1-9:まほうしょうじょになりたい
── 冒険者。
(え、クリストファー・コロンブスとかヴァスコ・ダ・ガマみたいな人のこと?
……なんてね、そういう意味じゃないことくらいあたしもわかる。
たぶんこっちの言葉覚えた時に前世記憶との写像つける工程でちょくちょく誤差が出てる気がするのよね……)
探りを入れてみれば案の定、ギルドなるものが存在すると分かったので、早速行こうとした。
……ダメだった。
曰く、荒くれていて、女の子が行くにはふさわしくないからだ、と。
まあ、言いたいことは分かる。
口調からしても、過保護というよりはそういうもんかなと美桜は結論づけた。
── いいもん。いつかつよくなって一人で行くんだ。
それと、家庭教師は正式に卒業と相成った。
(最近ずっと挙動不審……というかお腹痛そうだったのよね。
たまにうぅ……って呻いてたし。早くよくなられるといいなあ。
こんど胃ぐすr……あ、
あれ飲みたい。
正山小種。割とここの家のご飯はとりたてて文句ないくらいには美味しいけど、やっぱり嗜好飲料がねぇ。
まあ、あたしも前世の最後5年くらいはほとんどそんなもん飲めなかったから忘れてたけど、思い出すと飲みたくなるのよねえ、ジュースとかお茶とかコーヒーとか。
……何の話だっけ。
ああ、そうそう、
松の薫香つきの中国茶。……じゃなくて、松クレオソートのほうね。胃とか腸に効くはずなんだけど。
ただ、"じゃあ儲け話だ!" とは言えるわけなくて、
もう既に出回ってるなら事業としてザコもいいとこだし、
例えば魔法で治癒し放題だったら薬自体意味ない……
……それは無いか。アイツは薬飲んでたし、たぶん治癒魔法はそんなに一般的じゃなさそう。
けど、薬機法くらいはあるわよね。認可とか……。
ファンタジーなら省略されても、実際に転移してみて細かいとこで違うとこは多々あるし、結局は物事を知らないとなんにも始まらないのよね。
はあ、知識……。
んー、やめやめ!)
思考を打ち切って窓の外を眺める。
日が少し登り始めていて、朝ごはんの時間も近い。階下に降りようかな。
◆ ◇ ◆
「あたらしい先生……?」
微妙な味のポリッジをもそもそと口に運んでいると、父上がそんなことを言い出した。
「そうだ。バーソロミューはあくまで騎士のうちの一人で、実のところ教えることの専門家では無かったからね。
今日の昼過ぎに初顔合わせの段取りだから、その人から色々教わりなさい」
その声は温かく、しかし、
「ただし、修道院からいらっしゃる。位階は修道司祭。
くれぐれも無礼と粗相のないように。
……家名に拘わる、と言えば伝わるだろうね」
釘も忘れない。
あ、なるほど。
「よくわかりましたわ、お父様」
「む。……まあ、問題ないか」
そして、父はちらりと妻の顔を見る。
母もまた鷹揚に頷いた。
……ポリッジ、あんまおいしくない。
そう、『朝食とは暴食の罪である』とかいうこっちの習慣のせいで朝はわざと貧相なものしか出てこない。
これはもう仕方ないって諦めてるけど。もぐもぐ。
◆ ◇ ◆
二つ目の応接室 ── つまり、歓待というより実務的に人をお迎えする時に使う部屋にて、初めましての時間だ。
「初めまして、ゴルトン伯爵令嬢さん ──」
呼び方でしょ?わかってるわかってる。
「はじめまして、修道士さま、セラフィーナとどうぞお呼びくださいまし」
そして軽く首を傾げる程度にお辞儀。コーツィはこのシチュエーションだとちょっとやりすぎなので、これくらいにしておく。
それを受け、その若き修道士は頭を軽く下げつつ、優しい顔をニコニコと向けて名乗り返してくれる。
「丁寧にありがとう、セラフィーナ嬢。私はジョシュア。
ハンクスという姓もあるけど、気軽に話せる方がいいよね。好きなように……」
「では、ジョシュさま、でよろしくて?
あ、遠慮なくお掛けになってくださいまし」
……で合ってるはず。こういうのめんどいよもう。
合っていたようだった。ニコニコしたまま、椅子を引き、コートを背もたれに掛けつつ、彼は続ける。
「ありがとう。……失礼して。
私も少し崩して話そうかな。
……あ、呼び名もね。もちろん歓迎だよ。
君のお父様からは、神学から政治まで色々な勉強を、と頼まれているわけだけど、
── 何を知り、どうなりたいかな?」
そう、するりと聞かれたものだから、
美桜はつい滑らかに答えた。
「わたくし、魔法少女になりたいですっ♪」
「えっ」
魔法少女 ──
そんな単語は現地語にはない。
ないが、造語的に理解はできる。
ただ、それはそれとして、どういうこと?




