1-7:ひとりで歩けるもん
自由って素晴らしい。
「執事ィ!!おろして!!ちゃんとひとりで歩けるもん!!」
米俵のように肩に担がれる……正直、楽しい。
前の人生のときは常にガラス細工に触るような扱いしか受けてこなかったので、
こんな、こう、首根っこ掴まれて雑に捕獲されるってのも、正直嬉しくなってしまうものがある。
……まあ、暴れるけど。
HA☆NA☆SE !!
いいえ、信用はありませんので。
ぎゃーーー!おーろーせー!!
うるさいですお嬢様、はしたないです
こんな担ぎ方するからだろーが!!
ではお姫様だっこをご所望ですか?
それはなんかやだ!!!
……
…
「セバスチャン、ご苦労。」
伯爵の執務室で執事の肩からソファに降ろされた美桜は不貞腐れ、
相対した父は眉間の皺を右手で揉み解し、何から話したものか、と悩む。
……ので、先手必勝。
「お土産ですの、父上」
差し出したそれは、"お米様抱っこ" の最中に暇だったので、ひたすら布で磨き上げた一個である。
そう、リンゴは天然の蝋成分により、布で磨くと驚くほどに光る。apple polishingと言うくらいだ。
果たして、それを反射的に受け取ってしまったパパは、厳しい顔を維持しなければいけないのにできない、という珍妙な顔をしてしばらく表情筋と戦ったあと、
諦めたのか、少し締まりの無い顔になりかけ、
そして口を開く──
──前に美桜は追撃を仕掛ける。
「お疲れのところ少しでも元気になればと思って……。血圧や腸、抗酸化作用にもよい果物ですので
……あ痛ぁっ!!!」
頭の両側から激痛が襲ってきた。
いや、まあ大して痛くはないのだが、
「セラ貴方ねぇ……」
「げっ、母上!?」
「げ、じゃないでしょうが!」
ぐりぐりぐり。
あ、ちょっと気持ちいいかも。頭皮凝ってるわ。
「貴方、どれだけの……
『屋敷内の手空きの使用人ですと、
だいたい25人くらいでしょうか』
はぁ……。でしょう、分かってやってるあたり罪が、
『でもそれが彼らのお仕事なのでしょう』
……いいえ、それ以外の庶務も、
『でも、現に回っているならよいじゃありませんか』
どーのーくーちーが!!!」
いひゃい、いひゃいですぅ、かーさま、
おくちがもげひゃいまふぅ
この減らず口はいちど切り取って付けなおしたほうがいいかしら??
いーやーでーすぅー!!
あーーーー!!
◆ ◇ ◆
なんか、揉めてるよね。
うん。
……なんて他人事みたいに言うのもなんだけどさ。
「いーえ、可愛いセラは当分絶対に外に出しません!」
「いや……まあ、しかしセラの気持ちにも寄り添ってだな……」
「セバスチャン!!貴方もなんとか言ってやって頂戴!!」
「いえ……私はあくまでバトラーにございますれば……」
抜き足……差し足……。
「こら!!貴方の話をしているのよ!?」
あ、ばれた。
しょーがないか。
「あのですね、ええっと、執事ィ!」
「こらセラ。セバスチャンと呼ぶのだよ……」
「パパうるさい黙ってて。
いや、ね、外に出たいときに連れ出してくれるなら無理に突破しないわ。
でも……」
ここで、セラフィーナはちょっと意識的に目をくわっと見開く。
「閉じ込めるなら毎日 "全力で" 挑む!! "全力で" がんばる!!
だって、お外で遊びたいもん!!」
ぷしゅーーーっ。
全員の身体から魂的な何かが抜けるような音がした、気がした。
「まあ……」
「それが……」
「仕方ないわね……」
やったぜ。
美桜の勝利。
「じゃあえっと、執事ィ!さっそくまた買い物行くわよ!!」
いえ、今日はもう遅いので……。
じゃあえーっと、……どうしようかな、あっ、そうだ、ウチの厨房が見たいわね!
あの、今一番忙しい時間……。
べつに邪魔なんかしないわよ!
つまみ食いは……
するわけないでしょう!!誰だと思ってるのよ失礼ね!!!
……申し訳ありません、あっ、お待ち下さい、ちょっ、あ、
窓から屋根をショートカットするのは!きけn
ちょっとセバスチャン!ちゃんと監督なさい!?!?
申し訳ありません!!!!
……
…
◆ ◇ ◆
ゴソゴソ……ゴソゴソ……ゴソ
母上の居ぬ間に洗濯……じゃない、家探しでもしないとね!!
そんなことを不謹慎に考えながら、こっそり部屋に侵入する。
(あら。可愛い箱。絶対いいもん入ってるじゃん!!
可愛い娘として責任持って確認しなきゃ!!)
パカッ
豪華絢爛に宝石の埋め込まれたその箱は、鍵が掛かっているわけでもなく……というより、そもそも盗まれることを想定していない。
そして、ただただ絢爛なジュエリーボックスとして捕食者に抵抗なく中身を晒してしまう。
(んんんんんっ!!宝石!!
あーん、前世死ぬ前に一度は行きたかったのよね、ツーソン。
ほんとにさぁ、なんだったのよあのクソ体質はさぁ!!
はぁ、でもまぁ、カットは期待できないわね。
この時代じゃ、まだラウンドブリリアントなんて無いわよね、
……あるんかい!?
あるじゃん。
普通にあるじゃん、普通に現代人がイメージする宝石の形のやつ。
は?
はああああ???
え?じゃあこの世界には宝石研磨機があるってこと?
……なら旋盤あって然るべきじゃん。
やっぱ中世どころか近世も大嘘。近代に足半分以上突っ込んでる。ってこと。
もうあれね、あんまり時代背景とかも転生前知識からは当てにしないほうがいいわね……。
でもローズカットも綺麗だなぁ……。
カボションカットは地味だと思ってたけど、
でもこう並ぶと面白いかも。かわいい。大人っぽい。すき。
これ、ダイヤ?
……うん、ディスパージョンが明らかに大きい。クオーツじゃないわね。ダイヤでいいはず。
うーん、綺麗。。
亀裂や内包物は?
あ、てか、これだけ石の研磨できる技術があるってことはルーペあるくない?
どっかで売ってるのかしら。ウチでは今のところ見たこと無い。
市場とか漁ってみなきゃ。
ってか、望遠鏡もあるはず。ってことは大航海時代はもう入学済み??
ああーーーーもう調べること多すぎ!!!)
……と、ここまで考えてから、セラフィーナは声を張り上げる。
「執事ィ!!領内の工房見学したいから、どんな工房あるか後で全部列挙して持ってきて!
今は要らないけど、夜までにお願いね!」
そんな雑な振りに対し、どこからともなく返事が返ってきた。
「御意」
その反応に満足そうな顔をしてセラフィーナは頷く。
「あ、ちゃんと聞いてたのね、よしよし、帰っていいわよー」
そして、思考に戻る。
(あーん、ブラックライト欲しい……
蛍光特性分からないじゃない!
……で、内包物はと)
そう内心で独り言を垂れ流しながら指輪を上から覗き込んだとき、
……何かが聞こえた気がした。
【スキル:鑑定を取得しました】
あーあ。




