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第二十一話「変化と不思議」

 右足を無くしてもなをも倒れることなくドールは後ろに後退していった。

 

「いける!」


 ロイドは後退していくドールを追っていく。

 次の瞬間、ドールは急激に身体を前のめりにさせながらロイドに飛び込み、右腕を口の無かった筈の顔で引き千切った。


「ぐっ!!!……なんだあれ……」


 ロイドの見たその光景は今まで闘ってきたドールとは全て違っていた。

 顔には大きな口だけがあり、ロイドから千切った右腕をグシャリと噛み砕きながら飲み込んでいく。

 全てを飲み込んだドールは急激に身体を捩らせた後、先程ロイドが切った右足から人間同様の肌色の足が生えてきていた。


「おいおい、そりゃないだろ……」


 痛みなど気にしてられない程にロイドは今の状況の最悪さを痛感していた。


「キイイイイイイイイイイ!」


「うるさっ!ってこっちくんな!」


 ドールは右足が完全に生えた後、金切声の様なものを口から発しながらロイドに近づいていく。

 短剣を持った左手で片方の耳を塞ぎながらドールに背を向けて逃げていくロイドだったが先程よりも遥かに足が速くなっているドールに追い付かれ、右足を掴まれてしまう。


「ははは……どうも……」


 足を引っ張られ宙ぶらりん状態になってしまったロイドは何となくそう言ったが相手は


「キイイイイイイ!」


 変わらず五月蠅いままだった。

 視線を顔から足に移すと先程突然生えてきた肌色の足が目に飛び込んできた。


「人間の足……だよな?」


 斬られて無くなっていた太ももの下程のラインからパッチワークの様に肌色の足が付けられている、そんな感じのものだ。

 と、観察するのも大事なのだが今にもロイドの掴まれた足はドールによって食われかけていた。


「おま!、涎垂らしてんじゃねえ!」


 ベチャリと下に落ちてきた涎が視界に入り、自身が現在進行形でピンチである事に気が付く。

 振り子の様に後ろから前に勢いよく揺らしながら身体を上げ、左手に持っている短剣でロイドの足を掴んでいる右手を腕ごと切り裂いた。


「痛ッ!」


 ロイドの身体は切り裂いた腕ごと地面に叩きつけられる様にして落ちた。

 

「キ……」


 金切り声が止んだ。だがそれは一瞬のもので瞬きをした時には先程よりも高い声がドールの歪んだ口から放たれていた。


「何なんだよ一体!」


 身体を起こしてすぐさまその場を後にしてドールに視線をやるとまたも先程同様の現象が起きた。

 ブクブクと膨れ上がりながらドールの無くなったはずの左腕が戻っていく。

 生え終わった左腕は右足同様に肌色で、筋肉質なジャックの腕並みに大きく、その身体からは想像もつかないような腕が不格好に縫い合わせたようにして生えていた。


「冗談もほどほどにしとけよ……」


 継ぎ接ぎに生えていくその光景を二回も見せられたら信じるしかない、このドール、”斬られる度に再生し、強くなる”と。

 今頃になってロイドは無くなった右腕の痛みを自覚し冷や汗を垂らしている。


「勝てないのか……」


 脳内に駆け巡る作戦の数々が悉くとして消え去っていく、斬れば斬るほど強くなる奴に何をやっても無意味であり、最初の時よりも死ぬ時に痛みが増すだけなんじゃないのだろうか。

 ドールの背後に機械が置いてあり、終了させるのも無理な状況。


「キイイイイイイ」


 ドールの甲高い声が死を知らせるものであると思わせるほどに思考は停止し、近づいてくるドールに殺されるのをただ茫然と待っている状態だった。


「そうだこれはあくまでも架空だ。負けたって構わない」


 勝てないと分かった相手に割く時間があるのなら特訓に時間を費やすために潔く殺されよう。

 目を瞑りドールに殺されるのを待つロイド。


                ・・・


「避けろロイド!」


 どこからか聞こえた声にロイドが目を開けると前方には大きな口が全身を丸呑みしようとこれでもかと開いた口があった。


「くッ!」

 

 ガシッ!と口が閉まるギリギリの処でロイドは横に跳び、無くなった右腕から倒れるようにして避けた。

 痛みで声が漏れるもロイドは口の正体を見る為に視線を先程の場所に向けてみるとそこには原型を留められなくなっていたドールが涎をダラダラと滝の様に絶え間なく垂らしながらこちらを見ていた。四つん這いに盛り上がった筋肉、背中からは数本肌色の腕が出ていた。


