17 ヒーロー協会からの招集
画面を表示してみると、それは一通のメールだった。
送信元は、ヒーロー協会本部。
「なんだろうか」
スクロールしながら内容を確認する。そこには今週の土曜日、朝の10時にヒーロー協会本部へ出頭するようにと書かれていた。一昨日、高架下で発生したダンジョン化と次元の向こう側について、直接情報収集を行うためらしい。
確かに報告は必要か。
「土曜日に協会に来るよう案内が届いた。どうやら、異世界の話を聞きたいようだぞ」
俺の言葉を聞いた瞬間、タブレットを操作していた陣内さんが、ピタリとタイピングの手を止めた。ボンヤリした目、しかしその瞳は鋭く俺を見つめる。
「質問。協会は兄のこと、知ってる?」
「え!? そうなの? 小柴くん」
「まあ、そうだな」
このやり取りで気付くとは、さすがデータ系能力者。予測も可能か。銀髪=俺と知っていなければ、この内容でメールのやり取りなんてないのだから。
「そうなんだあ」
「銀髪だとは言ってないが、ライブ配信を開始するということは報告してある」
小3のときにヒーローを撮影したいという申請に、高校からという条件を付けて協会が許可してくれたんだ。
俺の能力は変身のみだし、さすがに子供のときでは危ないからな。
ということを鳴神さんと陣内さん伝えた。
「それじゃあ小柴くんと銀髪さんのことは把握してるかあ」
「うん。推理の必要、ゼロ」
「そういうことだな。カグヤ、協会が未編集のデータが欲しいって」
「ほーい、USBメモリに入れとくね」
鳴神さんと陣内さんのスマホが鳴る。
「私たちにも招集がかかったみたい。ね? こよみちゃん」
「うん。現場にいた全員呼ばれてる」
まあ、そうなるか。
「あーあ、またウチだけカヤの外じゃん」
カグヤはまたお留守番だとブーたれる。
「だーめ。カグヤちゃんはまだ守られる年齢だからね」
「2年待つ」
うむ。それは俺も耐えた時間だ。
せめて中学のときから配信できていればなあ!
◆
土曜の朝。俺は予定より少し早めに、ヒーロー協会本部へとやって来た。指定された会議室に入ると、鳴神さんと陣内さんはすでに到着していた。
「え? 銀髪さん?」
俺の顔を見た鳴神さんが、驚く。
「銀髪、私たちとは別口のはず」
「そういえば……そうでしたね」
俺は向こう側の話をするために呼ばれたんだから、銀髪で来る必要はなかった。受付の人が「参加するのかな?」みたいな顔で、この会議室を教えてくれたのはそのせいだったか。
「こちらの会議にも参加されますか? 意見は多いほうがいいですし」
職員が参加を勧めてくる。
「どうしましょう? 向こう側の話のことも重要事項ですし、職員さんの予定もあるのでは?」
「こちらは構わんぞ。あとで銀髪さんだけ呼び出せばいいからな」
隣にいた幹部職員らしき男性が言う。
「ところで2人はキミのことを知っているのかい? 距離感が近いように思うが」
「ははは、バレました」
俺は苦笑しながら、鳴神さんと陣内さんを指さした。
「まあ、それだけ優秀な2人だったということだね。彼女の家族の事情も関係してくるから極秘にしておいてくれ」
「はい。分かりました」
「それも聞いた。私たちは理解している」
男性職員は満足そうに頷いた。
「では、銀髪さんには会議の途中で抜けてもらうことにしましょう。それでよろしいですか?」
「了解です。よろしくお願いします」
「動画は持って来てくれたかい? せっかくだからそれも使って会議を進めよう」
「どうぞ」
「ありがとう」
実際に見ながらやったほうが気付きもあるだろうしな。
俺たちがそう話し終えた頃、他のクラスのヒーローたちが続々と集まり始めた。俺たちの会話は誰にも聞かれずに済んだようだ。
