表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
29/182

第29話 不機嫌な凪

 テストは順調に終わり、結果が中庭の大型掲示板に張り出された。

 そこには一年生だけでなく、二年生の成績も掲示されている。

 二年生の一番上には見知った名前があり、合計点数を見れば全教科で一問もミスをしていないのが分かった。


「凄いもんだな……」


 凪の頭の良さは十分に知っていたが、流石と言わざるを得ない。

 海斗もそれなりに頑張ったものの、ギリギリ名前が載っている程度だ。

 尊敬と呆れを混ぜた呟きを零し、掲示板を後にする。

 教室へ戻ろうとしたのだが、その途中で数少ない友人と会った。


「やほ。相変わらず良い点数取ってるねぇ」

「一ノ瀬もな。というか、こうして話してると誰かにバレるぞ」

「分かってるって。だからほら、こっちに来なさいな」

「……ま、そこならいいか」


 閉鎖されている屋上への階段へ、美桜が手招きする。

 そこならば誰かに見られる心配はないと、素直に従った。


「改めて十位おめでと、天音」

「そういう一ノ瀬も、九位おめでとうだ」


 クラスメイトとの遊び等で忙しい美桜だが、頭は非常に良い。

 毎回海斗が勝てないのも、最早いつも通りだ。

 とはいえテストは自分の力を出す為のものなので、美桜に恨みなどない。

 お互いに健闘を称えれば、彼女が楽し気に頬を緩めた。


「今回も天音に勝ったし、何を作ってもらおうかなー」

「お好きなものをどうぞ。最大限応えるつもりだ」


 別に勝負をしたつもりはないが、テスト後は勝者へのご褒美として美桜に甘い物をねだられている。

 手間の掛かる物でもないので、毎回作っていた。

 美桜が言うのを待っていると、溌剌はつらつとした笑顔を浮かべて彼女が口を開く。


「じゃあシュークリーム! カスタードたっぷりのやつと、生クリームを混ぜたやつ!」

「それくらいならお安い御用だ。日曜日にでも作って喫茶店に持って行くよ」

「やったね! 楽しみぃ!」


 綺麗に作るのが少々手間ではあるものの、シュークリームくらいなら問題ない。

 以前なら前日のバイトが終わった後に許可をもらって喫茶店で作っていたが、凪の家にオーブンがあったはずだ。

 明らかに使っていない様子だったので、この際使わせてもらおう。

 はしゃぐ美桜に微笑みを零し、思考を巡らせる。


(折角だし、凪さんにも作るか)


