんばかりに、マリエルやエア、ステラたちの生暖かい目が、クローシェに向けられる。
クローシェは渡のすぐ横に立つと、耳元に顔を近づけた。
「……だ、だって、あんなところを剃られるなんて、恥ずかしいに決まってますわ……」
「やってくれって頼んだのは、俺じゃないぞ」
どこか拗ねたような響きのある声は、とてもか細く、目元が赤く染まっている。
普段は無駄に堂々としている彼女が、今は小動物のように縮こまって、恥じらいを隠しきれない様子だ。
その仕草が妙に可愛らしくて、思わず苦笑してしまう。
クローシェはさらに顔を伏せ、膝を寄せて、恥ずかしさを紛らわせるように小さく震えていた。
「……主様の前だから、我慢しましたけど……やっぱり、恥ずかしいですの……。それにこんな格好でいさせるなんて……」
その呟きは、かすかに震えていた。
普段はタイトなジーンズ、あるいは革ズボンを着用することの多いクローシェだが、今は少し屈めば股間が見えてしまいそうなほど、裾の短い藍色のスカートを履いている。
ガーターベルトで留められた白タイツが明るく輝いて、いやでも人目を引きつける姿だ。
昨夜、渡が(クローシェの期待を汲み取って)命令した姿だ。
いや、それも自分が求めた結果だろう、と渡は思ったが、そこまで指摘しない優しさがあった。
もじもじとしながらも、どこか期待のこもる熱い視線を向けられて、渡は苦笑しながら、話を進めることにした。
昨夜のお楽しみを振り切って、公私の別をつける。
ちなみに綺麗に剃って手に入れた毛は、一切魔力計測器には使われていなかったりする。
◯
そして、いよいよ魔力計測器の試作品を使った初めてのテストが行われた。
だが、結果は思わしくなかった。
計測値は大きくブレてしまい、正確な数値を示すことができなかったのだ。
計測器の目盛りは過剰な反応を示し、安定しない。
部屋の中が静まり返る。
ステラは肩を落とし、手元の計測器をじっと見つめていた。
華奢な肩が、わずかに震える。
やがて、諦めたように嘆息すると、ステラが渡に向き直って、頭を深々を下げた。
そのまま埋まってしまうんじゃないかと思うほどの、深いお辞儀だ。
「……ごめんなさい、あなた様。わたしの設計が、どこか間違っていたみたいです。お役に立てなくて申し訳ありません。やっぱりわたしは、役立たずなのですねぇ……」
「そんなことないって、ステラ! ここまで来られたのは、君のおかげだ。失敗しても良いじゃないか」
「でも……でも、せっかく皆さんに協力してもらったのに、失敗してしまって……。アルフヘイムの店主にも立ち向かっていただいたのに……。わたしは、ご迷惑ばかりをおかけしていますぅ」
「失敗は悪いことじゃないぞ。むしろ、次に進むための大事な一歩だよ。それにいつも言ってるだろう。ステラは、君がそこにいるだけで、俺は助かってるんだ。役に立つからいてもらってるんじゃない。アルフヘイムの女店主にだって、俺が腹立たしいから言ったんだ。ステラが悪いわけじゃない」
「……本当に、そう思いますかぁ?」
「もちろんだ。それに君が諦めなければ、必ず成功する。俺はそう信じてるよ」
「……あなた様。…………ありがとうございます」
「一緒にもう一度、挑戦しよう。今度はきっと、うまくいくよ」
ステラはしばらく黙っていたが、やがて小さくうなずき、鼻をスンと鳴らして目元をぬぐった。
渡はステラの背中を優しく撫でた。
これまで何度も繰り返した光景だが、長年刻み込まれた自己効力感の喪失とは恐ろしいものだと思う。
おそらく、ステラも自分の自信のなさには気付いている。
渡たちが信頼していることも理解している。
だが、それを本能から分かって、受け入れられるかどうかは別問題だ。
根気よく何度でも肯定し、ステラの心の根の部分がゆっくりと生え変わっていくのを待つしかないだろう。
「どこに問題があったか、振り返ってみよう」
「……はい。もう一度、頑張ってみます」
「頑張れ。でも無理はするなよ。誰かの助けを借りたり、厳しい時はつらいって言えることも大切だ。ステラは一人じゃないぞ。俺もいるし、マリエルたちもいる。ツアーさんだっていたんだ」
「そう、そうでしたね……」
その声には、再び希望の色が戻っていた。
力の戻ったヘテロクロミアの瞳が、魔力計測器に注がれる。
彼女自身は、魔力計測器に頼らなくとも、魔力の流れを見ることができる。
蒼と紅の宝石のような瞳が、じっと計測器を見つめた。
「タメコミ草溶液と、クローシェさんの髪の毛を利用した素材には、問題がなさそうです。魔力の吸収と、反応は間違いなく行われています」
「となると、端子の水晶の問題か?」
「はい……。もともと宝石は、魔力の吸収や収束、拡散や反射といった、加工によって様々な役割を担います。そのため、魔法の杖の先端に用いられることも多い素材なんですぅ」
「となると……。俺たちは水晶は地球でも手に入る素材だから、入手が容易だと思ってた。けど、実は素材をそのまま使用しただけではダメで、加工が必要だってことだな?」
「そうなりますねぇ」
渡の問いかけに、ステラが同意した。
魔力計測器を量産するのは、かなり大変そうだな、と思った。
渡たちが大手を振ってポーションを販売するには、ポーションの効果を科学的に解明し、それを世に論文として提出し、その効果を認定してもらう必要がある。
その計測機器が量産できない、というのはかなり大きな壁になってしまう。
言ってしまえば、良く分からない独自理論を提唱して、再現性の確認、追試ができない状況になってしまうからだ。
ポーションの効果自体は間違いなくあるわけだが、その理論を秘匿しようとしている、とあらぬ疑いを受けてしまう恐れがあった。
だが、ここで意外な発言が飛び出た。
「わたし、水晶の加工の仕方が分かったかもしれません」
「本当か? いま失敗して問題が分かったばかりだぞ?」
「はいぃ。店主さんがどうしてバレる恐れを抱えながら、わたしたちに売ってくれたのかを考えたら、おのずと答えが出たんです」
ステラが不安そうに、しかしハッキリと言った。