「一体これは……」


 目を瞑った一瞬でドールがここまで変化していた事に唖然として硬直したロイド。

 その横にカツッカツッと靴が鳴る音と共に誰かが立った。


「外れか……大丈夫かロイド、久しぶりだな」


 横に視線を向けてみるとそこには三ヵ月前、何処かに行ってしまったアリスが左手を差し出しながら立っていた。


「なんで此処に……」


「簡単な事だよ、俺の仕事が早く片付いたから早めに帰って来ただけさ、それにしてもお前、何でこんなのやってんだよ、教えたことないだろこの機について」


「いや、それは……クイーンやジャックが使っていたから見様見真似にやってたらこんなのが出て来たんだ」


「ふ~~ん、そうか、それよりも疲れたんだけど」


 アリスは差し出した手をロイドが一向に掴まないのでそう言ってヒョイと指先を曲げて掴めと合図してきていた。


「あ、ごめん……ありがとう」


 アリスの手を掴み、身体を起こしたロイドはアリスを改めて見る。

 白を基調とし、赤のラインがは入ったドレスを身にまとっていたアリスの姿はさながら一国の王女の様だった。


「何をジロジロ見ている、来るぞ」


「え、あ、その、うん……」


 アリスに言われて気が付いたロイドは急激に自分を殴りたくなったがそれよりも先にやる事があった。


「彼奴を倒す」


 アリスが意気込んでそう言っている傍らでふとした疑問を聞いてみた。


「あのドールに殺されればこれは終了するんじゃないのか、それか機械を止めれ」


「無理だ。これはお前が以前にやっていたであろう奴らと違う、此奴を倒さなきゃ後が面倒だ。それにお前の腕も治らないぞ」


 割り込むようにしてロイドの問いに否定するアリス。


「なんだよそれ……」


「まあ大丈夫だ。此奴は俺が倒すからお前はそこらで立ってろ、絶対に彼奴に食われるなよ、彼奴に食われたらお前死ぬぞ、この結界内外関わらず」


「え……」


 アリスの言葉にロイドは冷汗が止まらなかった。もしあの状況でアリスが声を上げなきゃ今頃パックリ、ポックリ、チーンな状況だったと思うだけでも身震いする。


「キイイイイイイ!」


 アリスが一歩ずつ歩いて行くと同時にドールが先程よりも高く、耳を通して身体に直接震わせる様な声が響いてきた。


「黙れ」


 アリスのその声と共にドールの声が急激にプツリと断線した様に消え去った。よく見てみるとドールの喉に何故か斬られた後があり、そこからブシャと腐った血液の様な者がダラダラと傷口から出てきていた。


「不良品が、手こずらせるな」


 カツッ!とアリスの履いているヒールが地面に当たる音と同時にドールの右足が飛び、また一歩歩くと左足が飛んでいった。


「どうなってるんだ……」


 アリスはただ歩いているだけの筈なのにどうしてこんなにもドールは斬られていくのだろうか……


「さて、戦闘といこうか」


 アリスがドールの前に到着し、そう言うが決着は既に決まっていた。

 アリスの眼の前にはぐちゃぐちゃに切り刻まれたドールの死体だけが映っていた。


「つまらん」


 不服そうにそう言うとアリスはドールの死骸を踏み越えて機械の元へ行き、結界を解除した。

 結界が解除されていきロイドの右腕が完全に治り、ドールの死骸はどこかへ消えてしまい、視界には草原とアリスだけが映っていた。

 

「どうしたロイド、阿呆な顔をしてるぞ」


 クスリと笑いながら近づいてくるアリスにロイドは真剣な表情で聞いた。


「さっきのは一体何なんだ……」


「さっきのか、なあに、珍しいものでもないだろう、単に斬っただけだ」


 単に斬っただけ……一度もドールに触れずにただ近づいて行っただけなのに切り刻まれていくのが珍しくもない?アリスは一体何者なんだ。


「何だよそんな怖い顔して、ほら行くぞロイド、決戦前に仕事がまだ残っているんでな、手伝ってくれ」


 アリスはそう言いながらロイドの腕をパンと軽く叩くとそのまま階段に向かって行った。


「あ、あぁ」


 今はアリスに従うだけしか出来なかった。頭の中で渦巻くアリスに関する全てのものがパンクして今は何も考えられなかった。


「なあロイド、この三ヵ月間どうだった?」


 階段を下りる途中でアリスが世間話程度にそう聞いてきた。


「まあ良かったんじゃないかな、最後の方はクイーンといざこざがあったけど何気に楽しかったよ」


 本心からの言葉をロイドが言うとアリスは少し間を置いて


「ふ~~ん、それは良かった。後で三人には俺からお礼をしてやらないとな」


「なんでアリスがするのさ」


「まあ上司だし?」


 なんて他愛のない言葉を交わしているうちにロイドとアリスは地下に着いた。


「そうだロイド、装備置いて来いよ、どうせ当日まで地下から出ないと思うし」


「あ?そうか、あの機械はこりごりだしそれもそうだな、じゃあ置いて来るよ」


 これ以上アリスに迷惑も掛けられないのでロイドはアリスの言われた通り置いてくることにした。


「置いたら俺の部屋に来い、場所はっと、マップに送っといたから後で見て来い」


 ピコんと上着の内ポケットに入れていたマップから何か聞こえたのを確認し、見てみると赤いピンが刺さっていた。


「ありがとう、それじゃあまた後で」


 ロイドはそう言うとアリスと別れて自室に戻っていった。


                 ❃


「クイーンか」


「あなたは・・・・・・」


「ロイドに告げ口するんじゃねえよ、彼奴がいなくなったらどうなるか分かるだろ?」


「は、はい」


「今度変な真似をしたら彼奴らと同じ目に合うからな」


「……は、はい……」


「ならよし、それじゃあね」


「……」


                ❃


 ロイドは装備を全て自室に置き、服を正してからアリスの居る自室に向かって歩いて行った。


「アリスの部屋って何があるんだろうか?」


 ロイドはそんな他愛もない事を考えながらマップに刺さっている赤いピンを見ながらアリスの自室を目指しているといつの間にか目的の部屋の前に着いていた。

4200pvありがとうございます。

以前の投稿から五日……

気を取り直して行きましょう!一週間に二本投稿は出来ている(はず)だから……

それでは。

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