そして始まった合同会議は、重苦しい空気の中で進められた。演壇に立った協会の職員が、あの日のデータを画面に映し出す。
「それでは、高架下で発生したダンジョン化の事案について聴取を行ないます。まず、ダンジョン化に際し、普段の裂け目の発生と違って、なにか異変や違いを感じたかたはいますか?」
重い沈黙が流れる中、陣内さんがすっと手を挙げた。
「私の解析では、戦闘が終わったあと、やっと気付けるか気付けないかというレベルだった。極めて微細な変化が地面にあった。
エネミーを倒した際、溶け込むように浸透した可能性あり。それが最終的に連鎖、ダンジョン化の原因になったと推測する」
「ふむ、ビーコンのような役割もあった可能性があるな」
幹部がメモを取る。
「現場に来た高知能個体エネミーが──」
「私もそう思います。意図的な仕込みの可能性──」
「通常の自然発生的な裂け目とは明らかに挙動が違うようですね」
研究員のような恰好をした職員も、他とは違うと感じたようだ。
「なるほど。貴重な意見だ。みんな、ありがとう」
「力ではなく、頭脳派だったということですね。ふんふん、だから私の発勁でも倒せたのでしょう」
全員から妙な顔で見られる。
「そこは……まあ、置いておこうか」
「今は彼女の戦闘力を計る会議ではありませんからね。私としては非常に気になるヒーローさんであることは間違いないので、色々と調べてみたい欲はありますが……今は忍耐の時間」
研究員さんが艶やかで舐めるような視線を向けてくる。俺は思わずキレッキレのポーズを取りそうになった。
危ない危ない。銀髪のマッチョは心のみの設定!
彼女も陣内さんのような分析タイプなのかもしれないな。
「では次に、ダンジョン化の前後で、出現したエネミーの強さや性質に差はあったのだろうか?」
幹部が全体を見回す。学生ヒーローたちは顔を見合わせ、首を横に振った。
「特に違いは感じませんでした。出現するエネミーの波は激しくなりましたが、個体としての能力値が急激に跳ね上がったという感じではありません」
鳴神さんが代表して答える。それに続いて、俺も手を挙げた。
「これは異世界で退治したエネミーにも、差は感じませんでしたね。向こう側にいた個体も、こちらの世界に出てくるものと根本的な性質は同じでした」
俺が当然のように発言すると、幹部が深く頷いた。
「ふむ、では銀髪さんには、個別に詳しく聴取したい項目がある。私に着いて来なさい。みんなは引き続き、気付いたことを話し合ってくれ」
「分かりました。ではみなさま、ごきげんよう」
俺は立ち上がり、上品な一礼をして見せた。すると、周りの席にいた他クラスのヒーローたちが、一斉に不満の声を漏らし始める。
「えー! ずるい! 私も銀髪さんの話聞きたいんですけど!」
「異世界ってどうなってたんですか!?」
口々に声を上げる彼女たち。その中で、鳴神さんと陣内さんも、なぜか「えー」と周囲に合わせてノリで残念そうな顔をして参加している。
実に演技派だな!
「アーカイブを見ていただければバッチリですよ! チャンネル登録、グッドボタン、よろしくお願いしますね。にっこり」
騒がしくなる会議室をなだめるように、幹部職員が苦笑しながら言った。
「あなたたちを叱る必要はないのでね」
「「「「あっ」」」」
学生ヒーローたちが一瞬で納得の声を上げた。
なるほど。銀髪は報告もせず単独で次元の向こう側に突入したから、これから上層部にめちゃくちゃ怒られる。という設定にしたわけだ。
そういう理由付けなら、周りに怪しまれることなく、簡単に俺だけを引っ張り出せるな。統括する側もさすがである!
くぅぅぅっ! さすがはヒーロー協会、大人の根回しというヤツか!
心の中でそう快哉を叫びながら、俺は職員に連れられて、奥の別室へと足を運ぶのだった。




