2話 白龍様の嫉妬は赤龍様を呼ぶ
目覚めると私室のベットだった。
「目が覚めたね。なかなか起きないから、こちらに連れて来ちゃった。」
(来ちゃったって。家族が驚く⋯⋯。)
ハッと気が付いた。
「家族に白龍様の事話したの?」
「突然ディアナを抱えて帰って来たから、驚かれたよ。でも、私の事も説明したし大丈夫じゃないかな?」
様子を見に父が来た。目覚めた私に駆け寄り
「目覚めたのか。良かった!どこか痛い所とかはないか?」
とても心配してくれた。
「お父様、心配かけてごめんなさい。
もう大丈夫よ。気絶しただけだから。」
そうか。
と、父は安堵のため息を吐いた。
「後ほどディアナを含めて話がしたい。家族を集めてくれ。」
白龍様がそう言うと、父は頷き
「揃いましたら、お声がけします。
ディアナはもう少し寝てなさいね。」
頭を撫でながら優しく話しかける。
了承すると、部屋から退室した。
「白龍様。質問してもいい?」
「討伐されない為に動いたら、白龍様が殺されるのを阻止出来るんじゃない?」
そう質問と称して提案してみた。
「それは解らぬ。だが、我があの聖女に討伐されるのは4回目だ。何故か消える手前で世界が戻る。」
「3回目までは、我も退屈だったから面白がった。だが、ディアナと出会った4回目は我は外を見に出た。何故討伐されるのか、気になったからだ⋯⋯。」
私は黙って話しを聞いた。
「そこには白龍に対する悪意しか無かった。湖は段々瘴気に犯され始めた。我はこの領地、この国を守護して来た。
だが、それすら悪だと⋯⋯。人の魂は真っ黒になっていた。」
だから⋯⋯諦めた。
白龍様の瞳は悲しみに揺れていた。
私はベットから降り、白龍様を抱きしめた。
「人を慈しんでいた白龍様は、人々に幻滅したのでしょう?
でも、私は前世から白龍様が大好きだったのよ?今いるこの世界で、私が1番白龍様を思っているわ。だから⋯⋯。消えないで⋯。」
最後は言葉になったか解らなかった。
だけど、人々を大切に守護して来た白龍様が人々に幻滅したまま消えるなんて嫌だった。
白龍様はディアナの頭を優しく撫で、抱きかかえると膝に乗せたまソファーへと座る。
「ディアナの言う前世と言う意味はなんですか?」優しく頭を撫でられながら問いかけてられた。
「今の私が生まれる前の私かな?
他の世界で別人として生きてたのね。その時の記憶を少し前に思い出したの。
前の私は龍を祀る神社の娘だったからか、龍がとても好きだったの。」
白龍様は理解したのか頷いた。
それでね⋯⋯と、龍の話をし始めた私は止まらなくなった。
「実家の祀られてる龍神様は、威厳があって少し怖い感じなの。
赤い龍と書いて赤龍様って呼ばれてるの。
怖いけどとても強く護られている感じで安心感があるのよ。」でね⋯⋯。
と、話を続けようとしたが、白龍がギュウギュウに強く力を込め抱きしめてきた。
「白龍様?」どうしたのか問いかけると。
「ディアナは、私を好きだと。前世から好きだと言ったのに。
本当はその赤龍が好きなのでは?私は2番目ですか?」
「許しませんよ。」
最後の言葉を伝えると胸が熱くなる。紋がある場所だ。
熱く苦しくなる私に。
「その痛みは、私の今の魂の痛みです。
ディアナが赤龍を話す時に私が感じた痛みですよ。」
ディアナはハッとして、白龍様を見つめる。白龍様は怒っているが、瞳は揺らいでいた。
(白龍様が泣きそう?)
