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【本編完結】学園のアイドルは料理下手。目立たぬ俺は料理講師。~いつの間にやら彼女を虜にしていた件~  作者: 波瀾 紡
◆本編

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【67:春野日向は……★】

 俺の頭の中で、想像上の日向が突然真顔でこう言った。


『祐也君。私ね、東京に転校することに決めたよ』


 その瞬間、汗ばむような気温なのに、なぜか俺の手足がブルブルと震え出して、止まらなくなった。


 ──俺は、日向を失うのが怖い。


 今さら遅いことはわかっている。もしも日向が東京行きを決断したなら、今さら反対なんてできない。


 だけど……


 頭では日向の決断に俺なんかが影響を与えるべきではないと考えている。しかし心の奥から、俺の本音が溢れてくる。


 ──日向と離れたくない。

 ──日向を失いたくない。


「くっそーっ!! 俺は……俺は……」


 心の奥から本音がどんどん溢れ出すのが止まらない。止めようとしているのに止まらない。


「日向ーっ! ホントは日向と離れたくないんだー! 俺は、ずっと日向と一緒にいたいんだよーっ!!」


 俺は日向が去って行った道路の角を見つめながら、思わず大声で叫んだ。ぜいぜいと息が切れる。


 日向がいない所なら、本音を叫んでも、アイツの判断に影響を与えることはない。


 ──だから、いいだろ?


 せめてこれくらいのこと──日向のいない所で本音をぶちまけることくらいは許してくれ。


 はぁはぁと荒い息をしながら、俺は日向が立ち去ったブロック塀の角を見つめていた。


 すると──




 その角から、栗色の髪をしたとんでもなく可愛らしい美少女が、ピョンと飛び出して来た。


 その美少女はまっすぐに立って、俺を見つめている。


 ──日向だ。

 なんでまだ日向がここにいるんだ?


 訳がわからず俺が彼女をぼんやりと見つめていると、日向は急にこっちに向かって走り出した。


「日向……なんで?」

「祐也君……祐也君……」


 日向は顔をくしゃくしゃにして、走って近づいてくる。目から溢れた大粒の涙が頬を伝って後ろに流れている。


「祐也君のホントの気持ちが聞きたかったの!」


 日向はそう叫びながら、ドンと俺の胸に飛び込んできた。そして日向の両腕が俺の背中をギュッと抱きしめる。

 日向の温かい体温が胸とお腹に伝わってくる。


「祐也君。やっぱり私、東京に転校するのはやめる。アイドルにチャレンジするなら、卒業してからでも遅くない」


 日向は俺に抱きついて顔を俺の胸に埋《うず》めたままそう呟いた。


「なんでだよ日向。なんで大事な判断をするのに、俺なんかの気持ちが関係するんだよ。もっと日向自身がやりたいことを優先させるべきだ」

「いいの。卒業するまで今の高校にいることが、私がやりたいことだから……」

「ホントにそうなのか? なんでだよ?」


 日向は俺の胸から顔を上げて、俺の顔をじっと見つめる。そしてすっと口を俺の耳元に寄せて囁いた。


「んもう。鈍感バカ祐也……」


 バカ祐也って……言われた。

 そう言えば、前に母がバカ祐也って呼んでもいいとか言ってたな……


 そんなどうでもいいことが頭に浮かんだ時、日向はまた囁くような声を出した。


「私は……もうとっくに、祐也君に首ったけなんだよ………祐也君が大好きだよ」


 ──はぁっ?

 ええっ?

 なんだって?


