↓ ↑ページトップへ
表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
27/182

第27話 子供扱いは不服です

 休憩後は空気が普段通りの穏やかなものへと戻り、再び勉強を再開した。

 黙々と手を動かして数時間後。ようやく目途が立ったので、ノート類を閉じて背伸びする。

 

「んー。こんなもんだろ。凪さんはどうですか?」

「もうすぐ終わる」


 海斗だけが終わるのは何だか申し訳なかったが、凪も終わるのならば気にする必要はない。

 勉強道具を鞄にしまえば、ちょうど凪もパソコンを閉じて自室へと持って行っていた。

 リビングへ戻ってきた凪が、こてんと小首を傾げる。


「晩ご飯まで時間があるけど、何かしたい事はある?」

「ずっと勉強するつもりは元々なかったので、ちょっと早いですけど晩飯を作ります」

「ならいいけど、何を作るの?」

「折角ですし、カレーを作ろうかと」


 普段は凪の家に来てサッと晩飯を作っていたが、今日は時間がたっぷりとある。

 なので時間の掛かる料理をしようと、事前に決めていた。

 定番といえば定番の料理に凪が目を輝かせる。


「ホント!? お肉は沢山入れる? 味は甘め?」

「肉は沢山買ってきましたよ。味は少し甘めにしましょうか」


 凪の趣向は殆ど把握しており、肉は準備済みだ。

 甘さに関しては海斗が甘すぎるカレーを好きではないので、間を取る事になるだろう。

 それでも凪は興奮に頬を赤く染め、嬉しそうにはにかむ。


「楽しみ」

「特に変わった事はしませんけどね」

「それでもいい」


 子供っぽく無邪気に喜ぶ凪にくすりと笑みを零し、キッチンへ向かった。

 食材を取り出し、まずは野菜の皮むきから始める。

 清二に叩き込まれたとはいえ、全てを包丁で行うのは面倒なので、文明の利器を取り出した。

 すると横から細い手が伸びてきて、ピーラーを奪っていく。


「凪さん?」

「勉強で全然力になれなかったから、こういう事くらいはしたい」

「気にしないでいいんですよ?」


 顔を曇らせる凪に海斗がフォローを入れても、彼女の表情は晴れなかった。


「気にする。だから、今日はお手伝い」

「……皮むき、出来ます?」

「やらないだけで料理は出来るって説明したはず。それくらい簡単」

「いやまあ、聞いてはいたんですけど心配なんですよ。だから、いつも通り俺がやります」


 むっと唇を尖らせて抗議されたが、万が一にでも凪に怪我をされたらと思うと気が気でない。

 そもそも、ピーラーなど使わずとも作れる料理は山ほどあるのだ。

 流石に有り得ないとは思うが、凪の普段の姿からするとピーラーの使い方が分からない可能性がある。

 なのでリビングで大人しくして欲しいと遠回しに伝えれば、勘に障ったのかアイスブルーの瞳が鋭く細まった。


「馬鹿にし過ぎ。もう怒った。絶対にやる」

「えぇ……」

「海斗は退いて。私が全部皮むきするから」


 キッチンのシンクから今すぐ離れろと言わんばかりに、凪が近寄ってくる。

 桃の香りが鼻を掠め、どくりと心臓が跳ねた。

 このままでは駄目だと、彼女に触れないように距離を取る。


「わ、分かりましたよ。それじゃあ俺は凪さんが皮むきした野菜を切りますね」

「それも出来る。海斗は休んでて」

「いや、流石に包丁は危ないですよ。俺が――」

「ふんっ!」

「い゛!?」


 余程不服だったようで、凪が掛け声と共に海斗の足を踏みつけた。

 加減はしてくれたので殆ど痛くなかったのだが、彼女がそんな事をするとは思わず、つい声が出てしまう。

 驚きに目を開いて凪を見つめれば、堪忍袋の緒が切れたのか、ぷくりと頬を膨らませていた。


「子供扱い、しないで」