 凪からすれば当たり前だろうが、彼女の成績は褒められるべきものだ。

 あの成績を取って当たり前だと流したくはない。

 それに、使わせてもらうのに凪にお礼をしないというのも変だろう。

 週末の予定を組み立てていると、ふと美桜が首を傾げる。


「あれ? いつもは喫茶店で作って、置かせてもらってるんじゃなかったっけ?」

「……っ。ちょっと伝手つてが出来てな。今回はそっちで作らせてもらうんだ」


 美桜ならば話しても問題ないと、普段お菓子を作っている時の詳細を伝えていたのがあだになってしまった。

 咄嗟とっさに誤魔化しはしたが、一瞬の動揺を見抜かれて美桜が目をすがめる。


「ふぅん……」

「な、何だよ」

「…………ま、いっか。最近天音がバイトにあんまり来ないのを気にしてたんだけど、その『伝手』の所に行ってるんでしょ?」

「そういう事だ。詳細は勘弁してくれ」


 いくら信用している美桜とはいえ、凪の事を話す訳にはいかない。

 あっさりと見抜かれた事で手を上げて降参しつつも、明確に線を引いた。


「分かってるって。偶には喫茶店に顔を出してよ?」

「おう。どうせ愚痴が溜まってるんだろ? 聞いてやらないと一ノ瀬が爆発しそうだ」

「爆発なんてしませんー。んじゃあね」


 不服そうに頬を膨らませた美桜だが、言葉や表情とは裏腹にかなり溜まっているらしい。

 すぐに嬉しそうに顔を綻ばせ、ひらひらと手を振って先に教室へ向かう。

 踏み込まないでくれる華奢きゃしゃな背中に内心で感謝し、壁に凭れ掛かった。


「……何か、隠してるのも悪い気がしてきたな」


 美桜とはあくまで喫茶店で愚痴を聞く関係でしかないが、それでも大切な友人だ。

 そんな人に全く事情を伝えないのは、誠意を示していないのと同じことではないか。

 とはいえ凪や清二の思惑もあるだろうし、海斗の判断だけでは決められない。


「凪さんと一ノ瀬なら良い友達になれそうなんだよなぁ」


 美桜は踏み込まれたくないラインをきっちり守るし、凪も踏み込んでしまったと思ったらきちんと謝れる。

 人に囲まれる美桜と一人で居る事の多い凪では一見反りが合わなさそうだが、美桜はずっとハイテンションではなく、相手に合わせられる人だ。

 なので気が合うかもしれないと思っているのだが、唐突に紹介されても困るだろう。


「ま、なるようになる、かな」


 問題が起こったのならその際に考えればいいと、思考を放棄する海斗だった。





「友達にお菓子を作って渡したいので、オーブンを使ってもいいですか?」

「うん。好きに使って」


 その後、凪の家に行ってすぐに聞いてみると、あっさりと許可をくれた。

 ただ、彼女の顔が曇っているように見えるのが気になる。


「本当に大丈夫ですか? 気になる事があるなら言ってくださいね」

「じゃあ遠慮なく。お菓子を作ってあげる人って女子、だよね」

「そうですね。俺の数少ない友人です」

「……ふーん」


 興味など無いという風な声だが、その割には凪の顔が悲しそうに歪んでいた。

 先程までの会話のどこに悲しませる要素があったのか分からず、思考を回転させる。

 すると、一つの可能性に思い至った。


「凪さんも俺の友人ですからね。忘れないでくださいよ」

「ん。分かってる。それは、嬉しい」


 同じ独りぼっちでなかったのは申し訳ないが、凪が大切な友人なのは変わらない。

 なので少し恥ずかしいが真っ直ぐに告げると、淡く微笑んでくれた。

 しかし凪の顔にはまだ影があるので、何か引っ掛かっているらしい。

 とはいえその感情は彼女にも分からないのか、首を傾げている。


「でも、何か、変な感じ」

「それを俺に言われましても……」


 いくら親しい友人とはいえ、凪の心を海斗が分かるはずもない。

 お手上げだと告げれば、どうやら海斗から答えを得られるとは思っていなかったらしく、凪が頭を下げる。


「そうだよね。ごめん」

「いやまあ、むしろ俺の方こそすみません」

「どうして海斗が謝るの?」

「何となく、ですかね」

「……変な海斗」


 海斗の謝罪は流されたものの、凪がようやく穏やかに笑ってくれた。

 空気も柔らかくなったので、どうせならと口を開く。


「折角オーブンを使わせてもらいますし、シュークリームはお礼として凪さんにも作りますが、それ以外にも食べたいお菓子があるなら作りますよ」

「別にいい。それだけで十分オーブンと釣り合う」

「……そうかもしれませんが、使わせてもらっているのに、渡す相手と同じ物だけってのは納得がいかないんですよ」


 どうせ彼女の事だから遠慮するはずだと思って、お菓子作りが凪へのご褒美も含まれているのは黙っていた。

 別に伝えても良かったのだが揉めたら大変だし、折角ならばサプライズで渡したいと思ってだ。

 適当な理由を口にすれば、海斗が引かないと思ったのか凪が顎に手を当てて考え始める。


「……なら、プリンがいい」

「任せてください。固めですか、柔らかめですか?」

「どっちも」

「了解です」


 固めだろうと柔らかめだろうと、あまり作る手順は変わりない。

 生クリームは必要だが、それはシュークリームでも使うので手間も掛からないはずだ。

 美桜に凪と、甘い物に関して欲張りな女子二人に、くすりと笑みを零すのだった。 

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
[一言] なんか久々登場美桜さんでしたな。 この子出てくると前話のせいか不穏な空気を感じてしまいますなぁ そんなことより無意識ヤキモチ凪ちゃんかわゆす!
[良い点] 凪はやはり学年一位の成績だな。むしろ違ってたら困惑するか。二位とか三位の人は毎回点数差がありすぎて良い成績なのに絶望してそう。あと凪はわざわざ中庭まで見に来ることもなさそう。まあ見てもべつ…
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