121.シエラ、初めての夏休み
数日後――学園の夏季休暇が始まった。
休みが始まると、多くの学生は帰省のために寮からいなくなる。
特に、遠くからやってきている者ならば、しばらくは帰ってこないだろう。
シエラはというと、アルナがカルトール家に戻る時についていく予定はあるが、基本的に休みであっても寮で暮らすくらいしかなかった。
朝、目覚めてからベッドの上で脱力する。下着姿のまま、ただ開けた窓から外を眺めていた。
特別、誰かと約束をしているわけでもない。
予定がなければ、シエラは動くことはなかった。もちろん、思い立てば剣を握って自主的に稽古をすることはある。
今は、何かをする気分にはならなかった。
ただ、もう季節的には暑い時期であるが、今日は風が気持ちいい。
元々、暑さに対して弱いわけではないが、一日中ここにいても問題ないくらいだった。そんな時、コンコンッと部屋をノックする音が響く。
シエラは勢いをつけて、ベッドから起き上がった。
「アルナだ」
ノックの時点で、誰がここに来たのか、シエラには気配で分かった。すぐに、アルナの声が耳に届く。
「シエラー、いる?」
「うん、いるよ」
ガチャリと扉を開けると、そこには私服のアルナがいた。
アルナはシエラの姿を見るやいなや、すぐに焦ったように部屋の中へと入る。
「また下着姿のまま出て……いつも注意しているでしょう?」
「アルナだから平気だよ」
「私だから平気なんてことはないわよっ! 全く……着替えはここね」
普段からだらしのない生活を送るシエラの面倒は、アルナが見ることが日課になっている。
着替えの場所くらい、当然のように把握していた。
テキパキとシエラの服を準備していく。
「アルナ、どうしたの?」
「どうしてって――あ、まだなにをするか話していなかったわね。せっかくの初日だもの。今日はローリィも誘ってどこかに行かない?」
「! うん」
シエラはアルナの誘いにすぐ頷いた。
遊びに行くことに関して、シエラの行動は早い。
さっさとアルナの手を掴むと、
「早速行こう」
ぐいっと彼女の手を引く。そして、当然のごとく抵抗された。
「ちょ、まだ下着! 着替えてからよ!」
「そうなの?」
「当たり前でしょ! ほら、出かけたいなら早く着替えて」
アルナに促され、シエラは頷いて着替えを始める。
夏休み初日だが、いきなり遊びに出かけることになるとは、シエラも考えてもいないことであった。
(今日も休みで、明日も休み。夏休みってすごい)
シエラはそんな子供のような感想を頭の中で巡らせた。
もちろん、夏休みには帰省や、その間にも課題は出されている。
夏休みとはいえ、やることは色々とあるのだが――それを抜きにしても、シエラにとっては新鮮なものだった。
着替えを終えると、シエラはアルナと共にローリィの部屋へと向かう。
「ローリィ、いる?」
ノックをするでもなく、シエラは扉に手を掛けた。
部屋の鍵はかかっておらず、扉が開いてしまう。
「ちょ、シエラ! ノックくらいしなさい!」
「ん、シエラと……アルナちゃん?」
そこには、丁度着替えようとしている下着姿のローリィがいた。
「ローリィ、遊びに行こう」
「遊びに行くって……いや、その前に勝手に扉を開けるな! まだ着替えの途中だから……!」
「シエラ、一先ず扉を閉めましょう。ローリィ、外で待ってるから!」
「う、うん」
パタンと扉を閉める。
すると、コツンとアルナがシエラの頭を小突いた。
「アルナ?」
「勝手に扉を開けるのはダメよ。ああいうこともあるんだから」
「ああいうことって、なに?」
「それは……着替えの途中だったりするでしょう?」
「ダメなの?」
「ダメよ」
「分かった」
アルナに言われて、シエラは納得するように頷く。
数日経てば、また同じことをする可能性は十分にあるが、今はアルナに言われて覚えようと努力はするシエラであった。





