最終話
『・・・・・・こうして、この世界に再び現れた、旧政権の国王と王太子は、新政権の討伐隊によって、再び討伐されました。蒼人大使からの不正から始まった、今回の一連の騒動は、これでようやく全て片付いたとして、国民からの安堵の声が広がっています。一方で、今回の国王降霊と討伐に関して、特に反発の声などは全くなく、これはいかに旧政権の国民の支持が低かったことが・・・・・・』
先日の魔王蟻討伐の件が、全国に放送されたことで、一時混乱していたこの国も、徐々に安定を取り戻し始めていた。最もこの後すぐに、あの魔境と化した森の報道が、世間を再び騒がせることになるが。
「はあ・・・・・・何はともかく、これで一段落して、私も安心しました。やっぱり平和が一番ですね♫」
「心にもない事言うなよ・・・・・・本当は自分も決戦に出たかったとか思ってるくせに」
王宮にて、先程のテレビ報道を見て、いつものように国王と護衛が、そんな仲の良いやり取りを繰り広げていた。
「しかしこんな時なのに、光二さんは相変わらず忙しく・・・・・・こういうときぐらい、めでたくお祝いに出ればいいのに・・・・・・」
「あいつは今、蒼仁のやらかしたことで、天帝国に補償を搾り取るのに一生懸命だろ。まあ世の中金だし、あいつのやるとおりにしとけ」
「それにしも、ちょっと気になるんだけどさ・・・・・・」
この一件落着のムードの中、鹿太郎は一つ気になることを口にした。
「これでこれ以上、魔素人が増殖することはない流れになってるけど・・・・・・それじゃあの放火魔は何だったんだ?」
「放火魔? ああ・・・・・・」
鹿太郎が言ったのは、最初に滝子が凶行を予知した男。好意を持った女性に対し、善意で数々の嫌がらせを行った挙げ句、彼女の両親を斬殺して、家に火を放った男である。あの件で、鹿太郎は思うことがあった。
「あいつが凶行に走ったのは、蒼仁が物を運んでくるより、十日以上前だろ? つまりあいつは、蒼仁の持ち込んだ機材や薬とは、関係なく魔素人だったわけだけど・・・・・・」
「それがどうし・・・・・・ああ成る程、確かにな・・・・・・」
ここで他の二人も納得した。彼はかつての旧政権の洗脳対象とされた、当時の下級貴族の子弟ではなかった。彼の周りには、子供の頃から彼を知っている者も多く、それは確かである。
それにも関わらず、彼は蒼仁の密輸の前から、既に魔素人とかしていたのだというのだ。本人に聞けば、自分の思考がおかしくなったのは、凶行に走るほんの数日前だというのだ、これでは時系列的に色々と合わない。
「まあ・・・・・・奴ら以前から、仲間を増やす実験をしてたみたいだし、何人か成功した奴もいたんじゃないの?」
「そうなのでしょうね・・・・・・そもそも彼らが、具体的にどのような方法で、魔素人を増やしていたのかも、よく判っていないそうですが・・・・・・」
あの時蒼仁の持ち込んだ品物には、確かに魔素を増殖させる薬があった。だが旧政権がかつてしたような、耳から魔素を注入できるよう、魔素を加工するのに、必要な機材はなかった。
また押収した薬も、使用した分も含めて、本当にこれで全てだったのか、まだはっきりと確認されていない。今回の事件解決の背景にて、そんな心残りな部分が、一部存在していた。
王都内にある、とある役所にて。そこでは、これまで不真面目に働いていた一人の職員が、突如改心する素晴らしい出来事が起こっていた。
「ごぼぉ!?」
トイレに入った職員が、そこで待ち構えていた同僚に、突然洗礼を与えられた。同僚の口から吐き出され、アメーバのように不定型に動きながら出て来る、真っ黒な粘液が、その職員の口・鼻・耳穴に、一気に流れ込んでいく。
ある程度注ぎ込まれると、余分にはみ出た粘液が、同僚の体内に戻っていく。出された分の粘液を、全て体内に侵入された職員は、急にこれまでになく、清々しい顔で立ち上がった。
「目が覚めたか・・・・・・新しい同士よ」
「ああ、今までおかしかった俺の心が、一気に洗われたようだ。ありがとう、この俺に正しき道を教えてくれて!」
「ならば無用な言葉はいらないな・・・・・・お前がすべきことは判っているだろう!」
「判っている! すぐにでもここで担当している全ての人々の国税書類を改竄する! 法外な税金を取り立てられ、家も財産も全て失った人々は、きっと最高に幸せな気持ちで、一家心中してくれるはずだ!」
「うむ・・・・・・だがそれは大変な困難を極める道だ! 人々に安定して豊かな生活を送らせようという、非道極まりない政策を続ける新政府は、必ずこの善行を阻止しようとするだろう! これがバレれば、君も、そして君が救った人々も只では済まない! もしかしたらこの件に関わる者全て、一家郎党全てを奪われ、苦痛をかけられて殺されるかも知れない!」
「ああ、だが覚悟はできている! これから私が救う人々もきっと同じ気持ちだろう! 真の正義をこの世に知らしめるために貢献できるならば。全てを失い苦痛を死ぬという幸福を諦め、全てを失い苦痛をかけられて死ぬという耐え難き屈辱にも、きっと耐えてくれるはずだ!」
「ああ素晴らしき同士よ!」
突っ込み所満載なやりとりをして、互いの友情を確かめ合い抱擁する、感動的な場面である。
「だが我々の力ではまだこの世を変えるには足りない。蒼仁様がお与えくださった薬はまだある! これでもっと同士を増やし、そして皆で力を合わせて、この国を・・・・・・いや世界を変えなくては!」
ゴン!
その感動的な場面は、その場であっさりと終わりを告げる。いつの間にか入り込んできた紺と黄が、二人を殴り飛ばしたからである。浄化されて沈黙する二人の魔素人を見下ろし、紺は呆れながら黄に声を上げる。
「ねえ今の見た?」
「うん見た。こいつら自力で仲間を増やせるんだな。これはまた光二が可哀想だな……」
この報告を聞いて、また忙しくなるだろう国家中枢人物を思って、黄は心底同情した。
「でもどうすんだよ俺たち? 魔素人を全部始末するまでが、俺たちの仕事なのに、これじゃ永遠に仕事が終わらなくなるぞ?」
「いいんじゃないの終わらなくても? 何か目標があって生きていく方が、無限の人生に意味がある気がするし」
己が何者であるのかも判らなくなるほど生きて、しばし森の奥に引き籠もっていた二人。数多の世界を回り、多くの救済と破壊を繰り返した古き英雄達。だがこの国で、自分達に存在に意味が出たと、彼らは多少なり喜んでいた。
魔素人というこの国の、最も大きな問題が解決するのは、まだもう少し先の話。その脅威を救った二人の英雄は、その後もまた何かの生きる意味を求めて、何処へと立ち去るであろう。
ただ不思議なのは、彼らが活躍した場所には、何故か生態系に異変が起き、最終的には国土の大部分が魔境化した事実。その真相を知るものは、永遠に現れる者はいないだろう。




