彼女の想い
その巨大なリフトは、エスカレーターよりもゆっくりと、轟音を立てながら、暗い暗い地下深くへと、俺と舞衣ただ二人だけを乗せ沈んでいく。
俺は意を決して彼女への疑念を晴らすことにした。殺されるのであればそれでいい。どのみち、近い将来で死ぬ運命だったのだ。
「なあ、舞衣。あの黒刀の少女というのは、本当に君なのか?だとして、政府高官やその家族まで殺したと言うのは本当なのか?」
しばらくの沈黙の後、彼女は前を向いたまま、淡々と応答した。
「ええ、そうよ。私がやったの。地下防疫施設の存在は知っていても、その明確な場所までは知らされていなかった。その情報は最重要国家機密として、国の上層部にしか伝達されていなかったから。だから、殺す必要があった。家族を脅しに使ったら簡単に要求を呑んでくれたわ。施設の場所から、その周辺の地図、それに鍵まで。黙っててごめんなさい。・・・でも」
そういうと、舞衣は急に振り向いた。その瞳には、涙が浮かんでいる。
「でも、それを言ったらあなたに嫌われちゃうと思って、そう思ったら怖くて・・・。あなたに嫌われたら私、本当にもう死んじゃうと思ってたから、何も言えなくて、暗くて、怖くて・・・・・・」
次第に彼女の嗚咽が激しくなり、体を震わせながら、それでも懸命に声を出しているように見えた。
「あんなに人をいっぱい殺しちゃうの見て、私のことどう思った?・・・やっぱり、私のこと、嫌い?」
彼女もまた、俺と同じような疑念を持ち合わせていた一人の人間だった。俺は彼女の正直な気持ちを知り、今ままで彼女に感じていた感情が全てきれいに消え去っていくのがわかった。
俺は震える彼女の体にそっと近寄り、その痩せた肩を抱き寄せる。俺も正直な気持ちをここで全て吐き出そう。
「怖いって、初めは思った。でも、君の正直な気持ちを聞いて、なんとなく今は違うって分かるんだ。君が人をたくさん殺したのも、しょうがないことだと思う。それに、もしこの世界が全て間違っているんだとしたら、この世界に生まれ育った俺が感じること自体、間違っていることなのかもしれないだろう?だから、君がしたことの全てを肯定も否定もできない。ただ一つ言えることがあるとすれば、君が美しいということだけなんだ。」
これから俺たちがやることが、本当に正しいことなのか、それは誰にもわからない。ただ、俺は彼女のためであれば、それがどんなことだろうとやってやろうと思った。
だから、一緒に世界を滅ぼそう。




