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123.博物館へ

 三人で喫茶店に入り、テラス席で落ち着きながら話すことになった。

 まだ朝の早い時間――シエラは『遊びに行く』のは好きだが、具体的にどこに行きたいという案を持っていない。

 故に、いつものようにアルナとローリィの会話を、シエラはジュースを飲みながら聞いていた。


「せっかくならあまり行かないところがいいわね。博物館とかどうかしら?」

「……シエラが何か物を壊さないかが心配だよ」

「そ、それは……大丈夫よね、シエラ?」

「博物館ってどんなところ?」

「お前……そんなことも知らないのか」

「うん」


 ローリィの呆れるような言葉に、シエラはこくりと頷いた。

 もちろん言葉自体を聞いたことがないわけではない――だが、興味を持っていない段階では、シエラの記憶に残ることはなかった。


「なんて説明すればいいのかしら。価値のある物を展示したりするところ? だから、貴重な物が多いのよ」

「ふぅん」

「あまり興味なさそうね……」

「こいつはいつもこんな感じだよ。行きたいところもないんだろう?」

「公園とか?」

「そんなところいつでも行けるだろ!」

「シエラが行きたいのなら、公園にも行きましょう。まだ早い時間なんだから」

「……まあ、行くのは構わないけれど」

「それじゃあ、最初は博物館に行くの?」

「そうね。シエラも何か興味が持てそうなところがいいのだけれど……」

「なら、カウンテラ博物館はどうかな? ここから少し距離はあるけど、古い武器なども取り扱っている場所だよ。シエラ、お前も武器は好きだろ?」

「うん、ローリィはよく分かってる」


 シエラが頷いて答えると、くすりとアルナが笑う。

 シエラとローリィは首をかしげて、アルナの方を見た。


「どうしたの?」

「いえ、ローリィもシエラのこと考えてくれているんだなって」

「なっ、べ、別に僕はこいつのことなんか考えてないよっ! ただ、アルナちゃんがシエラと楽しめる場所を――ああ、もうっ! とにかく、行くところが決まったのなら、早くこれ飲んで行こう」


 ローリィは少し怒ったような表情を見せながら、頼んだ飲み物を一気に飲み干す。

 そんな彼女の姿を見て、シエラはポツリと呟くように言う。


「なんでそんなに恥ずかしがってるの?」

「ぶふっ! ごほっ、は、恥ずかしがってもいないっ!」

「ローリィ、否定したってシエラには分かるから無理よ」

「くっ、面倒な奴め……」


 ローリィは視線を逸らしながら、顔をしかめて言う。

 感情を読み取るのはシエラの得意分野だ――ローリィの表情が怒っていても、それが恥ずかしがっているものであるということは、シエラには分かった。

 もっとも、シエラにそれが分かったところで気の利いたことは言えないのだが。


「アルナ、早く行こう」

「そんなに急がなくても大丈夫よ。……というか、二人とも本当に飲むのが早いわね」


 行く先が決まるや否や、ローリィは勢いで飲み干していたが、シエラもそれに合わせてすぐにジュースの入ったコップを空にしていた。

 アルナはシエラの視線を受けながらも、特段急ぐことなく飲み終えて、三人で喫茶店を出る。


「意外と早く行先が決まったわね」

「僕とアルナちゃんの意見が合えば、それでおしまいみたいなところはあったからね」


 アルナとローリィの言う通り、シエラは基本的に『遊びに行く』という体ならどこに行っても構わないと思っている。それは遊びに限らず、アルナが行きたいという場所なら、どこでも構わないのだ。

 それが博物館でも、公園でも、戦場だったとしても――シエラは拒絶することはない。

 不意に、ローリィがシエラの方に視線を送ると、


「シエラ、博物館では妙なことはするなよ」

「……? 妙なことって?」

「それは……要するに、物に触れたりするなってことだ」

「ダメなの?」

「そうね。さっきも言った通り、貴重な物を多く取り扱っているから……たぶん、そもそも触れるような扱い方はしていないと思うけれど」

「分かった。触らない」


 シエラは素直に頷く。そういうルールであるのなら従うだけだ。


「でも、シエラはいい子だから大丈夫よ」

「いい子だからって……アルナちゃんはシエラに甘すぎるよ」

「そ、そんなことないわよ。ねえ、シエラ?」

「アルナは厳しい」

「き、厳しくはしてないわよ? ……してないわよね?」

「そんなに慌てなくても、してないと思うよ。シエラの基準が低いだけだって」


 動揺したアルナを落ち着かせるようにローリィが言う。

 シエラから見て厳しいというのは、『お菓子を食べたい時に食べさせてくれない』という点など、とても細かい部分であるのだが――シエラにとっては、それが厳しいと思うところであった。


「アルナは優しいよ?」


 アルナを動揺させた本人からその言葉が出たためか、次の瞬間にはアルナとローリィは大きくため息を吐いていた。

ご報告となりますが、この度本作がコミックヴァルキリー様にてコミカライズの連載をさせていただくことになりました。

一月末頃スタートを予定しておりますので、これを機会にコミカライズ版も楽しんでいただけますと嬉しいです!

よろしくお願い致します!

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タイトル変更となりまして、書籍版1巻が7月に発売です! 宜しくお願い致します!
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