「違うわっ。赤龍様は尊敬?する龍よ。私の世界の神様だもの。白龍様を敬っていた人々と同じよ?」
白龍様は
「解りました。」とだけ呟くと、私を抱きしめたまま目を閉じる。
私は(怒らせたのかな。龍の事になると喋り過ぎちゃうのよね⋯⋯。)反省した。
扉がノックされ執事が顔を出した。
「ディアナ様。皆様揃われました。一階の客間までお越し下さい。」
私は白龍に抱えられたまま、家族の待つ部屋まで運ばれる。
これから何を伝え、何を隠すかを必死に考えて行く。
抱きかかえられたまま、私と白龍様が客間に入る。
家族はその様に、一瞬驚く。
が、思考を切り替えて白龍様をソファーに案内する。
白龍様は勿論、私を膝に乗せて座るのだから家族は2度驚く⋯⋯。
相手は白龍様だ。スルーする事に決めたようだ。
「娘のディアナが申しますに、白龍様は誰かにより嵌められ冤罪を着せられた挙句、殺されると⋯⋯。そう予言を受けたと。」
「我は今回で5度目の生を生きている。」
家族は白龍様の言葉に驚く。
「前回は、聖女とパトリックが討伐に来た。その時に、何故かディアナが現れたのだ。
我にしか見えない様だったが、ディアナは我に生きて欲しい。そう懸命に伝えてくれたのだ。」
白龍様は、優しくディアナの頭を撫でるとキスを落とす。
「我は人に幻滅し、世界に飽きた⋯⋯。
消えてしまうつもりでいたのだ。」
家族は我が家の守護龍様が、嘆く姿に胸を痛めた。
「だが、ディアナに会った。生きよと言ってくれた。その姿も魂もとても輝いていた。」
白龍様は父の目を見て伝える。
「ディアナは我が番。この世界で唯一だ。」
家族は驚く事無く頷いた。
白龍様がディアナを大事に思うのを、短い時間で感じていたからだ。
「ディアナが我について伝えたい事があるようだ。」
視線がディアナに集まる。
「予言が多すぎて、少しずつ思い出してるの。先ず、聖女が主犯だけど⋯⋯。影で操ってるのは、王妃様なの。」
「「「⋯⋯。」」」
「ディ、ディアナ!本当なのか!?」
父は興奮状態だった。
「予言が真実ならば。で、話すけど⋯⋯。
第一王子は側室様の第一子で、二つ下の第二王子は王妃様の第一子よね。
王妃様は聖女を使い、第一王子に白龍討伐の指揮を執らせるの。
でもね、白龍を討伐した後に冤罪だったと真実を王妃様が広げるの。
責任を全て第一王子に押し付けて、断罪するのよ。」
家族はディアナが話す内容に驚愕している⋯⋯。
「ディアナ。一つ聞いてもいいか?」
父から問いかけられる。
「私達は何をしていたのだ?白龍様がそんな目に遭っていたのに、私達は何をしていたのか知りたいのだが⋯⋯。」
ディアナは物語を必死に思い出す。
でも、伯爵家の話が出てこない⋯⋯。
あ!
と、声が漏れた⋯⋯。
ディアナは一瞬だけ、兄に視線が行く。
「伯爵家の事は何も⋯⋯。」
兄は気が付いた⋯⋯。
自分に何かがあるのだと⋯⋯。
「ディアナ⋯⋯。もしかして、私が何か関係している?」
「⋯⋯。」
何も答えないディアナだが、白龍がその答えを言ってしまう。
「お主の顔は知っている。聖女と共に討伐に来ていたからな。」
「「「!!!!」」」
白龍様を護るべき家門が、討伐に参加したなど⋯⋯。信じられなかったのだ。
「嘘だ!!私がそんな事。白龍様を討伐するなど、ありえない!!」
兄は怒りを顕にし、叫んだ⋯⋯。
「我の過去の討伐は4回。全てにお主はいた。それが真実だ。」
白龍様は、兄の目を見て伝えた。
兄は顔面蒼白になり、呆然と宙を見ている。
過去4回も、白龍様を討伐した。
その事実を受け止められないのだった。
(家族は皆お人好しなのね。私や白龍様が嘘を言ってるとは思わないし⋯⋯。)
「お兄さま。」
ディアナが兄に声を掛けると、ゆっくりと視線を向けた。
「白龍様を大切に思う今のお兄さまが 本当のお兄さまだと思うの。
白龍様が討伐されるのは、約3年後。私とパトリックの結婚式の1週間前よっ⋯!!」
いきなり、顔を後ろに向けられた。
(痛いのよっ!)
犯人は白龍様だ。
「結婚式!?何故、結婚式をするのだ?」
(いやいや。婚約してたから、いつかは結婚するでしょ!?
それに、過去の話でしょ?!)
心で叫ぶが、意味はない。
「我の番なのに結婚など、許さない。」
神力が辺りを漂い始めた⋯⋯。
またしても、私の胸が熱くなり苦しくて息が出来ない⋯⋯。
苦しむ私を助けようと兄が動こうとするが、白龍様により体を神力で縛られた。
「ディアナ⋯⋯。何故私ではない者と結婚するのだ?私を1番だと言ったのは、やはり嘘なのだな⋯⋯。」
(違う!白龍様への思いは、嘘じゃないわ。伝えたいのに!苦しいから⋯⋯出来ないのよ⋯⋯。)
ディアナは息が出来なくなり、意識を手放そうとした瞬間、辺りの神力が一瞬でなくなった。
「ゴホッ!ゴホッ!」
(はぁー。息が⋯吸えた⋯⋯。)
「白龍よ。何故お主は、我の大切な魂を痛めつけようとしておるのだ!?」
私が顔を上げると、そこには燃える様な赤い髪に金色の瞳の男性がいた。
(和装⋯⋯?この雰囲気は⋯⋯。)
「赤龍様?」
私がその名を呼ぶと、白龍の神力が燃え上がるかの様に白龍を包んだ。
抱きとめられている私は神力を間近で受け、遂に意識を手放した。
崩れ落ちる瞬間見たのは、私を抱きかかえる赤い髪に金色の瞳⋯⋯。
「赤龍⋯様⋯⋯。」
私は安心して、意識を保つ事を放棄した。