「……すみません。それじゃあお願いします」

「分かればよろしい」


 これ以上世話を焼くのは危険だと判断して、リビングのソファに避難する。

 流石にやり過ぎだったなと反省するものの、心配なのは変わらない。

 耳に神経を集中させて凪の音を聞いていると、どうやら皮むきは問題なく終わったようだ。

 ならば次は切っていくはずだと音だけで様子を窺《うかが》っていれば、次第に包丁の音が小さくなっていく。

 それだけならば耐えられたが「うぅ……」という呻く声であっさりと海斗の限界が訪れた。


「大丈夫ですか!?」

「かい、とぉ……。涙が、止まらないよぉ……」

 

 急いでキッチンに向かうと、凪が大粒の雫を美しい瞳から零れさせていた。

 庇護欲をそそる姿に、抱き締めて頭を撫でたくなってしまう。

 しかし今は現状を把握するのが最優先だと、まな板へと視線を向ける。

 そこには、切るには大変な奴が鎮座していた。

 何事もなくて良かったという安堵と、そうなって当たり前だという呆れが混ざり、海斗の口から溜息として出る。


「…………そりゃあ玉葱《たまねぎ》ですからねぇ」

「そうだけどぉ。こんなに切るの大変だったっけ?」

「普段やらない事をするからです。交代してください」

「で、でもぉ……」

「泣いてるのに包丁を持ったら危ないですよ。そんな状態で料理させる訳にはいきません」

「分か、った」


 海斗は慣れているので、玉葱程度何の問題もない。

 ぐずる凪に言い聞かせるように告げれば、渋々と包丁を置いた。

 それでも諦めきれないようで、彼女がキッチンから離れようとしない。

 これは仕方のない事だと自らに言い聞かせ、凪の肩を掴んだ。


「ほら、涙を拭いてください。擦ったら赤くなるので駄目ですよ」


 薄く華奢な肩に心臓の鼓動を乱されつつも、平静を取り繕《つくろ》って凪を半回転させる。

 そのまま肩を押してキッチンから追い出せば、恨みがまし気な目を向けられた。

 濡れた瞳で睨まれると、悪い事などしていないのに罪悪感が沸いてくる。


「海斗の、いじわる」

「何がいじわるですか。そういうのは玉葱をちゃんと切れるようになってから言ってください」

「いじわるぅ……」


 子供のような負け惜しみの言葉を海斗にぶつけ、凪が自室へ引っ込んだ。

 彼女の姿が見えなくなった事で、手を動かしながらも肩の力を抜く。


「美少女は狡いなぁ……」


 無邪気に喜ぶ笑顔が可愛いのは当然として、不満そうに怒ったり拗ねたりしても可愛らしい。

 それだけでなく、泣き顔ですら海斗の理性を崩そうとしてくるのだから、美少女は反則だ。

 しかも、それら全てが海斗を信頼しているが故の態度だから質が悪い。


「取り敢えず、ご機嫌取りの為に美味いカレーを作りますかね」


 おそらく、凪はカレーが出来るまで部屋から出て来ない。

 そういう場合は、食べ物で釣るのが一番だ。

 そして海斗の予想通り、むすっとした表情で部屋から出て来た凪は、カレーを食べた瞬間に顔を輝かせるのだった。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
 ある意味、立派な「十七歳児」位?
[良い点] お手伝いしたがる子供凪ちゃんがかわゆす [一言] なるほど、子供が好きなおかず系で攻めてると見た! 拗ねた後でできて即落ちまで完璧な凪ちゃん。おかんには勝てませんなぁ
[良い点] 勉強アンド仕事(?)時間は終了。思えば、資料が部屋にあったりずっとパソコンに打ち込んでたりってレポートをまとめてるようにも見えるな。まあ真面目に集中して何かに取り組んでる姿を見られただけで…
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。