「祐也君が私と離れたくないって想ってくれるなら、私も祐也君と離れたくない」

「えっ? あっ……いや……」


 頭が混乱して、何を言えばいいのかわからない。俺が戸惑っていると、日向は俺の胸からすっと離れて、一、二歩下がった。


 そして俺をまっすぐに見つめる。


「さっき祐也君が言ったことは……本音?」

「あっ……ああ」


 日向が本音を話してくれたんだ。もうこれは、俺も本音を言うしかない。

 俺の気持ちが日向の決断に影響を与えるべきじゃないなんて、言ってる場合じゃない。


「本音だ。本音中の本音だ。俺は日向と離れたくない。だけど日向が俺をどう思っているのか自信がなくて、怖くて、今まで言い出せなかった」

「祐也君……ありがとう」


 日向はまだ涙の跡が残る顔に、ニコリと笑顔を浮かべた。


「祐也君は、私に会いたいって……いつまでもそばにいたいって、想ってくれる?」

「お、おう。想う。いつまでもそばにいたい」

「そっか……じゃあそれは、恋だね」

「へっ?」


 日向は目の前に人差し指を立てて、少し意地悪な顔でニヤッとした。


「だって祐也君の国語辞典に、そう書いてあったもん。恋って文字にぐるぐる印を書いてある国語辞典」

「あ……やっぱりあの時、気がついてたのか……」

「うん」


 日向は楽しげに「うふふ」と笑う。


「そ、そうだな……間違いなく恋だ。俺は春野日向に恋してる。春野日向が大好きだ」


 日向は目を丸くして驚いた顔をした後、その可愛らしい顔をくしゃくしゃにして、嬉しそうに笑った。


「ありがとう」


 俺の言葉に日向も喜んでくれている。良かった……


 ──しかし俺は今、勢いに任せてとんでもないことを言ったな。これが噂に聞く、告白ってやつか。


 そう思った途端、急に恥ずかしさがこみ上げてくる。


「と、ところで日向。なんでまだそこにいたんだ?」


 俺がブロック塀の角を指差すと、日向は少し照れ臭そうな表情を浮かべた。


「もしかしたら、祐也君が追いかけてきてくれるかもって……でも祐也君が家の中に入っちゃったら、諦めて帰ろうと思ってた」


 そうなんだ。俺がずっとここに立ち尽くしていたから、日向は帰らずに、息を潜めて待ち続けてくれたんだ。


 俺はそんな日向が愛おしくて愛おしくてたまらない。


「俺も……もしかしたら日向が戻ってきてくれるかもと思ったら、ここから動けなかった」

「私たち、おんなじようなことを考えていたんだね……」

「そうだな……」

「うん……」


 日向は頬を赤らめて、コクンと頷いた。


「でも日向。東京行きはやめるって、そんな大事なことを、ホントにここで決めていいのか?」

「うん。祐也君が私と離れたくないって想ってくれるなら、東京に転校はしない。それは初めから決めてたことだから」


 日向は心から納得していることを表すように、満面の笑みを浮かべた。


「そっか……」

「今夜お母さんと、きちんと話をするよ」

「うん、そうだな。わかったよ」


 そんな会話を交わした後、日向は今度は笑顔で何度も手を振りながら帰っていった。



 ホントに日向はそれでいいのだろうか、という気持ちはまだどこかに残ってはいる。

 けれども日向の本当に嬉しそうな笑顔を見ていると、これでいいのかもなと思えた。

祐也と日向。ようやくここまで来ることができました。

ようやく二人の想いが交わりました。

へたれの祐也が、読者の皆様をやきもきさせてしまって申し訳ありません。


──だがしかし。

物語はここでハッピーエンドになるわけではありません。

まだ何か、ひと波乱ありそうです。

引き続きお楽しみいただければ幸いです(^^)

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― 新着の感想 ―
[気になる点] ひと波乱かぁ... 真ヒロイン登場とか?両親とか?
[一言] 甘いシーンをふんだんに書いて下さい。ドキドキが止まらない方が良いかも。
[良い点] いい加減、裕也のヘタレっぷりにいらいらし始めてたけど収まるとこに収まったとこ [一言] 裕也は今後ちゃんと日向と向き合って、今みたいに避けたりせず寂しい思いをさせないで逃がさないよう頑張っ…
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