13話 ペンションに帰るよ
「「 アワワワワワワワワ 」」
右肩にアンネを、左肩にイモートを担いでいるせいで、何度となく俺の視界に二人の足が入ってくる。
なぜ2人を荷物のように担いでいるかといえば理由は単純。早く帰りたいからだ。
2人の歩くペースに合わせて歩いたとしたら2日くらいかかるかもしれないが、俺が担いで走れば、あっという間に宿泊する事になったペンションに帰る事が出来る。
しかし、アンネとイモートの胸が俺の背中に当たってはポヨンポヨンと弾む。その感触が心地良い。
なぜ細身のはずのアンネの胸まで弾むほど豊満になっているかというと、アンネの胸と服の間には姉妹がペットにしていたスライムが収まっているのだ。
経緯を振りかえろう――
「じゃあ、とりあえずアリエナイに帰ろうかなって思うんだけど、二人も一緒にどう? 一応従者らしいしさ。」
「ご主人様の言うとおりにするッス。」
「そうでガス……ただ一つだけお願いがあるでガス」
イモートは少しだけ申し訳なさそうに上目使いの目を俺に向ける。
なにこれカワイイ。
ニコリとご主人様スマイルをしながら「言ってみ」と優しく告げる。
なぜかビクーンとしながらも、ペットがいる事を教えてくれたイモート。
なぜビクーンとする?
「すらりーん!」
イモートが呼ぶとプニプニとスライムがやってきた。
久しぶりにスライムを見たので鑑定してみる。
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名前:すらりん
種族:スライム
職業:ペット(半野良)
レベル:2
HP:15/15
MP:2/2
物攻:2
物防:2
魔攻:2
魔防:2
速度:2
幸運:2
装備:なし
スキル:一途(軽)
ステータス:
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『一途(軽)ってどっちなの?』
そんな事を思いつつも、まぁ飼っているペットと引き離すのは心苦しいし、なにより上目使いでお願いする妹力に逆らうことは出来ないので連れて行くことを許可した。
しかし許可したは良いけれど、俺が二人を抱えた場合すらりんを持てないのでどうしよう。と考えていると、空気を読んだのか、すらりんはアンネの胸に潜り込んで収まったのだ。
羨ましい。なんて奥歯を噛みしめてなどいない。
『まぁいいか』と微笑んで、ちゃんと連れていく事にした。
ダッシュの速度は相変わらずの超速で、あっという間にアリエナイに到着する。
さて、着いたは良いが途中で襲われていた商人も余裕でぶっちぎって追い越してしまったので苦労人のオッサンには、まだ報告できない。
今報告しても時間的に疑いの目を向けられるだけだろう。そして苦労人のオッサンは、きっと勇者が『因縁つけてきた』と胃痛をプラスする事になりかねない。そんな事はあの苦労人にできはしない。
きっと2~3日後には襲われてたやつらが報告してくれるだろうし、それに合わせて報告するのが良いはず。
それまでは宿泊先で、まったりしてればいい。
というかペンションの宿泊って、急に人数増えて大丈夫なんだろうか?
「……ご主人様。そろそろ下ろして欲しいッス。」
ボンヤリと立ち止まって考えていると、アンネが声をかけてきた。
「あぁ、ごめん。」
お辞儀をするような体勢をとり、2人を足から地面に下ろす。もちろんどっちのお尻も軽く触ったが、ワザとではない。バランスを崩して転ばないようにするための補助だ。腰を押さえるだろ普通。だから誤解する事もないだろう。
ちょっとそんな事を心配したけれど、二人は酔ったのかふらついていて、まったく気にしていないようだった。良かった。
やがてアンネが落ち着きを取りものどしたのか姿勢を正す。
長身細身の美人なのにバインバインのアンネ。
えらいこっちゃ!
これはえらいこっちゃ!
こんなん街に入ったら超注目されるわ。アカン。
直感でそんな事を感じ取った。
だが『もし絡まれたらかっこいいとこ見せれるやん』と言う考えも生まれたので、特段何も言うことなく、このまま宿泊先に向かう事にした。
「おいおい、いい女じゃあねぇか。」
途中やっぱり絡まれた。
うへへご主人様のいいとこ――
「ようねーちゃん。そんな男とじゃなく俺たぴぎゃ」
って思ったのにアンネ。すぐに背負い投げで壁までそいつらぶん投げてたよ。
何この娘こわい。
あ、そう言えば元々勇者だったねこの娘。強いんだった。
騒ぎになりそうだったので、足早にぶん投げた現場は離れた。それ以外のハプニングは無くペンションに着いた。
相変わらず不機嫌そうな受付のオッサンに人数が増える事を相談してみると、元々4人部屋なので、2万エン゛ッの追加だけで食事を足してくれる事になった。なにこの良心的な価格。喜んで支払う。
「ご主人様は勇者なのに普通に払うんッスね」
俺が喜んで支払っているのを見てアンネが心底不思議そうな顔をして呟いた。
お金を受け取ったオッサンが変な顔をし始めたので「変な事いわなーい! 俺普通に払うしー!」と咄嗟に茶化して、さっさと部屋に連れていく。
そう言えば勇者ってそういうヤツだったよね。うん。
そんな事を思いながら溜め息を一つついた。
「これはご主人様の……コレッスか?」
連れ込まれた部屋を見回していたアンネが寝息をたてて眠っているニンニンを覗き込みながら、こちらに向き、そして小指を立てていた。
あ。どうしよう。
ニンニンの事を忘れてた。




