ソルティブレイク
リフトが止まった。どうやら地下の最深部へと到着したらしい。
狭い通路を抜けると、広い空間に出た。壁と床は舗装されておらず、岩石が剥き出しになっていた。まだここは施設の中ではないようだ。
また少し歩くと、とてつもなく巨大なドーム型の建造物が見えてきた。あの施設に間違いない。
近づくたびに大きくなっていくその施設に、胸が高まっていき、二人ともだんだんと歩くスピードが速くなっていく。
気のせいだろうか。施設の前に人間らしき影が見える。しかし、近づいていくうちに明らかになった。人間だ。
その人間は言葉を発した。
「よぉ、待ってたぜ。」
急に、舞衣の歩く足が止まり、みるみると顔色が青くなっていった。
「そんな・・・まさか・・・!!!」
「マジで大臣ぶっ殺してきちまうなんてなぁ・・・。俺ぁそんな娘に育てたつもりはないぜ?」
ということは、彼があの千人に選ばれ、かつて一人で軍隊を壊滅させた舞衣の父だというのか。
「お前が逃げてからこっちは大変だったんだからなぁ?なんとか政府のお偉いさんがた説得して、ここの管理をするってことでかたはついたがな」
舞衣は恐怖で倒れ込む。
「お前のやりそうなこたぁわかってたよ。「愛」だかなんだかでアダムとイヴごっこでもしにきたんだろ?んなわがままでここを通すわけには行かねえよ。まあしかし、大臣何人か殺したんじゃあどっちにしろ俺もお前も死刑だろうな」
男は刀を持って近づいてきた。
「お前とやんのも久しぶりだよなあ・・・。少しは強くなったんだろうな?」
舞衣は恐怖に怯え、何も言葉を発することができないでいたため、俺が代わりに何か言わなければならなかった。
「だ、だったら、一緒に施設の中に入って、世界を滅ぼしましょうよ!そうしないと、あなたも死んでしまうのですよ!!」
「ああ、俺は別に死んでも構わないぜ。十分に楽しんだからな。それに、今の世界だってそこそこ好きだ。ところで、お前舞衣の彼氏だろ?強いのか?」
だめだ、この男を丸め込むことはできない。だが、どうすれば・・・。舞衣の様子から察するに、この男は舞衣よりもはるかに強い。無論、俺では手も足も出ないだろう。
舞衣が立ち上がった。
「私が彼を止めるわ、その隙に施設に入って。彼もあなたが施設に入るのを止めるために隙ができるはずだから、私にもチャンスがある」
そういって、舞衣は俺に施設の鍵を渡し、男へと立ち向かって行った。
舞衣のため隙を作るために、施設に入る。今の無力な俺にできることはこれしかない。
俺と舞衣は二手に分かれ、走った。
横目では舞衣と男が激しい戦闘を繰り広げている。しかし、男はこちらに振り向こうともしない。結局、施設のドアの鍵を開け、すんなりと中に入ることができてしまった。
中は非常に広く、千人どころか一万人でも入るほどである。
そう思っていると、戦いの音が鳴り止んだ。
ドアを開けるのが舞衣でなかったら終わりだ。
ドアが開く。
舞衣ではなかった。
「よぉ、死んじまったぜ。舞衣、あんま強くなってなかったからがっかりしたぜ・・・・」
なんだこれは。
「んじゃ、つぎはてめぇだな」
何かが溢れそうだ。
「なんか言い残すことはねえか?」
だめだ、出る。
「ある」
「ほう、言ってみな」
「てめえを殺す」
全身から力が漲っていた。ありえないほどのパワーが、どこからか湧いてきている。
「・・・ほう、これが、か」
「うおおおおおおおおおおおおおおおおおおお」
地面がめり込むほどの蹴りで男に向かい、渾身の力を込めた拳を繰り出した。それは、男の体を貫通している。
「ぐっ・・・へへ、いいもんみせてもらったぜ。これが「愛」の力ってやつなんだな・・・。俺にも成し得なかった技が、まさかお前にあったとはなぁ。ま、せいぜいあいつと仲良くして、素晴らしい世界ってやつを作りな・・・」
そういって、男はぐったりと地面へ突っ伏した。
それはいい、舞衣を探しに行かなくては。俺は急いでドアを開ける。少し離れた場所に、舞衣は倒れていた。
「舞衣!!!!」
俺は力の限り叫んだ。すると、舞衣はゆっくりと起き上がった。まだ生きている。
「峰打ちよ・・・。父は、愛の力を探していた。私が死んだことにしてあなたに会えば、それを見ることができると思ったのよ」
俺は舞衣の手を取って、再び施設の中へと入る。
広い施設の真ん中に近づいていくと、そこに赤いボタンがある。
「これを押せば、全てが終わるのね。私とあなたで、素晴らしい世界を作りましょう」
「ああ、きっとうまくいく」
俺と舞は手を合わせ、ゆっくりとボタンを押す。
そのとき、俺たちはなぜか二人とも涙を流していた。
新たなる世界が続いたとして、俺はこの出来事をこう伝えよう。
ソルティブレイク(涙の破壊)と。




